第二十二話 セイレーン討伐 開始
「皆さん、警戒をして下さい! 来ました!」
「……アレシア、これを付けろ」
「これって」
私は眠った方がいいかもしれん。
その代わり、彼女にイヤーマフを付けてもらおう。
それで対処が出来れば生き残る確率も高くなる。
「み、みなさん! 落ち着いてください!」
アレシアとシルフ以外が魅了されてしまったか。
セイレーンのもとへ行こうとしている。
待て。何故私は他の者たちと同じように正気を失っていない?
奴らは船の周りを飛びまわり、歌声が私の耳にも届いている。
今まで聞いたことのないきれいな歌声だと思う。
それなのに効いていないとは。チャンスだな。
効いていないのならば、やらなければならないことがある。
セイレーンが死ぬ前にだ。
「アーロさん! 船員の方たちが!」
「止められるか?」
「な、何とか!」
そうは言ってもそろそろ限界に近いだろう。
どんどん海の方へと押されている。
「シルフ。落ちそうな船員たちを風で戻してくれ。怪我させない程度に」
「わかった」
今にも落ちそうな者が、風の力でそっと戻されていく姿はなかなか見ないな。
さて、酔いが少しだけ治まってきたし、セイレーンと対峙しよう。
「証拠としてその体貰うぞ」
サバイバルナイフではない銀製の小型ナイフを鞄から取り出すと、歌を止めて逃げ出そうとし始めた。
何か異様な雰囲気でも出しているのか? この銀ナイフから。特に見えはしないが。
まぁいい。海に行かれる前に喉を切り裂こう。
「歌が聞こえなくなるのは残念だが、こちらも仕事でな」
安物の紐でわっかを作り、首目掛けて投げるとカウボーイなんかを想像してしまうな。
あれはアメリカ西部のものだと思われているが、正しくはヨーロッパとインディアンの文化が融合したものだ。
「先程とは違って、まさにモンスターって感じの声だな」
捕まえて引き寄せた途端、綺麗な声はどこかにいってしまったかのように金切り声を上げて、羽をばたつかせている。
すぐ逃げ出そうとする相手の腕を自分の脇にいれて、動かれないように止める、と。
プロレスというものはあまり見ないのだが、これは便利だと思って覚えていたのが役に立ったな。
喉を横一文字に斬ると、血が海に向かって噴き出している。
他のものたちも続くように海の上で死んでいく。
海の中で倒れるのではないのか?
史実だと歌声を聞いた者の中に生きている人がいれば、海に身投げするとなっていたはずだが。
ここでも少しだけ違うのか。
これから先、微妙に違いが出てきて、混乱しそうだな。
「アーロさんって、たまに強引ですよね」
「時には必要だからな」
死体を見つめながらアレシアの問いに答える。
セイレーンをこんなに近くで見たのは初めてだな。
羽はトンビのように茶色いが、こちらの方が少しばかり大きいな。
「調子はどうだ?」
うめき声を上げて、頭を抑えながらゆっくりと起き上がっている。
何人かはまだ気絶しているが、この船を動かす人数は最低限いるな。
「俺たち……」
「奴らの歌声に魅了されて、海の中に死にに行こうとしてたぞ」
「じゃ、じゃあそのセイレーンは」
「倒した。証拠はこれだ」
死体を見せると、驚いた顔をしている。
所詮ブロンズだと思っていたのだろうか?
慣れたものだから別に怒りはしないが、あれか。似た者同士は惹かれ合うというやつか。
依頼人も似たような顔をしていたからな。




