0101010101
俺は今、とても大切な日を迎えていた。
それは結婚式。人生に一度か二度迎えられるかという一大イベントだ。
いやいや、二度迎えちゃ駄目だよな。何言ってんだ、俺は。
……落ち着け、落ち着くんだ。俺……。
俺は新郎の控え室で緊張MAXになりながら、部屋の中を行ったり来たりしていた。
そこへ扉をノックし、断りも無く入ってくる奴がいる。
……俺の悪友だ。
「よう! 我が親友!」
「誰が親友だ。俺はお前を一度も親友だなんて思ったことは、一度も無い」
連れない態度を取る俺に、悪友は全く堪える事なく肩を組んでくる。
「おいおい……邪険にすんなよ……。大体、今の彼女と一緒になれたのは一体誰のお陰だ? いってみ? いってみ?」
俺ははっきりと答える。
「少なくともお前のせいではないな。誰のお陰と言うのなら、俺の旧友……本当の親友のお陰だな」
その言葉を聞いた瞬間、悪友は頭を下げ、がっくりと項垂れる。
……正直、うざいから肩を離して欲しいんだがな……。
「お前、もう帰れよ」
「いやいや、今日はお前の独身最後の日じゃねぇか! もう少し語ろうぜ!」
何言ってんだ……こいつは……
俺が悪友に絡まれること数分、また誰かが扉をノックしてきた。
それは、結婚式場のスタッフだった。スタッフは、扉に入らずに声をかけてくる。
「すみませーん。新婦の準備が出来ましたので、式場の方までお願い致しまーす」
「わかりましたー!」
俺はスタッフに返事をすると、悪友から逃れる為に半ば強引に肩を組んでた腕を振り払う。
「ほら! 今の聞いてただろ!? さっさと出て行けよ!!」
「へへっ! 式場で待ってるからな!」
ようやく部屋を出ていく悪友。俺は鏡の前で改めて身だしなみを整えると、新婦を迎えに新婦の控え室に行く。
うぅ……緊張が止まらないぜ……
新婦の控え室の前に着いた俺は、腕をぶるぶると震えさせながら、扉をノックする。
「……どうぞ」
中から声がしたので、俺はゆっくりと扉を開け中に入る。
「おおう……」
俺はウェディングドレスを着たマイハニーを目にし、言葉を失ってしまう……
「……綺麗だぜ! マイハニー」
「……何を言ってんのよ……馬鹿」
やばい……つい本音が出てしまった。まあ良いか。本当に綺麗何だから、しょうがないよな。
「じゃ、行こうか……」
俺は、マイハニーにそっと手を差し出す。
「ええ……ダーリン」
マイハニーも俺の手をそっと、優しく握り返す。
「……そのダーリンっての、やめろよ……」
俺とマイハニーは新婦の控え室を後にして、皆の待っている式場に向かった。
式場の扉の前にはひとりのスタッフが俺達を待っていた。
「それでは……準備はよろしいですか?」
「は……はい!」
「……はいぃ!」
俺とマイハニーは思った以上に上ずった声で、答えてしまう。
だけど、スタッフは特に気にする様子も無く、躊躇無く扉を開けると……あの有名な台詞が部屋の中から聞こえてくる。
「それでは新郎、新婦のご入場です!!」
「うおぉう!」
「うおぉう!」
緊張の為、一瞬立ち止まってしまう俺とマイハニー。
だけど、繋いだ手を今一度お互いに力強く握り返すと、思いきって式場の中に足を踏み入れる。
ゆっくり、一歩一歩、前に進む俺達を皆が拍手で包んでくれる。
途中、悪友が「大統領!」とか茶化して来たが、直ぐ様隣にいた俺の親友に取り押さえられた。
……すまない……親友よ……恩に着る……
そして、俺達は神父の前にたどり着くと、拍手が静かに鳴り止む……。
俺達はお互いに愛を誓うと、神父は俺の前に結婚指輪を差し出す。
「では、これを……」
「は、はい!」
俺は結婚指輪を手にするとマイハニーの左手を握り、薬指に結婚指輪をはめる……。
……駄目だ! 手が震えるぜ!!
「……おお落ち着いて、ダーリン……」
「だだだから、ダーリンは止めろってば……てか、お前も震えてんじゃん……」
01010101010101010101………………
「……ん?」
突然、マイハニーの薬指にはめようとしている結婚指輪が、ぶれて見える。
「どうしたの? ダーリン」
「いや、何でもない……」
俺は、右手で軽く瞼を擦る。多分、緊張のせいで眼が疲れてたんだろ……。
やっとの事で結婚指輪をはめると、大きくため息をつく。
神父は、俺とマイハニーの顔を軽く確認すると、両手を広げついにあの台詞を言い放つ。
「では……誓いのキスを」
きたーー!! これまで何度かやって来たが、公衆の面前でするのは初めてだ!! でも大丈夫! 百人に見られても大丈夫!! 何を言ってるんだ!! 俺は!! そんなわけあるかい!!
「……ダーリン」
覚悟が決まらずただ震える俺に、マイハニーはふわりと顔を上げてくる……。その身体は俺と同じ様に震えているというのに……
何やってんの! 俺! 腹を括れ!! うおぉう!!
俺は覚悟を決め、できる限りマイハニーの肩を優しく抱く。少しだけびくりと動くマイハニーの身体。さあ、行け! 俺!! 男を見せるんだ!!
徐々に近づく、俺とマイハニーの唇……。
………………その時………………
「きゃあああーーー!!!」
突然、招待客のひとりが大声を上げる。
「なんなのよ、これー0101!」
驚いた俺達がその招待客の方を振り向くと、いつの間に出来たのか、そこには、大きく黒い穴が渦を巻き、声を上げる招待客の身体は、多量の0と1の数字に化けてその大きく穴に次々と吸い込まれていく……。
……いや、人だけじゃなかった。周りの壁やテーブル、椅子といったありとあらゆる物が次々と数字に化0101の大きな穴に吸い込まれていった。
「な、な01んだーー!? あれ01ー!?」
「助けてーー!! 01こまれるー!!」
目の前のあり得ない光景に、俺はマイハニーの肩を抱きながら、少しの間呆然としてしまう。
「お……おい……何なんだ……? あれ……?」
「……わ……解らない……」
そして黒い渦は数字を巻き込みながら、どんどん俺達の方に近づいてくる……!!
0101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101………………
「に、逃げるんだ!!」
「うん!!」
俺はマイハニーの手を掴み、強張っていた身体を何とか動かすと、急いでその場を離れた。
(やっぱり、これは無いよな……)
……!? 何だ!? 今の声は!? 何処から聞こえて来たんだ!?
「きゃあ0101ーー!!!」
「一0101おこってるんだーー!?」
俺達が逃げる間も、黒い渦は容赦なく招待客や壁等を0と1の数字に化けさせ、飲み込んで行く。
(もうちょっと、泥々な話の方が受けるんだよなぁ……)
……くそっ!! また聞こえた!! 一体何なんだ!? この声は!?
俺達は何処に行ったら良いかも判らず、必死になってあの黒い渦から逃げまくる。
……と、その時、マイハニーを掴んでいた俺の手がふわりと軽くなる。
「!?」
俺は急いで後ろを振り向くと、マイハニーの手が何故かみるみる内に0と1の数字に化けて行く……!!
いや、手だけじゃない! 両腕、両足もどんどん0と1になって宙に浮いて消えて行く!!
何でだ!? 黒い渦には吸い込まれていないのに!?
「……ダーリン……」
「ハニー!!」
俺はマイハニーの身体を取り戻そうと、宙に舞う0と1を死ぬ気でかき集めようとするが、どんなに頑張ってもその数字は掴めない!!
「嫌! 0101! 0101!」
「ハニーーー!!!!」
俺はマイハニーの身体が消えないように抱きつくと同時に、マイハニーの身体は無惨にも数字化して宙に消えていった……!!
「何なんだよ……!? 訳が解らねぇ……」
(次は、もっと練らないとな!)
また……またあの声が聞こえた!
「誰だ!? 誰なんだよ!? お前!! 出てきやがれ!!」
しかし、俺の声は届かないのか、その声は次にこう言った。
(……削除)
「……あ?」
その言葉が吐かれた瞬間……俺と俺の周りの世界は一斉に0と1の数字と化し、空中に浮遊し始める……。
「何なんだよ!? 何なんだよ!? これ!?」
どんなに抗っても、俺の身体から0と1の数字が抜けて行く!!
「うわああああああああーーーーーーーーーー0101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101!!!!!!!!!!!
――――この小説は削除されました。