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杜都と翼

何で、教えてくれなかったんだよ

 横田沢(よこたざわ)(つばさ)、学校行事は常に全力で取り組む中学1年生。文化祭、合唱コンクール、新人大会など、2学期は学校行事が多く、「減らせよ」という声も挙がるが、自他共に‘お祭り男’だと認める翼は、「盛り上がれば何でもいいじゃん」と熱心に取り組み燃え尽きる。

「ある程度手抜きが必要だよ」と教えられても、翼の辞書には‘手抜き’という単語がない。何事も全力で取り組む、これが翼のモットーだ。



 行事ラッシュが落ち着いた11月初旬。兄・空也(くうや)が通う陸奥大学の大学祭に、天王寺(てんのうじ)杜都(もりと)と二人で訪れた。杜都の姉・樹志花(じゅしか)もこの大学に通っており、空也と同じ理学部だ。

 日曜日ということで、多くの人が大学祭に訪れていた。

「人、多いなぁ…迷子になるなよ、杜都」

「それは、こっちのセリフ」

 二人が大学際に来た理由は、「所属しているサークルが屋台を出す。売上に貢献するために客として食べに来い」と空也から命令に近いことを言われたからだ。翼と杜都は部活が休みということで、大学祭に行くことにした。

「君のお兄さん、何のサークルに入っているの?」

「確か、サークル名は‘自由’とか言ってたな」

「どういう活動してるの?」

「ずっと前に説明してもらったけど、内容がよく分からなかったんだよね」

「分からないんじゃなくて、覚えていないだけなんじゃ…」

「いや、ホントに分からん。特に、内容は決まってないとか言ってたな」

「ふーん…」

 杜都は興味を失ったようだ。

「兄ちゃんが言ってたけど、陸奥大学には変わったサークルがいくつもあるんだって」

「例えば?」

「兄ちゃんが所属している‘自由’もその一つ」

「他は?」

「他は…ごめん、知らん」

「…だよね」

 そうこうしているうちに、屋台が並んでいる場所に着いたが、人が多く、‘自由’の屋台を見つけることが難しそうだ。二人は屋台を諦め、校舎に入ることにした。


 校舎に入ると、女性が翼に向かって手を振っているように見えた。

「知り合い?」

 杜都も気づいたのか、聞いてきた。

「見覚えはあるけど…誰だろ」

 手を振っていた女性は、誰かに呼ばれたのかその場を離れた。

「あの人は誰だったんだろう?」

「翼君は、人の顔を覚えているのが苦手だからね」

「杜都は得意なのか」

「得意というか、普通かな…」

「にしても、大学祭って、中学の文化祭と雰囲気違うよな。何というか、テーマパーク?」

「翼君は初めてだっけ、大学祭に来るの?」

「お前はあるの?」

「幼稚園の頃に、兄と二人で」

「えっ?!」

 翼は思わず大声を出した。周囲の人々が注目する。

「翼君、声が大きいよ」

「大きくなるだろうよ」

 杜都に兄がいる。驚きと同時にショックを受けた。

「何で、教えてくれなかったんだよ」

「兄がいるかって、聞かれてないし…」

「あのなぁ…」

 そいうえば、杜都は自分自身についてのことを話すことはしなかった。何で、東京から仙田市に引っ越してきたのか。何故、姉と二人暮らしなのか。両親はどうしてるのか。

 翼は、ふつふつと怒りが沸いてきた。杜都と話しをしたくない。一緒にいたくない。

「帰る!」

 翼は、杜都を置いて、そのまま帰ってしまった。



「杜都君に、お兄さんはいないよ」

 空也がさらりと言った。

 夜、大学祭が終わり、空也が帰ってきた。翼は興奮気味に、今日杜都と話したことを伝えたら、返事が返ってきた。

「えっ、だって、杜都がいるって…」

「樹志花は、兄弟は姉と弟しかいないって言ってたけどな…」

 翼の頭の中は混乱していた。樹志花さんの他に姉がいるのか…。

「どういう家族構成なんだ…」

「詳しいことは、明日、杜都君に聞いてみたら?」

「いや、それは…」

 今日のことを考えると、聞きづらい。

「樹志花に頼んでみるか。月曜日はバイトも休みだって言ってたからな。たぶん、予定はない。明日、部活あるっけ?」

「あるけど、終わるのは早いよ」

「家近くのファミレスで落ち合おう。明日は、お袋も親父も仕事で帰りが遅くなるから、そこで、夕飯を食べよう」

 翼は迷わず、首を縦に振った。



 杜都と似てないな…。

 樹志花を初めて見たときの感想だ。

 会うのは三度目だが、3回とも同じ感想が出る。

「注文は決まった?」

 空也が聞いてきた。

「えぇ~っと、ハンバーグとステーキのセット」

「いつもと変わんねえじゃん」

 料理が運ばれてくるまで、空也が一方的に喋っているだけだった。普段なら、翼も喋る場面だが、樹志花の静かな気迫に押されていつもと同じようなことが出来なかった。

「食べ終わったし、何から話そうか…」

 樹志花が口を開き、翼を見た。空也も翼を見ている。

「家族構成についてですが…」

「大雑把だな」

「お兄ちゃん、口を挟まないで。両親とは別々に暮らしてますけど、死んでいるわけでは…」

「両親は二人とも健在している。今は、アメリカ暮らしだ」

「あぁ、そうなんですか」

 翼は内心ホッとした。

「お前、人の両親を死んだ人のように扱うなよ」

「いや、そう思ったから聞いただけだよ」

「だとしても、そうは聞かないだろ」

「話しを進めていい?」

 樹志花が冷めた口調で聞いた。横田沢兄弟は、首を縦に振った。

「姉は、私の3歳年上で、今は東京にある美大に祖父の家から通っている」

「おじいさんもいるんですか」

「…杜都から何も聞いてないか…」

 樹志花が独り言のように呟く。

「昔から、杜都は、自分自身については何も話さなかったからな。といっても、幼い頃の杜都については何も分からないが…」

「えっ!?」

 翼は驚いた。幼い頃の杜都については何も分からない?

「もしかして、杜都と仲が悪かったとか…」

「これも話してないか。杜都は養子なんだ」

「えええっ!?」

 昨日、今日と何回驚いたんだ、俺。

「驚くようなことじゃ…」

「いや、驚くでしょ、普通」

 杜都と樹志花が似てないことも納得した。二人は血が繋がっていなかったのか。

 翼が落ち着いてから、樹志花は続きの話しをした。


 杜都の実の母親と樹志花の父親は、5人兄妹の末っ子と三男。末っ子である杜都の実の母は、大学卒業後に結婚。2年後、息子を一人産んだ。それが、杜都のお兄さん。更に、8年後、次男である杜都も産まれた。

 杜都が小5の時、事故が起き、両親は巻き込まれて死亡。父方の祖父母も亡くなっていたので、息子2人は、樹志花の父親が引き取ることにした。

 だが、8つ年上の兄は、経緯は知らないが、中学卒業と同時に家を出て、今でも行方が分からず。

 杜都一人だけ、養子に迎え入れるものの、即に樹志花の家族は仙田で暮らしており、杜都は小学校を卒業するまで、東京を離れたくないと主張。

 話し合いの結果、東京に住んでいる樹志花の祖父と小学校を卒業するまで過ごすことになった。


「そうだったのか…知らなかった」

 翼は、衝撃を受けた。杜都の実の両親が亡くなって、兄は行方不明。聞きたいことは山ほどあったが、樹志花を見ると、答えてくれる気がなさそうなので、止めておく。

「杜都の許可なく聞いて悪かったかな…」

「あぁ、それなら、今朝杜都に伝えておいたぞ。お前の過去について、翼くんに話すかもって」

「杜都、嫌がってませんでしたか?」

 翼は恐る恐る聞いた。

「全く、そんなことなかったな。‘どうぞ、ご自由に’、ってな」

 いかにも、杜都らしい。

「今後、杜都にどう接すればいいのか…」

「お前は、杜都君と仲直りする方法を考えればいいよ」

「えっ…」

 翼は思わず空也の方を見た。

「翼のことだ。昨日のこともあって、今日はろくに話さなかっただろ」

 図星だった。今日は、杜都と一言も話してない。

「許してくれるかなぁ…」

「杜都は、気にしてなかったけどな」

 樹志花は言った。

「元から物事に執着するようなタイプではないからな。ごめん、と一言謝ればいいさ」

「それで大丈夫ですかね?」

「大丈夫かそうでないかは、翼君が決めること。さて、帰るか。代金は…」

「無理やり身内の話しをしてもらったから、今回は俺の奢り」

 空也が財布を出す。

「そうか…ありがとう」

 樹志花が帰ったあと、翼はあることを空也に聞いた。

「兄ちゃんって、樹志花さんのこと好きなの?」

 空也はガハハと笑う。

「好きといえば好きかな。俺もよく分からないさ」

「分からないって…」

「それより、お前は杜都君と仲直り出来るか心配しろよ」



 翌日。翼は緊張しながら学校へ向かった。

 なんて謝ればいいんだ。昨日の夜から同じことを考えていた。

 教室に着くと、杜都はすでにいた。何かの文庫を読んでる。遠巻きに見ていたが、これでは何もダメだと思い、杜都の席に向かった。

「おはよう、杜都」

 杜都は顔を上げて、

「おはよう、翼君」

と、挨拶を返した。

「日曜日はごめん。俺、勝手に一人で怒っちゃって…」

「あぁ、あのこと。それなら、気にしてないよ」

 樹志花の言う通りだった。

「これからも、仲良くしてくれる?」

 杜都は、少し笑って、

「もちろんだよ」

と答えた。


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