第三十二話 主人公の秘密 《後編》
「そのあとは、知っているんだったか?」
「いえ。最初会った時、アーロさんが1人でいたということしか」
昔を、といっても一か月も経っていないのだが、目線を左に向けながら思い出して、うんうんと頷いている。
「ああ、そうだった。そして、最初受けた依頼は、黒く飛び回る奴だった。私は特に嫌悪感はなかったが、リカロたちは嫌がって、いきなり自分が1人で退治するという事態にもなったな」
「ちょ、ちょっと待ってください……」
「想像はするなよ」
注意した途端、どこかへ行ったアレシア。
嗚咽した声が遠くで聞こえたから吐いたのだろう。
シルフは吐くことはなかったが、明らかに嫌な顔をしていた。
こういうところでも違いが見つかるのはいいな。
いろんな意味で。
「続き話しても大丈夫か? 無理そうなら寝るといい」
「だ、大丈夫です……」
明らかに顔が真っ青になっていたが、無理はしない方がいい。
彼女の様子を見ながら話すとしよう。
「それからリカロ達とどんどん依頼をこなすようになった。のだが、半月を過ぎたころからサボり始めるようになったんだ。私が知識を持っているということに胡坐をかいて、調べることもしなくなってな。1人に頼るなとさんざん言ったが、聞きはしない。それで愛想がついて自ら辞めることを決心した。そしてその辞めた日に君と会ったわけだ」
「何か、導かれているみたいですね」
「神という存在がもしいるのならば、そうかもな」
顔を少しだけ赤くしていた。
残念ながら私は信じていない。
もし、いるのだとしたらとっくの昔に神頼みしている。
「んで、それは?」
「銃といわれているものだ。二人は鍛冶屋で鉄の筒を見たことはあるか? それの未来の姿がこれというわけだ」
今日も使うことはなかったが、毎日怠らず点検をしなくては。
いざ、使おうと思ったときに使えないのでは意味がないからな。
「それってなんなの?」
「二人からすればただの筒にしか見えないだろうが、これも立派な武器だ。この穴の中に弾と呼ばれる金属で作ったものを入れ、火薬を爆発させて飛ばすんだ」
排莢口を指差して教えてはいるが、今でもたまに怖く感じる。
昔は指を挟むこともあったな。懐かしい話だ。
「どれくらいの威力なの?」
「当たる場所によって変化するから何とも言えないが、少なくとも、頭に当たれば一撃で死ぬほど、だな」
「い、一撃」
ゴブリンに囚われていた1人の女性が驚いて声を上げた。
私の話に夢中になっていた2人が、目を見開いて一斉に見たことで、恥ずかしさで布に顔をうずめてしまった。
「調子はどうだ? って聞くのはおかしいか。それ食べられそうか?」
「ええ、なんとか」
「なら食べるといい」
もう1人の方は疲れ切っているのかぐっすりと寝ている。
もしかしたら途中で起きるかもしれない。
その時のために今日は寝ずに見張りをしよう。
「当たる場所とは?」
「脳、心臓、肺、胃、肝臓なんかだな。これが脳と心臓に当たれば人は即死する。だが、他の所に当たって死なない者もいることは確かだ」
致命傷となる場所を1つずつ指をさして知らせ、1つの弾丸を手に取り、見せた。
「そんな小さなもので本当に死ぬの?」
「これ単体では死なないだろうな。そうだな。分かりやすく例えるならば、ブルの突進力と同じくらいの速さでこいつが飛んでいくとでも思ってくれればいい。その速さのまま人に向かって撃てば……。後はどうなるか想像できるな?」
これも下手に扱えないな。仕舞っておこう。
想像してしまったのか、聞いていた3人が震えている。
そうしろと言ったのは私なのだがな。m/sなど言っても分からんだろうし。
「それが未来の武器?」
「ああ。今ある剣や魔法の杖、ハンマーなんかは無くなり、ほぼこれだけとなっている」
「わ、私のこの槍は?」
「競技としては残っているが、実戦では使われない」
期待した目で見ていたが、ないとわかると肩を落として見るからに落ち込んだ。完全に無くなったというわけではないから、まだいい方だろう?
「競技ってなんなの?」
「模擬戦闘といったところだな。使われはするが、殺し合うためではなく、ただ勝ち負けを決めるものといった方がもっとわかりやすいだろう」
私の言葉に希望が見えたといわんばかりに目を輝かせて、顔を勢いよく上げた。
少しずつアレシアがどういう反応をするかを予想するのが楽しくなってきた気がする。
本人には言わんが。
「なるほどねー。確かにそれだと平和そう」
「まぁ、そうだな」
未来を想像しているのだろうが、私の世界では魔法というものはなかったからこれが使われていただけだ。が、こっちの未来がどうなるかは分からんぞ。
「ここが僕の一番聞きたかったところ。なんで木の中に入れたのか、だよ」
「わ、私も!」
「どういうこと?」
三者三様の言葉が返ってくる。
1人は意識が朦朧としていたから分からないのは仕方ない。
それも話すべきかと口を開いたら、代わりに説明していた。
少し疲れてしまっていたし、休憩しよう。
その間に冷えてしまった肉も食べるか。
「な、なんで皆怖がらないの……」
説明された一人が私を見ながら怯えている。それが当たり前の感覚だ。
が、鈍っていたアレシアが「あ!」と、いいながら今更驚いた顔をしている。
少し遅いのではないか?
「そういえばそうですよ! なんで驚かなかったんだろう」
「私といると常に驚くことが多いから自然と受け入れたのではないか?」
「なるほど」
納得した顔をされたが、そこで頷かないでくれ。
結構適当に言ったのだが。
だが、言い得て妙だと思うのは何故だろうか。
自分で言った言葉なのにしっくりとくる理由だった気がする。




