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神秘斬滅【ルナイレイズ】の少女 〜【僕】の中に封印された異界の覇王である【俺】は〜  作者: 月影 梨沙
第5話 屍の装いは光ほどに疾く、僕の怒りに射翼は疼く
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終わりなき【終わり】


 身体を両断された激痛。


 その断面から霧散していく魔力。


 クラゲに似た異形の化け物は、断ち切られた断面より魔力を垂れ流しながら、その苦しみにのたうっていた。


「グア゛ア゛ア゛ア゛ゥ――ッ!」


 呻き続けるクラゲ。神秘斬滅(ルナイレイズ)により一太刀のうちに切り裂かれた肉体は、魔力生成の流れを、魔力を留める(カラダ)を、存在の(コア)を――すべて、断ち切るという概念のもと再生不可能な形で斬滅させられていた。


 残された魔力が流れ落ちていき、消えつつある意識の中にあるのはただ、思考を焦がす程の激痛と耐え難い飢餓感だけ。


 そして、その先にあるのは不可避の死。


「ア゛ア゛ッグア――゛ア゛ア゛ア゛ゥ――!」


 苦しい。苦しい。苦しい。


 それ以外考えられなくなった、塗りつぶされた思考。


 苦しい。苦しい。苦しい。


 こんなに苦しいのなら――その先に死しかないのなら――。


 ――早く死んで、意識を無くしてしまって、この苦しみから解放され――。


「――と思っているのだろうが、残念ながらそうはいかない」


 そこに立っていたのは金色の瞳をした男。両手首と左足首に枷を嵌め、唯一枷のない右足の魔法陣より光の筋を立ち昇らせ、背中より翠光の翼を広げはためかせた少年。


「貴様はもう終わりだが、すぐには終わらない」


「ウヴヴェエッ――! ウググ――ソレハ、オマエ――ドウイウコト――ダ――?」


 呻きながらクラゲは少年に問う。少年は嘲るように顎を引く。


(わか)らぬか――? 周囲の状況が、己が肉体の状況が」


「ナ――ンダ――ソレハ――? グッ、グググェッ――グ――ル゛――ジ――イッ゛――」


「ふん、考える力まで半分にされてしまったか? それとも苦しみゆえに思考ができなくなったか――いいだろう。我が能力(チカラ)が再封印されるまでそう時間もないが、しかし貴様が相手であるならばそれでも十分に説明できようか――」


 金色の瞳で冷めたようにクラゲを見下ろし、少年は言う。


 ――周囲を見ろ。何も動いてはいまい。


 ――己が肉体を鑑みろ。崩壊しつつあるその肉体(カラダ)はしかし、痛みと苦しみを発するのみで一向に消え去る気配はない。


「ナ゛――ナ゛ゼダ――?」


 少年の口元が歪む。ふん、という嗤い。


「簡単なことだ。貴様の意識だけが超光加速(アクセルクス)により加速(・・)しているからだ」


「――ドウイウ――コトダ――? グッッ、ア゛ア゛ア゛ゥッ゛――!」


(わか)らぬか? まあ、その状態では無理もあるまいか――。

 貴様は、本来の自身の能力(チカラ)でもなんでもない超光加速(アクセルクス)を乱用しすぎた。時流への干渉は、概念の枠組みにも抵触するが故、必ず反作用が伴う。本来の能力者である女勇者ですら、超光加速(アクセルクス)の発動にあたっては一定のインターバルを取るなどしていたはずだ。

 貴様はそれを知らず、超光加速(アクセルクス)を何度も連続して使い続けたのだろう。その結果として、貴様の内部には超光加速(アクセルクス)の魔力が意図せずして蓄積していった。俺は単に暴発間際まで溜まっていたその魔力に、少しばかりの刺激を与えたに過ぎん。

 そして――貴様は意識だけを限界まで加速させるに至った。超光加速(アクセルクス)の加速限界上限は2600万倍――1秒という僅かな時間も、加速した貴様の意識にとっては何ヶ月にも感じられるはずだ。

 神秘斬滅(ルナイレイズ)に両断された貴様の肉体(カラダ)は、もう長くはない――あと数分で貴様は死に、その肉体は朽ち果てるだろう。

 しかし、その中で【意識だけ】は加速している。貴様の肉体(カラダ)が死に、意識が消え去るまでの数分は、貴様の加速した認識の中にあっては、200年か――500年か――それまではずっと動くこともできず、死の間際の痛みに苦しみ続けるということだ――」


「アガアアアアア゛ア゛ア゛ッ――! ソンナ――バカナ――!! コノクルシミ――イタミガ――スウヒョクネン、ツヅクダト――?! ナゼダ――ナゼ、シネナイノダ――!!

 ア゛ア゛ア゛ッ――グヴア゛ッア゛ッア゛ッ――!! タ――スケ――」


「さて、本来ならもう少し貴様が苦しむ様を眺めていたいところだが――生憎(あいにく)、貴様の疾さ(・・)に合わせていられるのは、我が右足に封じられし能力(チカラ)が解放されている間だけなのでな――そう、そろそろ時間(・・)だ」


 金色の少年の右足首に、光を湛えた風が渦巻き、喰い込む枷の形を成していく。その光の濃さに比例するかのように、彼の背中から広がる(みどり)の翼が薄れていく。


 見下げ果てたような、しかしどこか眠たげに細められた瞳で、少年は苦しみに蠢く肉塊を見下ろして――そして、最後に言い放っていた。


「貴様は人間(ヒト)を殺しすぎた。それだけでなく、その屍体すらも弄んだ。その罪、ただ貴様が死ぬだけでは到底釣り合わぬ――そう、無限に等しく引き伸ばされた時の中で、苦しみ続けるがいい」



 ○●


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