第十三話 ワイバーン戦 開始
「それは、多少なりとも槍の戦い方を知っているか、筋力があればの話だ。君は見たところ、初めて持つのだろ、それ」
「は、はい」
「槍を選択したのは正しい判断だ。怖がりな君にとってそれは、強制的に距離を作れる物だからな。だから、それを使いこなせ。今は難しいかもしれんが、少しずつそれの戦い方を学んでいけ」
「はい」
話しながら小さい川を渡り、沼の近くまで来た。
見た限りだと沼にガルグイユはいないようだが、注意しておいた方がいいだろう。
潜伏している可能性も否定できない。
「アレシア。槍はなるべく敵に向けて突き出せ。振り回すなよ。ただ、危ないと感じたら逃げてもいい。援護する」
「は、はい」
「私が一匹を撃ったら、前に出ろ」
槍を抱え込み、手が小刻みに震えている。
今までは味方がいたが、今回は援護射撃があるとはいえ、実質一人で戦っているようなものだ。
怖いのは当然だ。
「アレシア。常に呼吸をし続けろ。何を当然なことをと思うかもしれんが、緊張している間、人は呼吸を忘れることがある。無意識でも出来ることだが、意識的にすることで多少緊張をほぐすことが出来る。ただ、呼吸することだけに囚われるな」
「は、はい。常に呼吸を……」
言われた瞬間、少し大げさにだが呼吸をし始めた。
頭に刷り込むように私の言葉を復唱している。
「いいか、始めるぞ。準備はいいか?」
「行けます」
若干緊張が解れたようだ。
少しずつでいい。戦いに慣れていけ。
「耳を抑えろ」
風向きは南東。風速5ノット。少し右側に。
慌てて耳を抑えたところを横目で確認したのち、一匹に向かって撃った。
上空へ向けてするのは初めてだが、上手くいったようだ。
「さぁ、行け。援護は任せろ」
「はい」
勢いよく飛び出していく。
それに気付いたワイバーンが一斉に降りてきた。
「……や、やっぱり怖いです!」
「怖いならば逃げろ。体力が続く限り走り続けるんだ」
槍を抱え込み、その場にしゃがんだ。
やはり、言っただけではすぐには恐怖は取り除けないか。
想定内だが、作戦を変えよう。
「そのまま、しゃがんでいろ」
ライフルを直し、AKで彼女を狙うワイバーンを落としていく。
当たるものもいれば、味方が盾になり生き残った者もいる。
よし、怒ったな。アレシアから私に目標を変えてきた。
幸いなことに全部私に向かってくる。
鋭い嘴を向けてそのまま突っ込んでくる気だな。
「すべて撃ち落としてやる」
乱雑に撃たせているかのように見せかけ、正確に喉を狙っていく。
もし、火を吐くのなら、そこをつぶせばいい。
ちっ。弾切れか。
その間にもこちらを狙ってくるだろう。
アレシアに意識を向かわせないようにするには……。
「こっちだ」
林の中に入る。
少しでも、飛ぶスピードを抑えなければ。
近づけないと感じたのか、一匹が口の中に火を溜め始めた。撃たせてなるものか。
「爆発するがいい」
後ろ向きで走りながら、口の中を狙う。
吐き出すことに失敗したワイバーンが上空で爆発して燃えた。
それでも奴らは止まらないだろう。
有効だと感じた奴らが次々と撃ちだしてきた。
「さすがに不利か」
狙おうにも、こちらの武器は1つ。あちらは多数。どうやっても限界がある。
避けながらでも出来ないことはないが、撃つスピードは先程よりか格段に落ちるだろう。
弾も無限に撃てるわけではない。限度がある。
どうするべきだ? 何か方法はあるはずだ。
今私がいる場所、ワイバーンのスピード、自分の走る速度……。
状況を理解し、よく観察しろ。
相手は何に困っている?
「来い」
人である私は、多少木が生えていても、それなりに通れる。
だが、ワイバーンはどうだ? 沼にいた時よりも僅かながらスピードが落ちている。
ならば、それを利用する。
もっと複雑な所へ。
「これならば狙えるし、たとえ火を吐かれても遮蔽物である木が守ってくれる」
少し密閉した所に入った途端、格段に遅くなった。
これなら、余裕を持って狙える。
「チェックメイトだ」
吐こうとしたやつらの火が味方に当たっている。
そのおかげか、見るからに数が減ってきた。
そして最後の一匹となり、口の中に火を溜めながら突っ込んでくる。
やけくそになれば負けるとわからないようだ。
「ふぅ」
最後の一匹を仕留め、腰にあるポーチから縄を取り出し、死んでいったワイバーンの足に括りつけていく。
アレシアを一人置いてきてしまったが、大丈夫だろうか。
早めに戻った方がよさそうだ。
「アレシア、無事か?」
「あーろ、さん?」
しゃがみ込んで震えていたが、私の姿を見た途端、走って勢いよく抱き着いてくる。
「怪我はないか?」
「だいじょうぶです……。それよりも、ごめんなさい。わたし……」
体を震わせ、声を震わせながら答えた。
怪我がないならそれでいい。
「気にするな。それに、今二人とも怪我無くちゃんと生きている。まずはそれを喜べ。力は少しずつつけて、上達すればいい」
「……はい」
涙を溜めて、私の顔を見上げている。
その顔には、自責の念に駆られているのか眉尻を下げていた。




