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やさしい悪魔は正解をおしえない ~ 片思いのあの子が死ぬ未来。運命の歯車をぶっ壊す方法とは? ~  作者: オカノヒカル
□第三章 誘惑の小悪魔 - Tin Woodman -

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第21話「救済範囲は広がるのです」



 うわ、それめっちゃダメージでかいぞ。というか、厚木さんには幸せになってもらいたいんだ。こんな不幸を起こさせてはいけない。


「というか、なんで黒金と厚木さんの父ちゃんが関わってるんだよ?」

『いわゆる不倫? といっても一夜の関係ってやつ? どっちも追い詰められてたみたいで、二人で死のうって流れになったみたい』

「うおおい! なんだ、その女子高生とサラリーマンのエロマンガみたいな展開は」

『知らないわよ。あたしは人の心の深い部分は知り得ないって言ったでしょ』

「止めないとまずいな。というか、これも厚木さんが未来で自殺する要因のひとつになってるんじゃないのか?」

『そうね。今回のはかなりのダメージがいくかもね。彼女的には』


 絶対阻止だ。こんな不幸は俺が許さない!


「二人が出会うのはいつだ? 一夜の関係ってことは、二人は付き合ってるわけじゃないんだろ?」

『そうよ。知り合うのは十日後。二人はいろいろプライベートであったらしくて疲弊していて、お互いに癒しを求めていたのかもしれない。知り合ってお互いを慰めて、最後の日に想い出作りで身体を重ねたってことかもね』


 どうすりゃいいんだよ? これは単純な復讐劇や危険回避で済む話じゃない。


「黒金が厚木さんに直接何かを仕掛けてくるならまだ楽だったのに」

『さて、どうする?』

「どうするじゃねえよ。回避だ回避。いや、この場合は違うな」

『違う?』

「黒金と厚木さんの父ちゃんが出会うのを妨害する」

『二人を出会わせないのね。簡単な演算ならできるけど、その場合、二人の問題は何も解決しないから、各々の自殺が早まるだけのこと』

「ははは……やっぱりそうなるよな」


 妨害だけでは解決しないってのは、うすうす感づいていた。ただ、この問題を解決するには、かなりやりたくない策略を実行しなければならない。


『問題を解決しなければ、厚木球沙の笑顔は守れないよ』

「おいおい、本来なら俺が言う台詞だぞ。厚木さんの笑顔は俺が守るって」

『覚悟を決めた方がいいわ。策はあるんでしょ?』


 そりゃ、厚木さんを守るためなら、なんだってやるという覚悟はある。けど、できればやりたくない方法だ。


「まあな。とりあえず出会うまでの十日は余裕があるんだろ?」

『ええ、そうね』

「その十日を情報収集と厚木一郎の救済にあてる。そっちが片付けば黒金の問題にも着手できる。ようは二人の問題を解決すれば、二人は出会う必要もないし、心中することもないだろ?」

『そうね。あなたの思考を期待している』




**



 未来予知というチート級の能力。


 だが、その使い勝手はお世辞にも良いとは言えない。


 なぜなら、俺自身にその能力が備わっているわけではないからだ。ラプラスという摩訶不思議な存在を通してでしか、俺は未来を知ることができない。


 しかも、相手に触れ、その相手との未来しか予知できないのだ。


 俺個人の未来は、相手の未来から推測するしかない。


 これだけでも、かなりの『縛りプレイ』だというのに、未来予知を告げる悪魔の気まぐれには、毎回かなり振り回される。


 それは告げられる内容だったり、期間だったりとバラバラである。それでも最近は、俺との対話で、厚木さんに関係したものを優先的に予知してもらえるよう頼み込んではいるが……。


 そもそも、ラプラスとは一体何者なのだ?


 4年前、こいつが急に現れてから、俺の人生は変わった。


 いや、正確に言うならば、悪魔と名乗る少女によって俺の人生は一変する。彼女に命を助けられ、世界との戦い方を教えられた。


 その後、まったく連絡のとれなくなった彼女と入れ替わるように俺の心の中に現れたラプラス。


 果たしてこの二人は関係があるのか? まさか同一人物ということはないだろう。俺が出会った少女は実体があったからな。


 さらに高校に入学して厚木球沙と出会う。彼女の容姿が、昔出会った悪魔と名乗る少女に瓜ふたつだったことも衝撃的ではあった。


 厚木さんに双子の姉妹がいないことは確認した。


 ラプラスにも昔のことを聞いたことがあるのだが、「知らない」と言われている。それが本当のことなのか、とぼけているのかはわからない。


 悪魔と名乗る少女、ラプラス、そして厚木球沙。この謎を解くにはまだ、パズルのピースは集まりきっていなかった。



**



 黒金涼々の心中まであと10日。


 時間はあるようでない。急いで行動しなければ間に合わないだろう。


 俺はすぐに厚木一郎に接触した。この接触というのは物理的なものだ。


 歩きスマホを装って、帰宅中の彼にぶつかる。


「ん?」

「……すみません」

「ああ……」


 いちおう、茶髪のウイッグと黒縁眼鏡と派手なスカジャンで変装はしているので、もし厚木さんと付き合えるようになって、結婚することになって、父親のところに挨拶に行ってもばれないようにしておいた。


 そんな日が来るのかは、わからないけど。


『何が聞きたい?』


 ラプラスからの問いにすぐに返答する。


「厚木一郎が帰宅後、何をしてどんな酷い目に遭うかだ」

『そうね。彼は奥さんと仲が悪いようね。夫婦仲は冷め切っている。会話はほとんどないわ』

「それが自殺の原因じゃないだろ?」

『うん。彼が嫌な目に遭うのは、会社に行ってからね。上司からのパワハラが酷い。あと、上司が致命的な失敗を彼のせいにする。それが二日後。ここでヤケになって、その時に黒金涼々に出逢うのよ』

「まあ、なんというか、同情の余地はあるけど、娘の立場からしたらそんなんで心中されたらたまったもんじゃないよなぁ」

『そうね。じゃあ、どうするの?』

「その上司が会社からいなくなったらどうなる? 上司の失敗を厚木一郎になすりつけることが出来ず、それが元に解雇、或いは左遷になったら」

『厚木一郎がヤケになることもないわ。夫婦仲が冷めていてもそれは甘受する。彼は娘が成人になるまでは我慢するつもりみたいだし』


 彼がヤケになって自殺に走らなければいい。夫婦の問題は、さすがにこの能力があっても解決できなさそうだからな。


「ならば、厚木一郎は応急処置的対処法で大丈夫だな」


 俺はすぐにパワハラ上司を追い出す策略を思考する。


『黒金涼々はどうするの?』

「厚木さんが絡まないなら放置って手もある。その場合、彼女は一人でも死ぬのか?」

『彼女は寂しがり屋だから一人で自殺はないわ。けどね、厚木一郎と出逢わなかった場合、心中する相手が変わるだけよ』

「黒金のクラスメイトとか?」

『いえ、あんたのよく知っている人よ』

「……」


 含みのある発言は、毎回嫌な予感しかしない。思わず息を飲む。


『富石桃李よ。彼と黒金涼々が心中する。この場合、富石桃李側にはそんなに問題はないわ。彼女に騙され、薬物を飲まされて一緒に連れて行かれるだけ』


 最後の言葉で背筋がぞっとする。よりによってポンコツ富石かよ……。


 でもまあ、可能性がなかったわけじゃない。そういやあいつ、黒金に惚れてたんだっけ。それを利用されるだけのこと。


「……」

『見捨てる? その場合、厚木球沙にはまったく危害が加わらない……わけでもないか。彼の死は、彼女の未来になんらかの影を落とす……かもしれない。あたしには人間の心はわからないからね』


 厚木さんへの危険は明言しなかったラプラス。さて、放置していいものかと悩む。


 問題は富石だ。


「うーん……いちおう、中学の時からの付き合いだからな。あいつポンコツだけど、悪い奴じゃない。いなくなったらまあ、寂しくなるんだけど」

『けど?』


 まさか、厚木さんの件で富石が絡んでくるとは予想外過ぎる。あいつが死んだら死んだで、俺の行動にも影響が出るんだろうな。


「ちくしょう! やっぱ俺がやるしかないのか」


 黒金は放置するには危険すぎる。ならば救済するしかないだろう。


『うふふ。覚悟はできたのね』


 ラプラスはなんだか嬉しそうである。結局のところ、こいつに誘導されて俺は考えなくてもいい策を考えているような気もした。


 まあいいさ。俺は厚木さんが幸せになるならなんだってしてやる。


「ああ、俺が黒金涼々も助けてやる。それが正解なんだろ?!」




◆次回予告


主人公の策略に、なぜか付き合わされる志士坂。


ついに仮面の小悪魔が本領発揮する。


主人公は、対『誘惑の小悪魔』との前哨戦でも手は抜きません!



次回 第22話「潜入ミッションはわりと簡単なのです」にご期待ください!


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