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神秘斬滅【ルナイレイズ】の少女 〜【僕】の中に封印された異界の覇王である【俺】は〜  作者: 月影 梨沙
第5話 屍の装いは光ほどに疾く、僕の怒りに射翼は疼く
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屍に至る薬【ウォルプタス】


「おかしいわねぇ――」


 暗闇に浸るように、ゆらゆらと影に隠れた身体を揺らしながら、灰色の女は――リツルミは独り言ちていた。


「あなたの身体(カラダ)のどこに神秘斬滅(ルナイレイズ)能力(チカラ)が秘められているのか――これだけ調べてもわからないなんてねぇ――」


 不満げに呟く魔族(マギアイドラ)の女の眼前には、小さな少女が吊るされている。か細い全身のあちこちに、透き通るような白い肌に喰い込むように、幾重もの屍惨鋼索メルギトゥル・ワイヤーが容赦無く絡み付き、ミズホの身体を縛り上げていた。


「ぐっ、それなら――とっとと、この状態から解放してくれませんかね――私なんかを調べても、何も出てきやしませんよ。もっとも、仮に何かあったところで、あなたなんかにみすみすくれてやるつもりはありませんけど――」


 苦痛に歪んだ表情で、ミズホはリツルミを睨みつけた。


「あら、減らず口を――少し痛みを与える必要があるかしら――?」


 リツルミは酷薄な笑みを浮かべ、顎を引く。そして、ゆっくりと腕を振り上げた。その動きに呼応するように、少女の全身を縛り上げる鋼索(ワイヤー)がミシミシと軋んだ音を響かせる。


「ゔあ゛あ゛ああっ――!!」


 ミズホは痛みに満ちた呻き声を吐き出す。首筋を這い、手首や脇に絡みつき、胴に纏わりついている屍惨鋼索メルギトゥル・ワイヤー。幾重ものそれらが、少女の白い肌へとキツく喰い込んで。


「これだけ調べても、その能力(チカラ)の源泉がどの部位にあるのかわからないなんて――希少能力(レアスキル)だからって、すこし丁寧に扱いすぎたかしら――?

 やっぱり表面だけじゃなく、そろそろ内部(ナカミ)を喰い破って調べるべきかしらぁ――?」


 その言葉と同時に、いくつかの屍惨鋼索メルギトゥル・ワイヤーの先端から無色透明な液体がとろとろと溢れ出た。


 濡れた鋼索(ワイヤー)が、少女の首筋に触れる。その先端は、溢れる液体を擦り付けるように、撫でつけるように、ゆっくりと口元へと這い上がっていく。


「ひっ――そ、それは――ゔぁああっ――!」


 首筋と肩とを這い伝う、液体の冷たく纏わりつくような不快な感触に、ミズホは顔を引き攣らせる。全身を締め上げる痛みと、顎の辺りまで迫りつつある不快感に、少女は涙声を漏らしながら身を捩る。


「その液体はねぇ、中身(ナカミ)を掻き回しても死なないようにするための魔薬(ウォルプタス)と呼ばれるモノよ。身体(カラダ)の中に注入することで、その肉体の死をズラすことができる。

 そうなった肉体は、屍となっても死んでいるわけでは無いということになる――わかるかしら? 肉体を生きたままぐちゃぐちゃに解体して調べ尽くすのに、これ以上の手段は存在しないのよぅ――」


 女の愉悦に満ちた言葉。涙を滲ませ、歯を食いしばっている少女の顔いっぱいに、嫌悪感が広がっていく。


「ぐぅっ――そっ――そんなものを――私に――? やっ――やめ――やめてくださいっ――!」


 ミシミシとミズホを縛る鋼索(ワイヤー)が軋む。少女の必死な抵抗も、キツく締め上げられた拘束の中では身体を数ミリ動かすのがやっとだった。


「うふふ――そんなに嫌がらないでよねぇ――さて、その可愛いお口から――たっぷりと魔薬(ウォルプタス)を注いであげるわ――」


「そんなの――お断り――です――ぐゔっ――!」


 途端、鋼索(ワイヤー)が少女の身体を数メートル引き上げる。止め処なく液体を溢れさせる鋼索(ワイヤー)の先端が、少女の頬の付近へと這い寄っていく。


「そんなに抵抗したら、せっかくの綺麗で柔らかいお肌が裂けちゃうわよぉ――? さあ、素直に魔薬(ウォルプタス)を受け入れなさい――?

 もっとも、魔力に耐性の無い肉体は、魔薬(ウォルプタス)の魔力に脳と精神(ココロ)を溶かされて屍傀(レヴナント)になってしまうのだけれども――さて、あなたはどうなるのかしらね――? うふふふっ――」


「や、やめ――そ、そんなもの――いや――!」


 散発的に襲いくる苦痛と不快感とに身悶え、声を絞り出す少女。それを愉しげに見上げ、リツルミは口の端をニヤリと歪める。


「あらあら――それとも苦しいのかしら――? ふふ、もうすぐ楽になるわよ――」


「あ――あなたみたいな魔族(マギアイドラ)なんかに――負けな――ぐぅ、ぐえぇっ――!」


 首筋に纏わり付いた鋼索(ワイヤー)がミズホの首を締め上げる。魔薬(ウォルプタス)に濡れたその先端が、苦しげに歪んだ少女の唇へと、ゆっくり近づいていく。


「ふーん、よく言うわ――あなたの身体(カラダ)だって、もはや【人間とは呼べない】くせにねぇ――」


「――そ、それは――どういう――意味――」


「その口ぶりだと、やっぱり知らないのねぇ――いいわ、教えてあげる。

 さっき調べてわかったのだけど――あなたの身体(カラダ)は、何故だか【無駄に新しい】のよねぇ――その上さらに【様々な因果から断ち切られている】――。

 つまり、あなたは【人間の形をして、自分を人間だと思い込んでいる、人間の枠組みから切り離された、人間ではないナニカ】――まったく、あなたは一体何なのかしらねぇ――?」


「そ――そんな――い、いえ、わ――たしは――人間――です――ぐあ゛あ゛っ――!」


「だから違うんだってば――まあいいわ。どちらにしても、この魔薬(ウォルプタス)を飲み込んでしまえば、おそらくは屍傀(レヴナント)になるだろうから――あとは生きながら、その屍体の中身(ナカミ)、じっくりと調べさせてもらうわ。

 神秘斬滅(ルナイレイズ)能力(チカラ)の源泉も、あなたが【人間に似たナニモノ】なのかも、そこではっきりするでしょう」


 鋼索(ワイヤー)が蠢く。少女はぎゅっと瞳を閉じる。いやいやをするように顔を背けるミズホの口元へと、必死に閉じられようとする唇へと、それらを押し除けて魔薬(ウォルプタス)に濡れた鋼索(ワイヤー)の先端が入り込もうとしている――。



 ○●


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