表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神秘斬滅【ルナイレイズ】の少女 〜【僕】の中に封印された異界の覇王である【俺】は〜  作者: 月影 梨沙
第5話 屍の装いは光ほどに疾く、僕の怒りに射翼は疼く
72/132

嗤う【女】の影


『あの――ショウマさん。さっきはありがとうございます。でも、なんだかすみません――ショウマさんにあそこまで言っていただいて嬉しい反面、少し気恥ずかしい感もありますけど――』


『何も謝ることなんかないし、気恥ずかしさを感じる必要もないよ。僕はただ、思ったことを言っただけで、それは紛れもない本心なんだから――。

 ミズホちゃんは何度も命の危機に瀕しながらも、それでも2人もの四天王を相手にして戦って、そして――討ち倒してきた。それを見てきてもいない人に、どうこう言われる筋合いはないからね――。

 もちろん、あの女の人に悪気がないのはわかってるよ。あの人はあの人で、たぶん今までに幾度もの修羅場を潜り抜けてきているはずだから――』


『ええ、それは理解しています――そして、ヒメアさんの指摘は至極真っ当なものでした。私は四天王クラスの敵を相手にするには力不足――それは間違いなのですから。

 だから――はっきり言ってしまうと、心の奥ではずっと自分が足手まといだと思われていないか、怖さにも似た気持ちを抱いていました。ヒメアさんに指摘されて黙り込んでしまったのも――さっきショウマさんが仰っていた私のギリギリさというのも――そういう怖れに似た気持ちと、それから生じる焦りによるものだったのかもしれません。

 そう――わがままで、身の程知らずかもしれませんが――【私は所詮、封印を断ち切るためだけの存在】だと、思われたくなかったんです――』


『たしかに――この枷の封印を断ち切り、そこに封じられた【俺】の力を解き放つのは、神秘斬滅(ルナイレイズ)能力(スキル)を持つ君にしかできない大事な役割だよ。

 でも、それだけじゃない――【俺】は、(サソリ)(かお)をした四天王と対峙した時、君に背中を預けた。底なしの熔鉱炉(アビス・ルカス)と止める際、その成れの果ての始末を君に託した――【俺】は、君の力を信じてる。足手まといだなんてとんでもない――それに――』


『あ――あの、ショウマさん――失礼なことをお聞きしますけど、あなたは――本当にショウマさん――なんですよね――?』


『――そのつもりだけど、どうして――?』


『いえ、すみません――。でも、最初にお会いしたときと、これまでずっとご一緒してきたときと――そして今――、私の気のせいかもしれませんけど――少しずつショウマさんへの印象が変わっていっているような――。

 そのはっきりとした言葉の選び方――まるで――いえ、やっぱり――なんでも――ないです――』


 ――。


 ――。


 ――薄汚れた靄のような空気の中で、それ(・・)はずっと【枷の男】と【神秘斬滅(ルナイレイズ)の少女】との会話を、盗み聞きしていた。


「ふぅん――神秘斬滅(ルナイレイズ)――ありとあらゆるものを【断ち切る】概念の具現――ねぇ。話には聞いていたけど、なかなか使えそう(・・・・)能力(チカラ)じゃない――」


 それ(・・)は艶かしい女の声でそう漏らす。眺める立体映像(ホログラフ)に映し出されているのは、手足に枷を嵌めた少年と、幼く小柄な青髪の少女とが向かい合う姿。流れるその声と映像は、それ(・・)の魔術によって盗撮、盗聴されたもの。


「万物を断ち切るということは、魔力の流れをも断ち切ることができるということ。それは即ち、魔の者を一太刀のうちに殺しうるということ――。

 うふふ――その能力(チカラ)――いずれ魔族(マギアイドラ)が世界の大半を占めるだろうなかで、とても役に立ちそうよねぇ――」


 それ(・・)はゆるゆると身体を震わせる。


「さらに――枷の男の封印(ソルバインド)を断ち切ることのできる唯一の存在――わたしたち魔族(マギアイドラ)にとって魔力の根源とも言えるスミノ姫の冥凍(グラキエス)をも斬り裂きうる存在――これはもう、手を伸ばさないわけにはいかないわねぇ――ええ、まったくもって――」


 会話の途切れた立体映像(ホログラフ)を用済みとばかりに消し、ゆっくりと立ち上がると、それは恍惚(・・)としたように独りごちていた。


「――とても、欲しい《・・・》わぁ」


 その時、突然に近くの壁が打ち崩された。


「そこにいたか――魔族(マギアイドラ)――!」


 崩れ落ちる壁と、舞い上がる土煙。それらを掻き分け、声を上げつつ姿を現したのは、大きな体躯を誇る屈強な闘士(ファイター)の男だった。


 それ(・・)はゆるりと身体を動かし、闖入者へと睨むような視線を向ける。


「何かと思えば――美しくない(・・・・・)わねぇ――」


「この街を――こんなにしてしまったのは――貴様か。許さん――決して、許さん――!」


 それ(・・)の呟きに構うこと無く、闘士(ファイター)の男は怒声を放つ。


「あらまぁ――誰に向かってモノを言っているのかしら? 人間(ニンゲン)ごときが――それも、欠片ほどの美しさもないただの動く肉塊の分際でねぇ――」


「お喋りはそこまでだ――!!」


 闘士(ファイター)の男は拳を握りしめ、全身の筋肉を漲らせ、それ(・・)へと殴りかかる。


 しかし、それ(・・)はひらりと跳び、男の拳をかわす。そして腕を伸ばし、そこから更に何かを伸ばして――。


 グシャリ、と何かが突き刺さる生々しい音。


「ア――ア――アガガッ――!」


 続いて、言葉にならぬほどに痙攣した男の声。


「まったく――本当に美しくない(・・・・・)。わたしはねぇ――ただ単に攻撃力があるだけとか、防御力が高いだけとかいう、何の能力(スキル)も無い身体(カラダ)を、もっとも美しくない(・・・・・)ものとして嫌っているの――だって、使いみち(・・・・)がないんですもの――」


「ア゛ア゛ア゛――ア゛ヒィ――」


 痙攣したまま譫言のように奇声を発しつつ、男は膝をつく。先程での怒りに満ちた声も表情も既にその面影すら消え去り、彼は呆けたように虚空を見据え、口の端から涎を垂らして、ひたすら小刻みに震え続けるだけだった。


「でも――使えないゴミとはいえ、このゴミには少しだけ使いみちがありそうねぇ?」


 ふわりと地面へ降り立ち、それ(・・)は嗤う。ゆっくりと手繰り寄せるのは、腕から伸びている、黒々とした光沢を放つ数本の鋼索(ワイヤー)


 その先端は、獲物の喉元に喰い付いた蛇のように、男の後頭部へと喰い込み突き刺さっていた。



 ○●


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ