第二十九話 正体の片鱗
「終わった?」
「ああ」
強制的に作った暗闇を見ていたせいか、日差しがまぶしい。
だが、安心もする。
「ほら、出ておいでよ」
木の陰に隠れている。
「……怪我はないか、アレシア」
言葉は話さなかったが、こくりと頷いた。
「それならいい」
そういえば、アレシアと一緒に行ったパーティーはどこに行ったんだ? 探さないとな。
依頼内容ではなかったが、こいつを受け取ってくれるだろうか?
とりあえず、カトブレパスのもう片方の目を潰して、口を縄で塞がなければ。
また植物が枯れるかもしれんし、毒を吐く可能性もあるからな。
これでもう動くことはないだろ。
さて、本来の目的であるゴブリン退治に取り掛かるとしよう。砦を探さなければ。
あれか? デカい木に取り込まれているな。
それなら一つできることがある。
あまりやりたくないのだがな。
「シルフ。彼女を見守っていてくれないか? そこの砦に行ってくる。何もなければすぐ戻ってくる」
「わかった」
もしだ。もし誰か囚われていたら助けて戻ってこよう。
本当はなにもないのが一番だが。
「樹よ。少し協力して欲しいことがある。この砦の中を調べたい。養分は足りないかもしれないが、血を与える」
砦にはまだ入らない。
その前にしなければならないこともある。
あまり使いたくないが、安全だと確証を得るまではこれしか方法がない。
「誰かと思えば、生まれてまだ若い苗じゃの」
「ああ。その若いのが、あなたの中に入ることを許可してほしい」
話しかけた途端、風が吹いていないのにも関わらず、周りの木が激しく揺れ始めた。
人に性格があるように木にも性格がある。
この木が樹齢何年かは分からない。だが、話し方からして温厚な性格を持っているのだけは確かだ。
「好きに入るといい」
「感謝する」
この木はないが、たまに私を取り込もうとする木がいるから、毎回聞かないといけないのが少し大変だ。
「声が聞こえる。向こうか」
木の中に入ってから5分程。
やかましい音が少しずつ聞こえてくる。お祭りでもしているのだろうか?
どんなものかは想像したくないが。
「なんだ、これ……」
元の世界でゴブリンといえば、家に棲みついていたずらをするだけの妖精だと、云われていたはずなのだが、ここでは違った。
守銭奴であることに変わりはないが、女性を慰み者として扱っている。
そいつらの周りには男の死体もあった。たぶん、あいつらがアレシアと一緒に行った仲間たちだろう。
どういう殺され方をしたのかは分からないが、こんなところに骨を埋めるわけにもいかない。
連れて帰ることは難しいだろう。ならば、せめてどこかで弔ってやらなければ。
それにしても、あまりにも元の世界と違い過ぎて吐き気すら覚える。
戦わずしてあいつらから離す方法はないだろうか。
「困っておるようじゃの、若いの」
驚いた。まさか人の姿で隣に出てくるとは。
会話できることは知っていたが、人型になるなんて思いもしない。
こういうことがあるから、私は冒険者としてギルドに入ったのだ。元の世界との違いを探す為に。
他にも理由はあるのだが、話すことはできない。
樹の精霊は仙人の姿をしていた。
話し方からしてそうだろうとは予想していたが、想像通りだった。
「この砦の全体に根が張っておる。それで人の子らを助けることもできるぞ」
「願ってもない申し出だ。だが、それへの見返りは?」
「おぬしの血を一滴貰いたい。久しぶりに若いのを見て、元気になりたくての」
「分かった。あいつらを助けた後に分け与える」
交渉は成立。
そういうと樹の仙人は消えていった。
準備に取り掛かっているのだろう。
いくら仙人とはいえ、いきなり動かすことは……。
「ほれ、若いの。助ける番だぞ」
出来たのか。いや、呆けている場合ではないな。急がねば。
気付かれないように一体ずつ。確実に喉を切り裂いていく。
全部で何体いたのだろうか? 10以上はくだらない。
「最後に、こいつらを外にだしてやりたい」
「では、その後に」
「ああ」
布は男の死体から取ろう。ちょうど二枚ある。
俵担ぎで申し訳ないが、一度に運ぶにはこれの方が効率がいい。
「助かった。約束の血だ」
坂を上ったり、太く地面に張っている根を乗り越え、ようやく外に出れた。
とりあえず、女性たちをいったん下ろさなければ。
「おお……!少しだけ若返ったような気分だ」
「それはよかった」
手首と肘の内側にある窪みの間を切って1、2適分け与えると、歓喜した声が響いた。
樹の仙人のおかげで特に疲れもなく、倒すことが出来たが、これからもそうなるとは限らない。
次は1人でも対処できるようにならなければ。
どうも、作者です。
二十九話を見てくださりありがとうございます。
引き続き、お楽しみください




