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第十五話 ひと時の休日

 あれから意識が戻り、気が付いたらどこかのベッドで寝ていた。

 目が覚めた時、涙でぐちゃぐちゃにしたアレシアの顔があった。


「アーロさん!」

「……あれ、しあ」

「よかった! 意識が戻ったんですね! アーロさん、あれから三日寝ていたんですよ!」


 息は……。通常通りに戻っている。


「襲われたその日、フードを被った旅人さんが私たちを見つけてくれて、ここまで運んできてくれたんです」


 消毒液の匂い……。ここは、治療院か。


「……そう、か。それなら、感謝、しなければな」

「私からも言っておきましたが、また会いに行こうと思います。その時に」

「……ああ」


 生きて戻ってこれたのか。よかった。


「それにしても、追いかけてきたのはなんだったんですか?」

「……奴はデュラハン。通称、首なし騎士と呼ばれている」

「くびなし、きし」


 よくわかっていないのか、首をかしげ、オウムのように私の言葉を繰り返している。


「……奴は死の預言者だ。君に目を瞑るよう言っていたのは、奴の顔を見た人は必ず死ぬとされているからだ」

「そんなモンスターが」

「……そんな奴が一人で行動しているわけがない。それに、あの言葉……」


 朧気ながらもはっきり聞こえたあの声。

『あの方が気に入るわけだ』と言ったが、いったい誰のことだ。

 あんな気配を纏っている奴を配下に置く人物。


 ……ダメだ。頭が回らない。今はゆっくりと休んで、それから考えるとしよう。


「……すまんが、しばらく、寝る」

「はい、おやすみなさい」


 体力がないせいか、少し話しただけでも眠気が襲ってくる。

 そのまま、寝て……。



 眠るように意識を失ってから、どれくらい経ったのだろうか。

 時計がここにないせいか、分からない。


 体に若干の疲れがあるものの、痛みはなかった。その代わり、重い。


「起きたね。調子はどうだい?」

「疲れはあるが、痛みはない。それと、体が重い」

「一回、目が覚めてそれから二日寝ていたからね。それでだろう」

「計五日寝ていたことになるのか」

「そうなるね」


 元の世界だったらありえないことだろう。

 一日でも寝過ごしたら、怒られていた。


「しばらく冒険者業は休みなさい。体調が万全になるまでは」

「……ああ、そうしよう」


 休みもまた、冒険者にとっては大事なことだ。


「怪我はなかったが、ひどく疲れきっていたと聞いたのだが、何があったか聞いていいかい?」

「……ワイバーン討伐をした後に、デュラハンに狙われた。何故、私を狙っていたのかは分からない。それに、奴が不思議なことを言った。貴様はあの方に気に入られている、と」

「不思議なこともあるもんだね。デュラハンというと、ミスリルクラスの冒険者でも生きて帰ってこれるかどうかわからない強いモンスターだと聞いているよ。そんな相手によく無事で」


 ミスリル……。ということは上から三番目ぐらいの強さだったか。


「半分奇跡に近い。幸運なのは奴の対処法を知っていたおかげだ。知らなければ、死んでいた」

「とにかく無事で何よりだ。今教えてもらったことは、こちらが紙に書いて知らせようと思うのだがが、いいかい?」

「ああ、頼む」

「それに、おなかも空いているだろうから、食べやすいものを用意させておく」


 そう言われて自覚したのか、自分のお腹がなった。

 五日何も食べていなければ、そりゃ空くはずだ。


「……」


 目が覚めた時、外はすでに夕方になっていた。

 こんなにゆっくりとした日は久しぶりな気がする。いつ休んだか、それすらも覚えていない。

 向こうでは、10年以上モンスターや人を倒し続けてきた。

 そのたびに、傷ついては任務へ向かって、また傷ついてを繰り返す日々だった。


 それが、この世界に来てからは、わりとゆっくりできていると思う。


 そう思いふけっていると、突如頭の中に、元パーティーメンバー達はどうしているだろうかと、そういう考えが出てきた。

 パーティーを抜ける時、手助けなどしないと言ったが、一か月前に助けられた恩がある。

 それは、共に過ごし、知っている知識や援護射撃で恩返し出来ていたと私自身は思っているが、あいつらはどう思っているのだろうか。


 もうそんなことすっかり忘れて私の代わりの人を見つけたのだろうか?

 そこまで深く悩む問題ではないのだろうが、心配だ。


「アーロさん、夕食のお時間です、よ……」

「ん? ああ、感謝する」


 助手の女性がお盆を持ったまま部屋の入口で固まっている。

 いったいどうしたのだろうか。

 何か窓の奥にあるのか? そう思って確認したが、行き交う人と夕焼けに照らされた街並みしかない。


「大丈夫か?」

「は、はい。大丈夫です。ご心配なく」

「そうか」


 そういっても、まだ入口で固まっている。


「本当に大丈夫か?」

「大丈夫です! その、なにか、悲しいことでもありました? アーロさんの雰囲気が何か、哀愁漂うような感じがして」

「いや、とくには」

「そ、そうですか」


 不思議そうな顔をしながら、私の所へ近づいてくる。


「これは?」

「豆が入ったスープです。胃に優しいですよ」

「ふむ」


 野菜を煮込み、豆だけという質素なものではあるが、優しい匂いがこの部屋に充満していくのが分かる。


「美味いな。体の疲れが取れていくようだ」

「隠し味で野菜と一緒にライクル草も煮込んだので、疲れも取れますよ」

「薬草を……。ポーションだけに使われるものだと思っていたが」

「それだけじゃないのが、これの良いところなんです」


 にっこりと笑った後、次の患者の所へ向かっていった。


 これから、どうするか。

 まずは、動いていいかの許可を取った後、ギルドへ行こう。そこで違約金を払わなければ。

 ワイバーン討伐が成功したとはいっても、薬草採取に失敗している。

 手持ちの金では払えないだろう。

 その分で足りなければ、自分のものを何か売って、それに足せば何とかなるだろうか。

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