第三十四話 怪物へとなった瞬間
「どうする? 二度目の死に方を聞くか?」
「……はい」
空気が重い。
目の前にあるというのに、その空気が上手く吸えない。
気管が狭まっているような感覚がする。
「二度目は、枝に心臓を刳り貫かれた死んだ、と聞いた」
「聞いた?」
一度目は朧気ながらも自覚があったが、二度目は一瞬だった。
だから誰かの言葉から聞いて知っているだけだ。
その時に少しでも意識があれば、苦しんでいたと思う。
「一瞬だったから覚えていない。それで、あとから助けてくれた人から口伝で聞いたんだ。心臓を刳り貫かれていた、と」
「助けてくれた人はどなたなんですか?」
「ハイエルフだ」
本当はハイエルフのそのまた上、女王なんだが、そこは黙っておくべきだろう。
彼女にも口止めをされているし、話そうとしたら今度こそ心臓が止まりかねん。
「ハイエルフとは、その時より少し前に会ったことがあってな。偶然見つけて、その縁で私を蘇生してくれたんだ。ただ、1人の人間の心臓を作るとなると代償は大きくなる。生き続けたいなら、忠誠を誓ってほしいと言われた。一生では返せないほどの恩を貰った私は、恩返しという名の忠誠をその人に誓ったんだ」
「それで、心臓に枝が絡みついていても、動いているということなんですね」
「ああ」
どれくらいの時間を掛けて話したのだろうか?
今の時間帯は分からないが、少なくともあれだけ燃えていた火が消えているということは、相当な時間話していたのだろう。
「そこで最初に辿り着くわけだ。何故、木の中に入れたのか。それは、私が人と木の間の存在だからだ、と」
「なるほどねー」
疑問が晴れたことですっきりとした顔をしている。
「質問はあるか?」
「あ、あの……その後、メデューサを倒したんですか?」
「ああ」
さんざん弄ばれたことを相手にし返すように、奪われたところを引きちぎって引きちぎって、最後に首を落とした。
そこからだ。私が怪物へとなっていったのは。
「話は終わりだ。明日のために皆、寝ろ」
「君はどうするの?」
「私は見張りをする」
このまま寝付けるほど、冷静ではなかった。
語ったことでその時の気持ちと焦りが湧き上がってくる。
こんな状態で寝てしまっては、悪夢をみるだけだ。
ならば、起きていたほうが楽だ。別のことを考えることが出来る。
せっかくこちらに来たのだ。これからのことを考えたほう断然いい。
「あの、アーロさん」
「寝てなかったのか?」
皆が寝始めたころ、静かに私の隣に来て座った。
暗闇で顔は見えないが、何か聞きたそうな声をしている。
「あの時、水を欲しがっていたのもそれのせいなんですか?」
「……そうだな。人として栄養を取りたい時もあれば、木として栄養を取りたいときもある。あの時は木だった。困ったものだよ。どちらの性質も持っていると」
おそらくだが、船酔いと興奮した状態で戦闘した後に疲れが重なってあんな風になったのだろう。
3年前もそうだった。船には乗っていなかったが、まったく同じ状況だ。
幸いなのは、あの時とは違って誰も傷つけることなく抑えることが出来たこと。
それだけで成長したと思う。
前は自分の心の中にあるものがどういうものか、よくわかっていなかったから。
だから、仲間たちを傷つけてしまった。
「さぁ、寝ろ。明日に響くぞ」
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
私に体を預け、数分したら寝息を立て始めた。




