第二十六話 二度目の休日
「船酔いと栄養失調だね」
あれから気を失ったらしい。
話を聞くと、豪快に後ろに倒れたとのことだった。その時に打ち所が悪く、頭から血も出たとか。
どうりで頭痛が続いているわけだ。
ここにきてからこんなことばかりな気がする。
休めと言われているのだろうか?
「あれからちゃんと休養していたかい?」
「休養という休養はしていない気がする」
違約金の話をしてからそのまま依頼に向かったし、その後にストレスがかかるようなこともあったからそれが重なって酔ったのかもしれんな。
そうだと思おう。
「なら、今日から三日ちゃんと休むこと。というより、ここに入院だよ」
「それじゃ……」
「それ以上動くと生活に支障をきたすよ。依頼にもね」
「それは、困るな」
「休むんだよ。いいね」
「分かった」
治療師とはいっても医者であることに変わりはない。
ここでの私の立場は低い。素直に従う方が懸命だな。
外を歩くのもダメそうだな。仕方ない。ベッドの上で出来ることを探そう。
「ア゛ーロさ゛ーん゛」
「待て、そのまま近づくな。鼻をかんでから近づいてくれ」
「む゛りです゛ー!」
「うっ」
涙と鼻水でいっぱいの顔のまま、勢いよく私の胸に飛び込んできたせいで、鳩尾が……!
鍛えていたおかげで気絶はしなかったが、急所を石頭で図突かれるとさすがの私でも痛い。
「死んでしまったのかと!」
「……今ので、死にかけた」
「死んじゃダメです!」
「ゆ、揺らすな……!」
まだまだ怖がりとはいえ、重い槍を持っているだけの力はあるようだ。
アレシアよりも倍ある私の体を揺らしているのだから。
なんて悠長に語ってはいるが、また吐きそうだ。
とりあえず、誰か助けてくれ……。
「病人を激しく揺すってはいけませんよ、アレシアさん」
「すみません……」
あれだけ騒げばそりゃ来るよな。
止めてくれたから良かったものの、来なかったら確実に吐いていた。
「調子はどうですか?」
「若干目が回っているが、しばらくしたら落ち着くと思う。それよりも、水が飲みたい」
異様に喉が渇く。あの時のように暴走しなければいいのだが。
「すぐ持ってきますね」
「出来れば、木のたらいいっぱいの水を」
「そんなに飲むんですか?」
「それでも足りないくらいだ」
話せば話すほど喉が渇いていく。これ以上は喉を痛めるな。
「これくらいで足りますか?」
しばらくして、波々と注がれたたらいを零さないように持ってきてくれた。
「ケホケホッ。あり、がとう。それで一時の間、渇きが、癒せ、る」
「そんなに喉乾いてたんですか?」
「ああ」
零さないように飲もう。
杯で飲めばいいのだが、それを待つ時間すら惜しい。
これから直接飲むのは初めてだが、上手くいくだろうか。
「なんだ」
「凄い勢いで減りますね……」
アレシアと看護婦が驚いている。そうだろうとは思う。
人が一度に飲める量は、コップ一杯150~250ml程度だ。
それの1.5倍の量を一気に飲んでいるのだから驚くのは当然だ。
異常なのは自覚しているが、だからって、一歩引いて見るのはどうかと思う。
「っはぁ……」
「苦しくないんですか」
「いや、まったく」
ようやく喉が潤い始めてきた。これで半日は保つ。
「昼食持ってきますね」
「ああ」
どうも、作者です。
二十六話を見てくださりありがとうございます。
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