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第二十四話 怪物へなりかける

「それ、ちょうだい」

「ああ」


 小さいままだが、姿は見えるようにしている。

 私にはどちらでも見えるが、アレシアはわからないからその為だ。


「うーん……」


 何故か微妙な顔をしている。

 味がお気に召さなかったのか?


「それ、眠たくなる薬が入ってるね。僕と君は平気だけど彼女には効いているみたい」

「なんだと」


 普通に美味いと思っていたのだが、まさか睡眠薬が入っていたとは。

 肉の食い過ぎで味が分からなくなっていたのか? 

 これを盛ったのは店の主人だと考えているが、早計過ぎるか。


 どちらにせよ、すぐに犯人は分かる。


「来たよ」

「援護は任せた。くれぐれも怪我はさせないようにしてくれ」

「いいの? 襲ってきてるんだよ」

「後のことを考えてな」

「ふーん」


 何か変な納得をされてしまったが、これから先に影響してしまっては意味がない。

 冒険者は信用が一番だとこの一か月で学んだ。

 信用を無くせば、依頼を受けるのが難しくなる。



 昇級すらも。



「なぜ、起きている!」

「さてな。私を殺した後に解明するといい。死ぬ気はさらさらないが」


 屈強な男が3人。ぽっちゃりとした人物が1人。

 月の光だけでは相手の顔は見えないが、少なくとも2人がどんな武器を持っているかは分かる。

 鉈と小型ナイフだ。

 もう一人は形だけで想像するしかないが、おそらくこん棒だろう。


「来い。相手してやろう」


 屈強な男3人。

 例え、それが武器を持っていたとしても、モンスターに比べればかわいいもんだ。


 船から陸へ飛び上ろうととするところを狙うか。

 確かに、上る時は一瞬だけ視線が外れるからな。いい手だ。


 だが、私には効かない。

 力強く振り下ろしているこん棒をわざと肩に受けよう。

 これだけでも威圧出来る。ほらな、相手は怯んだ。


 痛み? そんなものとっくの昔に吹っ飛んだ。


 こん棒を強く掴めれば、お互い動けない。


 鉈を持ったやつは、殺す気でいっぱいだな。

 目が血走っている。そういう時は決まって……。


「な!」


 首を狙う。


 喉すれすれ。当たってはいない。一歩後ろに引けば最小限に避けられる。

 肩に固定されているから動けないなどと思ったか? 経験が足りないな。


 掴んだままでいてくれよ。今からあんたごと振り回すからな。


「ひぃ!」


 何かを察したか。手を離して尻もちをついた。

 振り下ろす鉈の男を殴ってもいいが、ひたすら防御に使った方がいいだろう。

 こん棒を海に投げ捨てるのは後でだ。


「運がいいな」


 防御して気付いたが、このこん棒使って間もない。

 なら、こいつで鉈と小型ナイフを無効化すればいい。

 なに。手持ちの部分を少し強く当てればいいだけだ。


 ナイフを持った男と同時に攻めてくる。


 鉈の男は袈裟斬りに。

 ナイフの男は腹を狙っている。


 上手く連携が取れているな。こちらは少しよけづらい。

 避けにくいが、当たるほどでもない。

 鉈の峰部分を強く打つ。


 少しは時間稼ぎに……。


「しびれた手でそのま来るか」


 はならないか。裏返して振り上げるとは。なら、下からはじき飛ばす。

 好機。かと思ったが、突っ込んでくるナイフをどうにかしなくては。


 多少の傷はやむを得ない。

 脇固めをして、鳩尾に膝蹴り。

 これでしばらくは動けんだろう。


「素手のあんたは一対一がお好みか?」


 ずっとその場に立ったまま。何もしてこない奴が一人。

 突っ込んで来てくれた方が楽なのだがな。


「それとも、ただ勇気がないだけか?」


 煽る。煽りまくる。

 これで来ないなら、私に恐れているか、対抗策を練っているか。

 どちらだろうな。


「あ……」


 なんだ。ただのビビりか。まぁいい。頭の隅において、警戒しておこう。

 先程から乱雑に振り回している男の対処が先だ。

 必死なようだが、当たるわけない。こいつらよりも動きが早いモンスターはごまんといる。


「たかがブロンズに、なぜ当たらねぇ」

「それを知っているということは、あんたは船に乗っていた護衛の一人か」


 息を切らしながらも、振り続けている。


 怪我を追わせないように対処するのは難しいな。

 ひたすら峰に当てるしかなさそうだ。

 こん棒で鉈の相手をし続ければこちらの武器が斬れてしまう。


 当たらないと思って少し動きを変えたか。そうだな。同じ動きばかりでは私も飽きる。

 次は突きまくるか。いや、体全体を使って、鉈を振り回すか。速度や距離を伸びる。いい手だ。


 参考にしよう。

 次は鉈を振り下ろしては振り上げてか。


「な、何故だ!」

「教えてやろうか」


 奴が突き出した肘の内側に強く打ち込む。折れるほどではないぞ。しびれる程度だ。

 落とした鉈は危険だ。蹴って遠くにやらんとな。また取られると厄介だ。


 動けない相手の耳を掴み、グイっと引き寄せる。痛いか? だろうな。


「教えてやる。ただ単純に経験の差だ。ブロンズとかカッパーとか冒険者としての経験ではない。どれだけ頭を使って命を削ってきたか。長い年月を掛けて、どれだけ怪物へとなったか、だ。人としての温情? いいや。奪われたことへの怒り? 違うね。無くしたことへの絶望? これも違う。死への恐怖? 違う違う。どれも必要ないのさ。ただただ相手を壊す。それの経験の差だ」


 嗚呼。楽しくなってきた。今すぐにでも目の前の男を壊したい。壊して壊して毀しまくる。

 それほどの快感はない。


「気が変わった。なるべく怪我させずに終わらそうと思ったが、気分が高揚してきた。今からお前を(こわ)す。どれだけ耐えてくれるか楽しみだ」

「ひ、ひぃ!」


 逃げるな、逃げるな。まだ何もしちゃいねぇよ。


「離してくれぇ!」

「叫ぶなよ。寝ている人が起きてしまうだろ。安らかに眠らせておけよ」


 口に手を当てれば、そこから声が漏れるが、どうせ誰にも聞こえやしない。

 おっと、涙を流したか。いいな。恐怖に怯えた顔を見るのは好きだ。

 何も出来ないと諦め、絶望でいっぱいになった顔は。

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