↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/147

銀色の瞳の【魔王】


「――大丈夫? ねえ、大丈夫?!」


 まどろみの向こう側から呼びかける声を聞き、魔術師の少女――ナルは目を覚ました。


 ゆっくりと瞼を開き、朧げな視界の中で声を掛けてくるのは、白い肌をした小さな少女。


 そこはナルの自室のベッドだった。白い肌の少女はベッドに寄りかかるようにして身を乗り出し、とても心配げな面持ちで、寝ぼけたままのナルの顔を覗き込んでいた。


 ナルは涙の浮かんだ目尻を擦り、半身を起こす。着ていた衣服は、汗でぐっしょりと濡れている。


「ナルさん、大丈夫? すごくうなされていたからビックリしたよ」


 そう語りかけてくるのは、青いツインテールの小柄な女の子、ミズホ。ナルがあちらの世界(現実世界)から召喚してきた、神秘斬滅(ルナイレイズ)の少女。


「あ……あぁ、もっちーか……」


 ナルはミズホの愛称(ニックネーム)を呟き、小さく首を振って見せた。


「大丈夫だよ。ちょっと――昔の夢を見ていただけだから」



 ○●



「ふふっ、壮観だねぇ。我らが魔王と四天王が揃い踏みだなんて」


 その子供はしみじみと呟いていた。


 それは、水魔軍(ラクリマ)を統括する四天王のヨツバ。愉快そうに肩を揺らし、肩のあたりで切り揃えた白銀の髪をさらさらと靡かせながら、その子供は顔貌を覆い隠した仮面の奥から嗤い声を漏らしていた。


 そこは、夜の闇より暗い深淵。その暗黒を照らすはずの蝋燭は青黒く濁り、灯りと呼べるものは、宙に浮いて銀色の輝きを放つ2つの丸い珠のような何か、それだけだった。


 墨汁を流し染めたような床の上には円卓。それを囲むように佇む、4つの異形の影。


 降魔帝国ダイスロウプの魔王と、その配下である魔軍四天王の残り3名。


「揃い踏み――とは言っても、鉄屑のお人形(ドミジウス)が欠けちゃってるから、イマイチしっくりこないわねぇ」


 若そうな女の声。闇に包まれてその姿は見えず、全容ははっきりしない。わかるのは、細いだろうその体躯に何かが纏わりついて、不気味に犇めいているということだけ。


「所詮は機械人形。四天王の器では無かったというだけのこと。いずれ炎魔軍(フランマ)より、更に四天王に相応しい者が現われるであろう。それまで四天王は我々だけでよい」


 しわがれた男の声。闇に照り光る漆黒の甲冑から。その表情は闇に塗り潰され仔細にはわからず、辛うじて伺うことができるのは、頭部から何かが数本生え、わしゃわしゃと蠢いているということだけ。


「お喋りはいい――、本題に入れ、ヨツバ」


 低く通る男の声。宙に浮き円卓を仄かに照らしていた2つの銀色の珠が、ぎょろりと仮面を睨む。


 それは瞳だった。円卓の取り囲む3人の幹部を見下ろすように立つ、中性的な顔立ちをした若い男の、煌々と銀色に輝く2つの眼(まなこ)。


「はぁい、魔王様はお忙しいものねぇ」


 ヨツバは肩を竦めて見せ、自身を睨む【魔王様】へと――銀色の瞳を持った若い男へと頷いた。


「さぁて、我らが魔王と、残りの四天王のお二人に集まっていただいたのは他でもない。炎魔軍(フランマ)を統括する四天王、ドミジウスを討滅した連中についてのことさ」


 言いながらヨツバは手を翳す。円卓の中央に浮かび上がるように、ぼんやりと立体的な映像(ホログラフ)が映し出された。


 映っているのは3人の人間。金髪を腰の辺りまで伸ばした法衣の少女、青い髪をツインテールにした小柄な少女、そして、両手と両足に枷を嵌めた制服の少年。


「そこに映っている金髪の魔術師が、あちらの(現実)世界から、おチビちゃんと枷の男とを召喚した。そして、その反応を察知して駆けつけた炎魔軍の長、ドミジウスは連中に倒された――ここまでが皆の共通認識だと思う」


「あら、小さくて可愛い娘(こ)ねぇ――」


 女の声は小柄な青髪の少女へと向けられていた。


「これをぐちゃぐちゃにするのを想像するだけで背筋がゾクゾクするわぁ――」

 

 恍惚としたような女の声。それを無視して、甲冑の男は掠れた声で呟いた。


「しかし、どう見ても、ただの人間どもにしか見えぬが――これらが本当にあの炎魔軍(フランマ)の将を倒したというのか――。

 彼(ドミジウス)の【鋼炎機巧(イグニスマキナ)】の二つ名は飾りではない。人形ゆえに知能の程度は知れていたが、その力(パワー)と再生能力は我々の中でも群を抜いていたはずだが――」


「ふふっ、確かにそうだねぇ。でも、彼(ドミジウス)は残念ながら、ろくな情報(データ)を残してくれなかった。だから、ボクはまず連中がどういった能力(ステータス)を有しているのかを調べることにした」


 ヨツバは言い、指を鳴らす。


 円卓に浮かぶ立体映像(ホログラフ)の横に、幾重もの文字が浮かび上がった。


「実は先日、ボクは配下の魔族《マギアイドラ》を連中に差し向けて、交戦情報(データ)を収集してみたんだ。いま表示したのは、それを分析したもの。参考にはなるだろうから、ぜひ見て欲しい」


  腰まで伸びた金髪の魔術師の少女

  種族:人間 属性:無(炎・竜)

  体力: 75 攻撃: 70 防御: 75

  敏捷: 70 魔力:100 耐魔: 90


「まず、彼女はごく普通の人間の魔術師と言っていい能力(ステータス)だった。少し気になるとすれば、使う術式が竜式魔術(ルハモマギア)というかなり古い術式ってことくらいかな――問題は、次からだ」


  青い髪を左右でまとめた小柄な剣士の少女

  種族:人間 属性:無(水・風)

  体力: 65 攻撃:181↑防御: 61

  敏捷:148 魔力: 39 耐魔: 61


 表示された数値に、甲冑の男は息を呑んだ。


「これは――本当に人間か? これほどの攻撃と俊敏さは人間の範疇からは些か外れているが――」


 男の言葉に、ヨツバは頷く。


「まったく同感。まるで――人間という枠組みから切り離されたかのような歪なカタチ。これも、神秘斬滅(ルナイレイズ)の特殊能力(スキル)によるものなのかねぇ」


「神秘斬滅(ルナイレイズ)――だと?」


 魔王と呼ばれた若い男の銀色の瞳が妖しく光る。 


「そう、神秘斬滅(ルナイレイズ)――遥か昔より伝承だけがなされ、長らくその実在が疑われ続けていた希少能力(レアスキル)。世界にカタチをもたらした断ち切るという概念の具現。この娘(こ)は、その能力《チカラ》を持っている」


 仮面をカラカラと鳴らし、ヨツバは諳んじる。


「なるほど――これを召喚した魔術師の狙いはわかった。【アレ】を断ち切り、解き放つつもりか」


 銀色の瞳の男はそれだけ言うと黙り込んだ。


「おっと魔王様、まだ終わりじゃないよ。本当に問題なのは次だ」


  枷の男

  種族:人間 属性:無(空)

  体力: 70 攻撃: 55 防御: 70

  敏捷: 65 魔力: 55 耐魔: 75


「あら、まったく普通の人間ね、これは」


 暗闇の中で、女は拍子抜けしたように呟く。


「そうだね。でも、これが枷を断ち切られると、こうなる――」


  枷を断ち切られし男

  種族:?? 属性:闘・炎(光)

  体力:100 攻撃:180↑防御:160

  敏捷: 90 魔力:150↑耐魔: 90


 しばらくの沈黙。息を呑む音。


 表示された数値を見つめ、甲冑の男は納得した様子で言った。


「なるほど――もはや、これは人間ではないな。ヒトの皮を被ってはいるが、【我々の側】の存在ということか。これならばドミジウスが敗れたことにも合点がいく。単に力で抑えつけようとするだけの機械人形では、これには勝てまい――」


 甲冑の男は鼻で嗤う。纏った鎧がガチャガチャと不気味な音を奏でる。


「して、水魔軍(ラクリマ)の将よ。奴らは今、何処にいる?」


「いったん、あちら(現実世界)へと戻っていたようだけど、つい先程、召喚反応を確認した。連中は今、レシノミヤの街付近にいるはずだよ」


「ふむ――では、私が行こう。ちょうど、あの付近には【殺し漏れ】もあるのでな」


 甲冑の男が言い終えるのを待ってから、ヨツバは円卓に寄りかかるようにして問いかける。


「それで、策はあるのかい?」


「知れたこと。奴らの弱点など、その情報(データ)を見れば一目瞭然。あとはそれを効果的に突くのみ――それを教えるため、我々を集めたのだろう?」


「ふふっ、察しがいいね。そう、連中には【致命的な弱点】がある。そして、それを最も上手く活かせるのが、地魔軍(テルス)を統括する四天王――キミだよ」


 甲冑の男は、魔王と呼ばれた銀色の瞳を持つ若い男へと向き直った。


「それでよろしいか? 我らが魔王」


 魔王は甲冑の男へと視線を向け、無言のまま頷く。銀色の瞳の輝きに照らされ、甲冑の男の顔が闇の中からあらわになった。


 それは、蟲のような顔をした男。黒い鎧を身に纏い、その隙間から覗く顔貌は、まるで蠍(サソリ)が張り付いているかのような異形。


 後頭部から生える尻尾を擡げ、頭蓋に張り巡らされた幾つもの脚をワシャワシャと蠢かせながら、鎧を纏う蠍(サソリ)の男は歯を食いしばっているかのような不気味な笑みを浮かべていた。



 ○●


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。