第二十八話 ゴブリン退治?
「どこへ行った?」
あれから3日経ち、治療院から退院することが出来た。それからギルドで待っていたが、アレシアは私の前に姿を現さなかった。きついことを言ってしまったから厭きられてしまったのだろうか。
ともかく、探してみるしかない。もしかすると、休んでいる間にギルドに来ていたかもしれない。
「ゴブリン退治の依頼を受けに3日前にここに来ましたよ。私は危ないからと止めたのですが、どうしても行きたい、と言って他のパーティーと一緒に行きましたけど、何が遭ったんですか? すごく泣きそうな顔をしていましたけど」
「……棺桶に片足突っ込んだ状態になったような危ない思考になっていた。それを持つなって言って叱ったんだ。その後、無言で病室から出ていった。なぁ、カリナ。私は何か間違えてしまったのだろうか? 分からないんだ。どうするべきなのか」
あれから3日間、ずっと考えていたが答えは思いつかなかった。いったい世の中の親はどうやってしているんだろうか。
優しく教えているのだろうか。それとも、私のように叱っているのだろうか?
「私から何もいえません……。けれど、その言葉はアレシアさんを想ってのことだったんですよね」
「ああ。だが、それが伝わっていなければ、意味がない」
どれだけ言おうと理解していなければ言っていないのと同じだと思っている。
「それでしたらちゃんと伝わっていると思いますよ。だって彼女、とても素直ですから」
「ああ、そこは十分なほど知っている」
「では、助けに行ってあげてくださいアーロさん」
心に響かなくていい。理解してくれればいい。
アレシアは、素直だ。そこが彼女の良いところでもある。そこをもっと伸ばしてほしいとすら思っている。……そうなるには、私次第なのか?
いや、強制してはいけないな。大人として導いていかなければならないんだ。
それが私の役目でもある。
「アレシアはどこへ行った?」
「ここから東にある古代の砦に行きましたよ」
地図を貰い、ギルドを抜けるとその方向へと向かう。間に合えばいいが。
あれからどれほど走ったのだろうか。ギルドを出た時は朝だった風景が薄暗くなり始めている。
肺が痛くなり、足が重い。それでも走るのを止めてはいけない。そんな気がするのだ。
会ったら何て言うべきなのか。安心させる? それとも、一人で行ったことを怒る? 分からない。
道が二又に分かれている。このどちらかを間違えれば、取り返しのつかないことになる。
どちらだ? アレシアはどちらの方向に行った。
神経を研ぎ済ませろ。音をよく聞け。匂いも重要な証拠だ。足跡も。
「新しい足跡……」
いくつもあるが、踏まれて間もない足跡を探せ。この中には大きいのもあるが、小さいものもある。どれが彼女のだ?
「こっちだよ」
シルフか。ついてきていたのか? 今は何もいうべきではない。ただ、来てくれたことに感謝するべきだ。小さい体で、暗くなりつつある道をほんのりと照らしながら黙って示される方向へついて行く。
いくばくか走っていく中で少しずつ不安が心の中に募っていった。所々、木や草が死んでいる。
一か所から周りが枯れることはあっても、間隔を置いてこうなっているのは何故だ。
何か嫌な予感がする。
「アレシア!」
ゴブリン……ではない。あれは……。
「あ、あーろさん……」
「目を閉じろ! そして、後ろに少しずつ下がれ!」
ヌ―のような姿をして、頭を常に下に向けているモンスター。
そいつの周りの植物が死滅している。ということから考えれるのは
カトブレパス。
そいつに違いない。なら私もシルフも気を付けなければ。毒に多少耐性があるとはいっても、こちらの分が悪いことに変わりはない。
「シルフ。あいつの目を絶対に見るな。死ぬぞ」
「わかった。僕は彼女を安全なところに誘導しておくよ」
「頼む」
目を瞑り、シルフがアレシアを誘導している声が聞こえる。とりあえずはこれで彼女が死ぬことはないだろう。シルフも遠くに行ったことで、奴と一対一となる。
さて、どうするか。目を見ていけないのならば、気配を探って戦うしかない。
遠距離狙撃をすることはもう諦めている。考えも無しに突っ込んでいった私が悪い。しかし、突撃用のアサルトも弾の補充が出来ていない。
仕方ない。ナイフで対処するか。
腹に響く声で奴が鳴いた。
カトブレパスの動きは緩慢だが、今の声で私の動きを止めて突っ込んでくる気だろう。
これで奴の動きが早かったら、突撃されて致命傷になっていたな。
動けない私目掛けて、突進してくる奴をどうにか鞭を打って間一髪で避けることができたが、ここに来るまでの疲労が半端ない。早めに終わらせなければ、こちらが死ぬ。
奴が吐く息には毒が含まれている。なるべく吸わないようにして、少しずつ体に傷をつけていくしかないようだ。
「ふう」
思った以上に神経を使う。奴の気配は分かっても吐く息までは分かりずらい。
タイミング悪く吐いた息を吸ってしまうと動けなくなるかもしれない。気を付けなくては。
奴の気配に息遣い。それと、自分の息にも。
「どうするべきか……」
いったん気配を消すか。奴が息を吐き出し終わったタイミングで、こちらも息を吐く。一分一秒でも油断してはならない。
それを怠れば死ぬ。
「喉を切り裂くのは後だ。最初に目を潰す」
植物が枯れているであろう範囲外へと離れ、息を整える。まだ目を開けてはならない。
一発勝負だな。ナイフを投げたあと、すぐ向かうか。息を整えたら始めよう。
「ふぅー」
カトブレパスが息を吐き出したと同時に息を止める。チャンスは今しかない。
自分の頭の位置と地面との差、カトブレパスの頭の位置を頭の中で計算しながら投げて数秒後、野太い声が全体に響く。目に当たったのだろうか。
確認することは出来ないが、気配を辿り、暴れている奴から距離を取りつつ二本目のナイフを太ももに付けているホルダーから取り出す。
静まるまで気配を完全に消す。
暴れまわった音は消えたが、地面を片足で蹴り、鼻息が荒くさせている音が聞こえる。私を見つけ次第突っ込んでくる。
血が被らないように、目を見ないように背中側に回り、喉に一筋。
先程まで暴れていた気配が消え、今は静まり返っている。
どうも、作者です。
二十八話を見てくださりありがとうございます。
引き続き、お楽しみください




