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第二十五話 不安

「そこまでだよ、アーロ」

「邪魔をするか、シルフ」


 せっかく気持ちよくなってきたというのに、俺の前に姿を現すとは、いい度胸だな。


「それ以上行くと、本当に人でいられなくなるよ」

「何を言う。俺はすでに人ではない」

「君の中にいる人すらも否定するってことでいいのかい?」


 俺の中にいる人? そんなもの……。


 いったい、誰だ。

 髪が長い女なんて俺は知らない。帽子を被った男も。


 何故、俺の名を言う。俺は人じゃない。

 触るな。

 笑顔を向けるな。

 話しかけるな! 


 あんたらのことなんざ、知らねぇ!


「思い出したかい? その人たちのこと」

「……知らない」

「そう? 一人は知っているはずだよ。君と僕とその人はお互い深い関係にあるからね」

「俺は……私は……」


 頭がボーっとする。何も、考えられない。考えたくない。



 このままいっそ……。



「アーロさん、朝ですよ」


 肩を叩かれ、心臓が飛び出るかと思った。

 待て。私はいつ船の中に移動して、寝たんだ。覚えていない。

 あれから一体何が起きた? 


 気分が(たかぶ)って、護衛の男達をどうした? 

 港には死体も血の跡もない。無意識に海に投げ捨てた?


「おはよう。体の調子はどう?」

「なんともない。あいつらは?」

「いなくなったよ。でも安心して、死んだわけじゃない。あの後逃げていったよ」

「……そうか」


 死んでいないのならよかった。

 何かやらかしてしまったのかと不安になったが、それならいい。


 しかし、やらかしたな。3年前と同じことをしてしまった。

 今回怪我人がいなかったのが幸いだが、もし、負わせてでもしていたらと思うと身の毛がよだつ。


「いったい何が遭ったんです?」

「昨晩、賊に襲われてな。暗くて顔は見えなかったが、なんとか怪我せずに済んだことに安心している」


 突然いなくなった護衛二人に、アレシアと船員たちが不思議そうにしている。


「まったく気が付かなかったです」

「気付かなくてよかったよ。その、いろいろとな」


 本当、寝ていてくれてよかった。

 あんな姿を見られたら、今度こそ離れていってしまう。


 船が出港する前にいろいろと聞かれたが、知らないふりをした。

 商人がやたら優しくしてくるが、その行動に心の中の不安が少しずつ(つの)ってくる。


 この先何もなければいいが。


「待て、今度こそ吐く……」

「し、深呼吸を!」

「むり……」


 一生、船に乗らないとここで決めた。何があろうと船に乗ってやるものか。



 あれから事故も、セイレーンに会うことなく戻ってきて、帰り際に完了した証明書を貰った。

 ようやく安定した陸に足を付けることが出来たが、これほど土が恋しくなるとは思わなかった。


 そこからギルドへ歩いていたのだが、それでも酔いは治まらなかった。

 やたらアレシアやシルフが心配していたから、相当顔色が悪いのだろう。

 街の人も二度見していたしな。



「その、お疲れ様です……。ポーション飲みます?」

「いや、いい……。それを飲む気力もない」


 カウンターに手を置いておかないと、今にも倒れそうだ。

 それに、頭痛も治まらない。今日は、休んだ方がいいかもな。


「アレシア。私はしばらく休ませてもらうが、君はどうする?」


 立っているのもきつくなってきた。

 どこかに椅子があれば、少しでも体力を温存しておけるのだが。


「私も休みます」

「そうか。なら、報告を頼んでいいか? それまでは付き合う」

「無理してはダメですよ?」

「ああ」


 鞄から証明書を取り出し、受付嬢に渡す。


「セイレーン討伐と護衛は完了しました。それと、何故かは分からないんですが、臨時収入が1,450エル入りました」

「討伐の証は、アーロさんが持っている物ですね。商人の方からの護衛任務完了の証明ありますね。はい、確かに確認しました」


 だめだ。音が聞こえにくくなっている。

 ここまで気分が悪くなるのは久しぶりな気がする。

 受付嬢とアレシアの声が遠くに聞こえる。


 目の前がまっくらだ。


どうも、作者です。

二十五話を見てくださりありがとうございます。

引き続き、お楽しみください

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