表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/132

【対峙】する白き髪、紅き瞳の少女がふたり


 仮面を外した少女から仄かに漂うのは、上品な甘い芳香。


 肩の辺りで切り揃えられ白銀の髪をさらさらと揺らしながら、少女はゆっくりと細められていた瞼を開く。瞼の奥から現れた()紫紅色(ルビーレッド)虹彩(ひとみ)は、真正面に立っている瑞穂を見つめて。


挿絵(By みてみん)


久しぶりね(・・・・・)――瑞穂ちゃん(・・・・・)


 幼い声で、しかし気怠げで大人びた口調で、少女は言う。


「ええ、本当に久しぶり――だけど、こんな形で再会したくはなかったよ。エリスちゃん(・・・・・)


 応える瑞穂の言葉に、仮面を外した少女――成田エリス(・・・・・)は表情を少しも動かさぬまま、ふるふると微かに首を横へと振っていた。


 その表情に帯びているのは、かつて瑞穂の友達(クラスメート)として振る舞っていた時には微塵も感じさせなかった陰鬱さ。


 かつて柔和な笑顔だったそれは、凍りついたかのように無表情。肩の辺りで切り揃えられた黒く艶やかだった髪は、透き通るような白銀へと変わり果てて。黒々とした瞳は、妖しく艶めかしい紫紅色(ルビーレッド)を湛えて。


「えっ――エリスちゃん(・・・・・・)ってことは――まさか、もっちーの友達(クラスメート)で、魔族(マギアイドラ)に拐われたはずの――あの女の子――?」


 奈留は驚いたよう声を上げる。その横に立ち、瑞穂は無言のまま小さく頷いてみせる。


「そっ、そんな――でも、なんか以前と雰囲気が違うような――前はもっとお嬢様っぽい清楚な感じだったのに、今はなんか根暗っぽいし。

 髪や瞳の色も普通だったのに――白い髪に、紅い瞳だなんて――まるで――能力(チカラ)を使う時のもっちーみたいな――」


 まだ状況を飲み込めていない奈留をよそに、瑞穂はエリスへと語りかける。


「少し前から、おかしいとは思ってたよ。私に【昔からの友人】なんて、存在するはずがないもの――」


「その口ぶりだと、思い出せた(・・・・・)のかしら――?」


思い出せた(・・・・・)――? エリスちゃん。あなた、まさか私の過去(むかしのこと)を知って――」


 言い淀む瑞穂に、エリスはふるふると首を振る。


「さあ――? でも、その様子だと、まだ完全に思い出せてはいないようね」


「その言い方――やっぱり私は、まだ何か大事なこと(・・・・・)を忘れている――ってこと――?」


 困惑したように問い掛ける瑞穂に、エリスは憐れむように瞳を細めて。


「わからないのなら、無理に思い出そうとする必要はないと思うけど。

 【断ち切られた】自身の記憶、あなたひとりで取り戻そうとするのは不可能なことだから」


「【断ち切られた】――私の記憶――」


 噛みしめるように呟くと、瑞穂は不意に握りしめていた刀剣を構え直した。


「どうして、そのことを知ってるの。あなた、もしかして――アレ(・・)と関係があるのかな――? それなら、この場で決着を――」


「そうピリピリしないで。私はアレ(・・)とは――あなたの大事な人を死なせたアレ(・・)とは、何の関係もない。ただ私は――」


「ちょっ、ちょっと――!」


 わけがわからないと言いたげに顔をしかめて、奈留は声を上げた。


「さっきから何を言ってるのかさっぱりだけど、今ここに広がってる惨事は、あんたの仕業ってわけじゃないの――?」


 手を広げ、周囲に散乱したアスファルトの破片の数々を、崩れ落ちたビルの残骸を、それらの隙間に埋もれる肉片を指し示して――問い掛ける奈留を、エリスは一瞥する。


「まさか。私は様子を見に来ただけ――」


「様子を――? いったい(なん)の――?」


 当惑したように独り言ちる奈留をよそに、エリスは瑞穂の方へと向き直り、小首を傾げてみせる。


「或る覚醒(めざめ)の――ね。

 それより、瑞穂ちゃん――」


 言われ、瑞穂はハッとしたように瞳を見開く。(あか)(あか)の瞳同士が、その視線がぶつかる。


「エリスちゃん――あなた、何が目的なの。わざわざこんな回りくどい真似をして、友達であると偽って、拐われるふりまでして、私の前にあらわれて――どうして、こんなことを――」


 瑞穂は問い掛ける。不審げに眉を潜め、仄かな雪色のツインテールを揺らしながら。


「わからないのなら、答える必要は無いと思うけど――」


 肩のあたりで切り揃えられた白銀の髪を掻き上げ、エリスは気怠げな声で言い放つ。


「もし、それを知りたければ、あちら(異世界)のヨドリヴァの森まで来るといいわ。

 今のあなたが持ち合わせていない、あなたの記憶――取り戻すヒントをあげる。そうすれば、何か見えてくるかもしれない――」


「ど、どうしてあなたが――私が【断ち切った】もののことを知って――」


「この仮面の魔族(マギアイドラ)――ヨツバ(・・・)には、記憶(・・)に介入し、それを掘り起こす、そういう能力(チカラ)があるから――。

 でも、あなたが【断ち切り離した】ものは、あまりにも【切り離され】すぎていて、最初のうちはヨツバにも手が出せなかった――だから、同格の(おなじような)能力(チカラ)を持つ、私がそれを【曲げて】、拾い上げて――覗き見たのは、その時」


 言いながら、エリスはふと思い出したように足元に転がっていた仮面を――仮面の形状(カタチ)をした魔族(マギアイドラ)、ヨツバを拾い上げ、そして握り締めた。


 ヒビだらけの仮面から、這うように無数に走るその隙間から、白く濃い霧が噴き出す。濃霧はエリスの身体に纏わりつくように流れ、少女の小さな身体を包み隠しつつあった。


「ちょっ――エリスちゃん! 待って、まだ意味がよく解らな――って、話はまだ――」


「――それじゃ、待ってるから」


 瑞穂の咄嗟の呼びかけに、エリスは気怠げにその一言だけを返す。


 いつの間にか、湧いた濃霧の中へと溶け込むようにして、成田エリスはその場から消え失せていた。



 ○●


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ