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やさしい悪魔は正解をおしえない ~ 片思いのあの子が死ぬ未来。運命の歯車をぶっ壊す方法とは? ~  作者: オカノヒカル
□第五章 蒐集の小鬼 - Stupid wolf -

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幕間「厚木球沙のひとりごと」+第45話「予兆なのです」

■幕間「厚木球沙のひとりごと」



 わたしには誰にも言えない秘密がある。


 ひとつは、わたしが同性しか好きになれないということ。


 今流行のLGBTなんだと、ひとくくりにされるのも嫌なので誰にも言っていない。


 物語が好きなわたしは、幼い頃から男女間の恋愛に疑問を持っていた。けど、周りの皆がこぞってそれを賞賛していたので、その疑問は胸に秘めざるをえなかった。


 自分はおかしいのだろうか? そう何度も自問する。親にも言えずにひとりで悩み続けていた。


 でも、世間では少しずつ、そういうものが認知され始め、許されたのだと勘違いしていた。


 小学5年生の時、好きだった子に告白したことがある。


 彼女は「気持ち悪い」と言ってわたしから去って行った。その子はあまり友達の居ない子だったので、わたしのその行為は皆に広まることもなかったのは不幸中の幸いでもある。


 けど、ショックは大きかった。


 それからは怖くて誰にも言えなくなってしまう。


 そんなとき出会ったのがアリスだ。


 儚げな子で、口は悪いけど、とても純粋な子だった。仲良くなるのに時間はかからなかったと思う。


 わたしはそんな彼女に惹かれ始め、恋をする。


 でも、彼女はわたしを親友と認め、信頼してくれている。そんな彼女に告白などできるわけがなかった。


 好きだという気持ちはどんどん膨れあがり、自分でも制御できなくなるではないかと、わたしは恐れている。


 アリスとの関係は壊したくない。けど、この想いは閉じ込めておくには、あまりにも膨れあがりすぎていた。


 だから、この夏が終わる前に決着をつけたかった。ある種の賭けでもある。


 この賭けに負けたとき、わたしはもしかしたら生きている意味を失うのかもしれない。それでも、何も言えずに生を全うするくらいなら、自分の想いを伝えたい。このまま誰にも知られず気持ちを押し殺して生きて、なんの意味があるのだろうか?



 そしてもうひとつの秘密。


 わたしは少し記憶障害を持っているということ。自分がやった行為をときたま忘れてしまうことがあった。


 特に小学校の頃はそれが顕著に現れていた。


 気がつくと、親や先生に怒られていることがあって、なんとか記憶がないのを誤魔化したことは多々あった。


 誰かにいたずらしたり、自分をいじめてきた子への仕返しだったり、単純に好奇心だったり、それをわたしの中の悪知恵を使って行使したのだろう。


 ところが、記憶がないというのに、わたしの中では不思議な感覚が芽生えた。


 人づてで聞いた悪知恵を使ったその行為が、どうしてその考えに至ったのかを理解できてしまったのだ。だから、知らない行為とはいえ、自分の所業に納得してしまっていたのだろう。


 とはいえ、わたしの行為は度が過ぎていることもあった。策に溺れて相手の気持ちを無視するような酷い行いが多かった。


 だからわたしは、自分や他人を何かから守る場合、過剰な防衛ではなく、慈愛に満ちた問題解決能力を行うようにしていく。


 だってわたしは誰も傷つけたくない。自分が傷つきたくないという裏返しであることは自覚している。でも、それで皆が幸せになれるならいいじゃないか。


 そうやって、わたしは積極的にトラブルに介入し、効率が悪くても皆が笑えるような問題解決能力を示していったのである。


 その結果、わたしの記憶障害は減っていき、ある日を境にまったくなくなったのであった。


 ところが昔馴染みの斉藤クンにこう言われたこともある。


「キミは誰だ?」と。


 わたしは笑って誤魔化した。でも同時に、彼はわたしの中のもうひとりのわたししか知らないのだと悟ってしまった。


 あれはニセモノ。わたしこそが本物なのに。





■第45話「予兆なのです」



 クラスに於いてのカースト上位のグループが解体されたために、教室内は平和になった。


 というのは表面的な話。


 実際は、裏で壮絶な権謀術数が繰り広げられていたというのは俺の興味のないことだ。クラスの序列で上位に入ることなんて、まあ、どうでもいいわな。


 厚木さんはというと、彼女は水面下での争いに関わる事もなくアメンボのように悠々と渡っていく。彼女もある意味、賢い選択をしていた。


 だからといって、俺のように血も涙もない冷徹な策略家ではない。


 少し前まで自分がいじめられていたというのに、一人ぼっちになった案山つくえやまを気に掛けて、時々話しかけたりしている。


「だいたい、あなたは私に怨みはないの?」

「怨み? なんのこと?」


 案山つくえやまの迷惑そうな顔にも気にせずに、厚木さんはのほほんとしている。


「あなたに意地悪なことをしたわ。そうね、あれはイジメよ。あなたのことが気にくわなかったからね」

「わたしが学年一位になったから?」

「そうよ」

「じゃあ、また一位を取り返せばいいじゃん」


 厚木さんの邪気のない笑顔。無敵だな。


「な……に言ってるのよ」

案山つくえやまさんは、取り返しの付かないようなことをしたわけじゃないわ。さすがに犯罪を犯していたならわたしも擁護できないけど、けど、わたし、ほとんどノーダメージじゃない?」

「あんたって、けっこうたくましいよね」

「うん、よく言われる」


 たぶんだけど、志士坂の時に俺が介入していなかったら、こんな風にあいつを助けていたんだろうな。そう、しみじみ思ってしまう。


「嫌味で言ったのよ。少しは理解しなさいよ」

「別にわたしはわたしのまま生きたいんだから、他人にどう思われたってどうでもいいのよ」


 厚木さんは相変わらずである。でもまあ、彼女に笑顔が戻ってきたのは悪くはない。


 そう思って油断をしていた。



**



 文芸部の部室へと向かう途中、高酉たかとりと出会う。向こうはあからさまに嫌な顔をしてくるのが癪に障った。


「あれ? 高酉? 厚木さんと一緒じゃないんだ?」


 いつもなら二人で部室へと来るのに、一人とは珍しいな。


「知らないわよ。まりさから『先に行ってる』ってメッセージきたから」

「……」


 少し怒り気味の彼女。これはあまり触れない方がいいな。と無言で歩いて行く。が、……。


「何か喋りなさいよ」


 それもご不満のようだ。難しい年頃のようだな、このラスボスは。せっかく気を遣ってやってるというのに。


「おまえと共通の話題なんてないだろ」

「まりさのことは? あんたあの子のこと好きなんでしょ?」


 まあ、バレてるわな。


「その件に関してはおまえとは話したくないよ」

「ねえ、なんで告白しないの?」


 俺の顔をニヤニヤと覗き込む。そして、俺がフラられることをわかっているかのように嘲笑うような問いかけ。ムカつくなこいつ。


「そりゃ、フラれるのはわかってるからな」

「とんだビビリね。まあ、あんたみたいな男じゃ、まりさには釣り合わないからね」


 いつも厚木さんと一緒にいるというのに、高酉は彼女の性的マイノリティーに気付いていない。そこが少しいらついてくる。


「迷惑をかけたくないからな。俺はあの子が笑っていてくれればそれでいい」


 俺は怒りを押し殺し、厚木さんの幸せだけを考える。


「なんか、ストーカーみたいな台詞ね。そのうち見ているだけじゃ我慢できなくて、まりさに変なことするのよね」

「しねえよ。あの子を泣かすようなことなんて……」

「どうだか」


 高酉は嫌味っぽくそう溢す。そこがちょっとムカついて余計な事を言ってしまった。


「言っておくけどさ。あいつを泣かすようなら、おまえでも許さないからな。覚悟しておけよ」


 今のところ、厚木さんの死の原因こいつにある。話せないのがもどかしいよ。


「なにそれ? 今の言葉、そっくりそのままあたしの台詞よ」

「……」


 自覚のないラスボスさんには、ほんと怒りの感情しかわき上がってこない。こいつが原因で厚木さんは自殺するというのに……。


 だからといって、未来予知を告げたところで鼻で笑われる。というか、こいつに厚木さんの性的マイノリティーを教えてしまったら全てが終わる。


 普段は厚木さんと仲が良いくせに、高酉はガチの女性同士の恋愛感情を受け止められない。拒絶して、厚木さんを絶望させるのだ。


 方法としては、高酉を穏やかに退場させて。厚木さんには別な誰かを好きになってもらうしかない。


 なんなら俺が立候補したいくらいだが、そこまで状況は甘くはなかった。


 厚木さんの件に関しては未だに解決策が見つからない。本来なら完全な詰みの案件。それでも俺は絶対に諦めない。


 高酉とは、気まずい雰囲気のまま部室へと到着する。扉の向こうからは、こちら側とは違ってなにやら楽しげなお喋りが聞こえてきた。


 扉を開けると、4人の少女の顔がこちらに向く。4人?


「おはくま! あれ? アリスも一緒なんだ」

「せんぱいと高酉先輩の組み合わせってめずらしいですね」

「土路くんって高酉さんと仲良かったっけ?」

「……どーも」


 4人目の新しい顔には見覚えがあった。というか、案山つくえやまがなんでここにいるんだよ?


「また増えてる」


 高酉のジト目がこちらに向いた。そりゃそうだ、案山を入れてもう5人も女の子がいるんだからな。しかも、男はいまだに俺一人だし。


「今回も知らんって!」


 俺が誘ったのって、志士坂だけだっての。あとは、厚木さんも高酉も黒金も勝手に入部してきたはず。


「あ、案山さんを文芸部に誘ったのはわたしなんだよね」


 厚木さんがカラッとそう告げる。


「まりさが? ならいいか」

「いや、よくないだろ。俺聞いてないぞ」

「ごめんね、土路クン。事後承諾みたいになっちゃって」


 厚木さんの笑顔で溜飲が下がる。


「あ、うん、厚木さんの判断は間違ってないからいいんだけどさ……ていうか、案山つくえやま。おまえ、なんで誘われてノコノコ付いてきたの? そういうキャラじゃないだろ?」


 俺は案山つくえやまの方を見ると、彼女は苦笑いしながらこちらを向いた。


「仕方ないでしょ。厚木さんに説得されたのよ。まあ、お昼休みとか教室には居づらいし、部室があれば落ち着けるかなって思ったから」


 それは志士坂を守った理屈と同じ。ひとりぼっちになって居づらくなった彼女のために作った居場所。それが案山つくえやまにも適用されるだけだ。


 俺にはそれを奪う権利はない。厚木さんの考えなら尚更のこと。


「まあいいけどさ」

「あたしは楽しくていいですよ!」


 と元気そうな黒金。こいつはすでに案山つくえやまとは顔見知りだからな。自殺騒動の時に彼女の家に泊めていたという経緯がある。


「そういえば涼々ちゃんって案山さんと親しいみたいだけど、どこで知り合ったの?」

「うーん、まあ秘密です」

「……そうね、秘密ね」


 二人の視線が俺をちらりと経由して厚木さんへと向く。


 うん、言えないよな。俺が口止めしてるんだもん。


「えー、二人は秘密の関係なの?」


 厚木さんが、にやけた顔でふざけたように言う。


「そうですねぇ。凛音姉さまも加われば秘密結社になりますね。それはそれは大盛り上がりになると思いますよ」

「あ、あたしもなの? 涼々」

「そうですよ。凛音姉さまも、いろいろと言いたいことはあるんじゃないですか?」


 目を細めた黒金が俺をちらりと見る。


 志士坂は黒金の言いたいことに気付いたのだろう。あはは、と困ったような笑い声をあげた。


 なるほど、俺の悪口・陰口を言う秘密結社か。高酉も加われば最強だな。


 まあ、こいつらにどう思われようが俺にはなんらダメージはない。


「ねえ、土路クンって身長いくつだっけ?」


 ぐはっ! 俺は65536のダメージを受けた。


 まさかの厚木さんから、そんな質問が来るとは……。俺、背の小ささにはコンプレックス持ってるんだよなぁ。


「え? なんで?」


 誤魔化すようにそう応える。


「土路クンと案山さんって、背同じくらいでしょ? ほら」


 厚木さんは、無理矢理案山を立たせると俺の隣へと並ばせる。


「あ、ほんとだぁ。せんぱいちっちゃいなと思ってましたけど、案山先輩と並ぶと変わらないんですね」


 俺の身長は167cm。ほぼ変わらない案山も同じくらいだろう。まあ、クラスには俺よりデカい女子もいるからな……そこはあまり触れられたくないところだが。


「部活内で一番ちっせいおまえに言われたかないや!」


 こいつ、高酉と変わらないからなぁ。下手すりゃ、数センチ低いはず。どちらも140cm台だ。


「あ、せんぱぁい、それセクハラですよ」

「おまえが先にちっちゃい言ってきたんだろうが!」


 俺のお怒りを沈めるかのように、厚木さんの笑顔がこちらに向く。


「まあまあまあ。けど、土路クン、わたしより大きいじゃん、ちょっと羨ましいよ。わたしも土路クンくらい身長があればなぁ」


 厚木さんは俺より頭半分くらい低いので、身長は155cmくらいだろう。


「女の子はちっちゃい方がかわいいと思うよ」

「どうせ私はデカ女よ」


 と、隣の案山がちょっとキレ気味。


「そうね。今のは土路が悪いわ」


 と高酉も参戦。なんか収拾が付かなくなってきたな……。


 おとなしい志士坂は、ピリピリしてきた空気にあわあわしている。おまえ、生きづらい性格なんだよなぁ。


 現在、厚木さん、志士坂、高酉、黒金、案山と、文芸部は6名にも膨れあがった。高酉の言う通り、女子ばかり入部してくるというのは少しばかり問題があるのだが、まあ、騒がしいのは悪くはない。


 理想としては、厚木さんと二人きりで静かに読書する日々ってのにも憧れてはいたんだけどな。


 その理想からは、かけ離れていきそうだ。


「あ、そうだ。これありがとうな」


 俺は鞄からコミックを取り出すと、厚木さんへと渡す。こういう貸し借りは今でもやっていた。


「あ、それ、あたしも読みたいです」


 と、俺と厚木さんとの唯一の交流を邪魔してくる小悪魔。


「又貸しはよくないから、厚木さんに一度返したいんだが」


 俺は黒金に軽く注意をすると、厚木さんに借りた本を渡す。


「面白かったでしょ?」


 手が本を通じて繋がった瞬間にいつものごとく悪魔が起動する。


『あのさ……言いにくいことだけど』


 いつもは衝撃的なことを軽いノリで言うラプラスが、めずらしく口ごもる。


「なんだよ?」

『いや、今回はちょっと予想外の方向に未来が変わったんで、あたしも戸惑ってるんだよ』

「そんなの、いつものことだろ?」

『厚木さんが死ぬのは前にも言ったよね?』

「ああ、あと、3ヶ月もないんだろ?」

『うん、でもね、このままだと3週間後には死ぬよ』


 なんじゃそりゃ?


「は? 高酉への告白が早まったのか?」

『ううん。高酉亞理壽は無関係』

「じゃあ、なんだよ?」

『このままだと厚木球沙は殺される』

「殺され……おい! どういことだよ? 誰にだよ?」

『彼女視点での未来では、犯人はわからない。けど、状況的に厚木球沙はストーカーらしき男に誘拐されて殺される』



◆次回予告


悪魔の未来予知があれば、たいていの問題は解決できる。


あとは、いかに楽に勝利するかだ!


次回、第46話「嵐の前の宴なのです」にご期待下さい。



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