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ラビンスキーの異世界行政録  作者: 民間人。
三章 聖俗紛争
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継ぎ接ぎの剣4

 彼女の付き人は私に丁寧に頭を下げると、彼女を連れて部屋へと戻っていった。言いようのない憤りと気まずさから鍛錬に戻る気になれなかった私は、人のいないルシウスの書斎に篭って山積された魔道書などを読んで過ごした。


 兵士たちの夕食が始まる鐘の音が聞こえると、部屋の前は通り過ぎる近衛兵のざわめきが通り過ぎる。魔道書の読み込みにもに飽き始めた私は父上の迎えにでも行くかと立ち上がる。


 ルシウスの部屋から一旦父の書斎に戻り、城の召使いに着替えを手伝ってもらう。汗だくの運動着では流石に周囲を騒然とさせかねないのだ。着替えを終えると、私は早足で会議室の方向へと向かう。


 近衛兵が集う食堂の賑わいを抜けると、王城には明るく綺麗な大理石が目立つようになる。今尚改修工事の続く王城は終日カンコンと音が鳴る。私は改修途上のフラスコ画の改修工事を眺めながら、会議室への道を急ぐ。今日は鍛錬のついでに父上の迎えに赴いていた。


 質素な生活を好んだ賢王と比べ、派手好きな現王はブルジョワジーと大変仲が良い。周りに侍るは異端の金融業者、絹商人、舌打ちが癖になった聖職者など、金貨に群がるハイエナ達だ。


 王の周りは相も変わらずブルジョワジーが纏わり付き、付き合いで任命された貴族達は君主院でしかめ面をする。それが一層王の機嫌を損ねるのか、彼は一層商売人の肩を持つ。


 私は、しかめ面する一団の中に父の姿を認めると、そこからなるべく距離を取り、スカートの裾を持った。貴族の一団がコソコソと何事かを耳打ちする姿を訝しみながら、会議室の前で会議の終わりを待つ。

 今夜の会議は非常に長く、商人たちはしきりに舌打ちをしながら月が動くのを気にしている。


 王は退屈そうに議事を眺め、説明する貴族の眉間に険しい視線を向けている。教会からの還俗者であるアーロンという男が腹をさすりながら父に耳打ちをする。商人達は会議を切り上げよと悪態を吐く。王はその言葉に頷いた。貴族はそれでも食い下がる。


 妙な雰囲気に気づいた。明らかにおかしい。何がおかしいのかまでは分からなかったが、その違和感に気付き、私が扉の中に踏み込もうとした、まさにその時である。


 蠢く影が王の心臓を的確に射抜いた。騒然とする現場に、兵と救護を指示する貴族、商人達が暗殺者を取り押さえた。


 何処に潜伏していたのか、何が起こったのか、私はすぐには理解できなかった。しかし、直感的に、それがこの国を傾けるには十分な要素であることは理解できた。


 王は心臓を一突きされて即死。影の正体は素人の召使いで、バタバタと暴れながら兵士達に取り押さえられている。貴族達はまるで予期したかのように兵を淡々と指揮する。兵士が暗殺者を連れ帰ると、貴族と商人の入り混じった大臣達はさっさと会議室を後にした。


「父上、ご無事でしたか?」


 私が駆け寄ると、父上は椅子から立ち上がり、早足で議場を後にする。黙ったままで移動するのは、思考を巡らせている証だ。父上はそのまま人のいない書斎の扉に手をかけながら、初めて口を開いた。

「ライサ、ルシウスを呼びなさい。これからのことを話そう」


 扉が大きな音を立てて閉ざされる。私は優雅な振る舞いも忘れて、ルシウスの部屋へと駆けていった。


また忙しくなります。

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