タイムスリップRadio
ここは日本の地方都市に隣接する小さな町。
そこでは、誰かの物語(小説)が綴られ
今日も誰かが、その1ページ目を開いた。
ほら!一台のタクシーが、こちらに近づいてきた…
私は週に一度、金曜日の21時からはタクシーを公園脇に止めて、30分休憩する事にしている。
理由はこれからの夜勤業務に備えて…ではない。幸せだったあの頃に戻る為だ。妻が娘を連れて、男と一緒に出て行く前の、あの頃に…
21時…ラジオからは、女性DJの流暢な曲紹介で番組がスタートした…
◇◇
「音波!ほら、始まったよ!」
私の声に音波は、夢中で遊んでいたウサギの人形を家に戻して、バタバタと走って来た。勢いよく私の胸に飛び込んで、そのまま膝の上に腰掛け、ニヤニヤと私の顔を見上げていた。
「ねぇ?今日は何が流れる?」
「何だろうね?」
ラジオから流れてきたのは、ナット・キング・コール&ナタリー・コール[アンフォゲッタブル]だった。
この曲はナット・キング・コールが1951年にリリースして大ヒットしたジャズのスタンダード・ナンバー。1991年になりコールの愛娘、ナタリー・コールがオーヴァーダビングを行った事で父と娘、夢のデュエットが実現した名曲だ。
「私、この曲好き!」
「そうか音波もか!パパも、この曲大好きだぞ!」
嬉しそうに、曲に合わせて体を揺らす音波を、私はただただ見つめていた…
◇◇
今日も21時には、いつもの公園であの頃へタイムスリップしようと決め、車を走らせていた。
夕方、私は一人の女性を乗せた。
「Jet’s Radioのスタジオまでお願いします。」
「…はい」
暫く走っていると…
「運転手さん。いつも、Jet’s Radioを聴いてるんですか?」
「えっ?」
「偶然乗ったタクシーで、うちのラジオが流れてると、嬉しくてつい、すみません。」
「私、洋楽が大好きなんで、洋楽が沢山流れるJet’sさんを、いつも聴いてるんです。」
「わぁ〜!ありがとうございます!運転手さんも洋楽好きなんだ!私も大好きなんですよ!」
「今日も21時から聴きますよ!」
「えっ?私の事、知ってるんですか?」
「毎週楽しみに聴いてますから!先程、偶然乗ってこられた時は、正直ビックリしましたけど(笑)」
「そうだったんですねー嬉しいです!」
すると、カーラジオから[アンフォゲッタブル]が流れてきた。
「あっ!私、この曲好き!」
「えぇ、それも知ってますよ!」
「えっ?運転手さん、こわ〜い(笑)」
バックミラーに映る彼女は、曲に合わせて体を揺らしていた。
「だって私は、DJ音波さんの大ファンですから…」
「なろうラジオ大賞」1作品目