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【斬滅】されし死の都


DC(異界歴)△4979年7月8日 4:02】



 ――目が覚めた時には既に、そこに残されていたのは数メートルに及ぶ地面の抉れ(クレーター)だけだった。


 軋むような全身の痛みを堪えつつ起き上がったアシャは、誰もいない暗闇の中に立ち尽くしていた。


「――いったい、何が――起こって――」


 天星夜(グォヴォウーシ)の時は過ぎ去り、夜空を流れる星は尽き、白光(ヒカリ)に絡み包まれていた少女(ユキナ)もまた、その場から姿を消している中で――、アシャはただ呆然と呟くことしかできなかった。


「いや、それよりも――ユキナを――探さないと――」


 ふと我に返ったように、この場から消えた幼馴染の少女の名が口を衝く。彼は顔を上げ、焦りと困惑とが綯い交ぜになった表情を滲ませて、足早にスィラハマの丘を駆け出していた。



〜〜



「な――んだ――これは――」


 シィングゥの都に急ぎ戻ったアシャは、その惨状(・・)に言葉を失っていた。


 彼の黒い瞳に映るのは、原形(カタチ)(わか)らぬほどに崩れ落ちた街の建物や家々や、それらからあちこちと上がっている火の手――そして、轢断されたように細切れ(バラバラ)にされた、人々(・・)の屍体の数々。


「み――みんな――死んで――いや、殺され――て――?!」


 アシャは思わず駆け出していた。折り重なっている死体の中を、錯乱しそうな意識の中を、彼はひたすらに、がむしゃらに走っていた。ただただ、走ることしかできなかった。


 ――何があった――? 何があった――? 何があった――?


 ――皆、死んでる――? 皆、死んでる――? 皆、死んでる――?


 どうして――? どうして――? 何故――?


 ――誰か――誰か――、いないか――? 無事な――、誰かが――どこかに――いないか――?


 様々な思考が浮かんでは、その疾走に取り残されるようにして消えていく。駆けて、駆けて、駆けて、彼の呼吸が次第に乱れていく、その最中(さなか)――。


「なにをそんなに慌てているの――? アシャくん(・・・・・)


 不意に聞こえる、背後から自身を呼び止める声に、アシャは咄嗟に振り向いた。そして目を見開く。視界に捉えたそれ(・・)を、まるで信じられないといった様子で、食い入るように凝視して。


「ユ――ユキナ――?」


 困惑したような彼の声の先に立っていたのは、白い少女(・・・・)薄蒼色(みずいろ)だった長髪は雪の如き白銀に染まり、黒々としていた可愛らしく(つぶら)な瞳は、感情が消え失せたように茫洋と揺れ、しかしその色は鮮烈な紫紅色(ルビーレッド)を帯びて――。


 それは、かつてユキナと呼ばれていた幼馴染の女の娘(おんなのこ)の、変貌し(かわりはて)た姿だった。


「いえ、アシャくん――」


 白い少女は紅い瞳を細め、その口許(くちもと)に笑みのような歪みを湛える。そしてユキナそのものの甘たるい声で、しかしユキナとは明確に異なる冷たさを帯びた口調で、彼へと話しかけていた。


「私はね、もうアナタの知っている、ユキナ(・・・)では――」


 ガタリ――と、そこまで言いかけた白い少女の言葉を遮るように、少し離れた瓦礫の中から物音が響いた。


 アシャは素早く顔を動かして、白い少女は静かに目線だけを動かして、物音のする先へと視線を送る。そんな中、ガラガラと音を立てて崩れる瓦礫の中から、幼い女の子が命からがらといった様子で這い出てきていた。


「あっ――ああっ――た、助けて――」


 涙の滲んだ瞳で、女の子は目の前に立つ少年と少女とを交互に見つめ、そしてアシャの方を見定めて、掠れた声で助けを求める叫びを上げる。


「お、お兄ちゃん、助けて――! み、みんなが――みんなの、おからだが――いきなり――バラバラにっ――!」


 ――ザンッ――。


 唐突に、女の子の叫びが途切れる。と同時に、その首だけ(・・・)が刎ね跳び、放物線を描くように宙を舞った。続いて、残されたその身体だけ(・・・・)が、驚くほど軽い音と共に瓦礫の中へと倒れ崩れ落ちる。


 一瞬の内に訪れる、静寂とそして沈黙。


 湿った音を立てて、女の子の頭部が地面へ落ちる。そこでようやく、アシャは声を捻り出し。


「今のは――何だ――? まさか――」


 ちらと、彼は視線を白い少女へと戻す。いつの間にか彼女は細い腕を伸ばし、真横へと振り上げていた。指先に生えそろった爪は白銀の光を帯び、その矛先は女の子が先程まで立っていた場所へと指し示すように向けられていた。


「今、女の子が突然死んだのは――。

 ユキナ――君の、仕業(しわざ)じゃ――」


「ええ――そう、その()()ったのは私。

 でもね――アシャくん。そもそも、私はユキナ(・・・)ではない(・・・・)のよ――?」


 小首を傾げて、気怠げにゆるりと身体を揺らし、白い少女は語る。その返答(こたえ)に、アシャは睨むように瞳を細めた。


「なら、いったい――ユキナのその身体で――ユキナそのままの声で――ユキナと変わらぬ笑みを浮かべながら――それでいて平然と人間(ヒト)を殺す――お前(・・)は――」


 一呼吸おき、そして彼は一気に捲し立てていた。


「お前は、誰だ(・・)――?」


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