表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/132

覚醒めの彼と、続く【崩潰】


 成田エリスとの邂逅から、1週間が経過した。


『――続きまして、ネ市で立て続けに発生している謎の【崩潰(ほうかい)】現象についてお伝えします。――キ区内で最初に被害が確認されてから1週間が経ち――』


 病室内に響くテレビのニュース。惨劇を伝えるその声を聞きながら、瑞穂は目を伏せ、哀しげに細められた眼差しで、眠り続ける翔真の寝顔を覗き込み、そしてぽつりと呟いていた。


「翔真さん――こんなに長く眠り続けるなんて――」


 幼くも沈みきった瑞穂の声。側で見ていた奈留もまた眉を寄せて、声をかける。


「たぶん、これは――このあいだの戦いで短期間の内に立て続けに封印を断ち切った、ってのだけが原因じゃないと思う。

 今まで何度も封印を断ち切り、使い続けてきた【覇王】の力――普通の人間が、生身の身体で行使するには重すぎるその負担の蓄積――。

 それが、この間の四天王リツルミとの戦いをきっかけに、右足の枷の封印を断ち切ったことを発端として、一気に噴出したんじゃないかなって――」


「つまり、枷の力を使うこと事態が、翔真さんの身体へ大きな負担になっているってことだよね。でも――」


 瑞穂は俯いたまま手を伸ばし、翔真の頬に触れて。


「私たちは、翔真さんの力に頼らざるを得なくて――そして今もまた、その力を必要としている」


『――未だ断続的に発生している同現象は、依然として原因不明のまま――先日には犠牲者の数が200人を超えています――当局は――』


 ニュース音声は依然として惨劇の詳細を、その規模を、粛々と伝え続ける。そしてその内容が犠牲者の人数へと至った、その時――。


「――そ――んな――に――?」


 ピクリと翔真の瞼が動く。寝言とも呟きともとれる声が、微かに震える唇から漏れて。


「翔真さん――?!」


 瑞穂は驚きとともに翔真の顔を覗き込む。


 少女の視線の先で、眠っていた少年はゆっくりと目を開いていく。


 そして虚ろな瞳のまま、彼は言った。


「ユキ――ナ――?」


「いえ、違います。瑞穂です。塚本――瑞穂ですよ――」


 即座に応え、瑞穂は翔真の掌を握る。そこで初めて、彼の瞳は焦点を結ぶ。


「――ああ、そうか――そうだよね。瑞穂ちゃん。だいぶ――長い間、眠ってしまっていたみたいで――心配かけて、ごめんね」


「まったくです。でも――こちらこそ、ごめんなさい。こんなに眠り続けなければならないほど、翔真さんばかりに、負担をかけてしまって――」


 ぐしゅりと湿った鼻を鳴らし、瑞穂は目をこする。そんな少女に翔真は優しい眼差しを向けて頷き。


「――それは大丈夫。それより、さっきのニュース――どうやら、また何やら大変なことが起こっているみたいだね。

 犠牲者は200人以上って――そんなに沢山の人間たち(ひとびと)が非道い目にあっているのに、これ以上ゆっくり眠っているわけにはいかないからね――」


 瞳を大きく見開き、ゆっくりと上体を起こす翔真。両腕に喰い込んだ枷が、冷たい金属音を響かせて。


「それほどまでの被害をもたらす()であるなら、たぶん、この枷に封じられた力が必要になるだろうから――」


「やっぱり――翔真さんなら、そう言うと思ってました。そんな目覚めたばかりの状態で、戦うつもりなんですね――まったく無茶が過ぎます。だけど――アレ(・・)を倒すためには、翔真さんの力が絶対に必要なのも間違いないので――なんだか複雑(フクザツ)です。さっきも言いましたけど、翔真さんばかりにを負担を押し付けてしまって――」


 瑞穂の声は再び沈む。その言葉に、しかし翔真はふるふると首を横に振った。


「そんなこと、気にしなくてもいい。確かに、枷に封じられた力は、僕の身体には少し負担が大きすぎるけれど――痛くて、苦しくて――だけど、僕はそれを――辛いとは思ったことはないから」


「辛いと――思わない?」


「かつての僕は――何の取り柄もなく、何の能力もなく――誰からも必要とされていなかった。

 何もないマイナスの日常。ただ消費されていくだけの日々。誰からも求められず、いつその身が消え失せても、殆どの人が気にも留めないくらい、薄っぺらい存在で――」


 そこまで言い、翔真は目線を上げる。彼は少女の潤んだ瞳を真っ直ぐ見据えて。


「でも、今は違う――それは、この枷に封じられている、【覇王の力】のおかげだから。

 そして――僕を必要としてくれて、この力を解き放つことのできる君には――とても、とても感謝しているから」


「――そ、そんな――私は、ただ――」


「だから、僕はもう失いたくない(・・・・・・)。その為の戦いに、辛いも何もない。

 かつての自分は――僕が僕になる前(・・・・・・・)(オレ)は――目の前にいる大切な人ひとり、守ることが出来なかったから――その悲しみを繰り返すくらいなら――」


「【僕が僕になる前の(・・・・・・・・)(オレ)】――? 翔真さん――あなた、やはり――」


 翔真の言葉に、訝しげに瑞穂が呟きかけたその時。短いチャイムと共に再びニュース音声が流れ出す。


『――速報です。――ネ市――ナ区上空に【崩潰】を引き起こすと思われる白い飛行物体の目撃情報が入っております。――ナ区付近にお住まいの方、ご滞在中の方は【崩潰】現象にご注意ください――繰り返します――』


「防ぎようが無いのに、どう注意しろと――」


 言いながら、サンドイッチの入ったバスケットを手にしたノエが病室に入ってきた。彼女は、起き上がっている翔真とテレビから流れるニュース画面とを交互に見据え、そして首を竦めた。


「あら、お目覚めのようね――せっかくみんなの分のおやつを作ってきたけど、この様子だとまた無駄になりそうな感じね」


「――瑞穂ちゃん、それにみんな。僕の話は後にしよう。それより、この災害を引き起こしているっていう敵のことを、白い飛行物体(・・・・・・)について教えてほしい」


 翔真の言葉に瑞穂は頷き、ちらりとノエを見やる。ノエは頷き返し、ベッド近くのスツールに腰掛けえると、膝の上にサンドイッチのバスケットを置いて、翔真と視線を合わせた。


「そういうことなら、(ワタシ)が答えるわ。前回の戦闘データを分析(アナライズ)しておいたから――」



 ○●


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ