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ラビンスキーの異世界行政録  作者: 民間人。
四章 国際紛争
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開戦まで

 ラビンスキーはゴーレムを引き連れて軍隊の後を追った。幸い、大軍勢を動かすにはあまり速度を上げることができない。遅れも簡単に取り戻し、最後尾について行くことができた。


 日も傾き始めると、兵士は三分の一が寝転がってくつろぎ、三分の一が簡単な鍛錬をし、三分の一が警戒態勢を敷いていた。ラビンスキーはというと、薪になりそうな枝などを集め、ゴーレムは二羽ほど兎を狩って戻ってきた。


 ほとんどが皇帝の軍勢であるためか、ロットバルトの軍勢は裏切りをさせないためにわざと警備を任せずに包囲されていた。そんな光景に不満を漏らす顔の白いムスコールブルク兵の無気力さたるや、裏切りも何もあったものではない。半分が寝息を立て、半分が談笑をしながら暇をつぶしている。約一名武器の手入れをする男がいるが、無論例のマニアである。


「ラビンスキー君、ちょっといいかな?」


 ラビンスキーが拾い上げた薪を撒きバッグに仕舞いながら振り返る。そこにいたのは、普段よりもさらに凛々しく険しい表情をしたロットバルトだった。


「なんでしょうか、ロットバルト様」


「いや、軍の配備の事で会議をしようと考えているのだが、参加してくれないだろうか。君は専門家ではないが、偶に奇策を思いつく策士のようだったからね」


 ラビンスキーは薪を持ったまま硬直していた。兵士たちの談笑に紛れて、ずるをしただのしていないだのと言い合いを始めたのが聞こえる。ラビンスキーは薪の先を整え、屈みがちで痛くなった腰を摩りながら姿勢を正した。


「はい、そういう事ならば参加いたします」


「有難う。案内するよ」


 ロットバルトはテントを張ろうとして手こずる兵士達を軽く諫めつつ、すぐに巨大な野営用のテントへと向かって行った。



「集まったか」


 本部にはロットバルト、シモノフ、ルシウスとその使用人としてユウキ、エストーラ王子マックス、ハングリアの騎士団長、マティア・コルビヌス、そしてアツシが簡素な折りたたみ机を囲んでいた。机上には地図が広げられ、敵と自軍の位置が示されていた。


 殺伐としたという言葉がよく似合う、途轍もない緊張感が漂っている。


 そんな中でもルシウスは悪びれる様子もなく鼻歌を歌いながらゴーレムを作っている。やがて魔術を用いて一同の目前に王が現れ、恭しい礼とともに会議が始まった。


「流石にまだぶつかるほどは近づいていないようですな」


 シモノフが地図を眺めながら呟く。一同が皇帝に視線を送ると、皇帝は地図の中央あたり、プロアニアの王都から暫く南東側に当たる位置を指差す。


「この辺りで野営をしているらしい。五十人ほど徴兵したようだ。余としては、もう少し早いかとも思ったが、もう少し兵をあつめながらくるであろうな」


 マックスが敵の軍を示す赤い置物を示された位置に動かす。地図の縮尺からすれば、あと二週間もあれば両軍がぶつかるかも知れない。


「……今回も新兵器を開発してくるのでしょうか?」


 シモノフが不安そうに皇帝に意見を求める。皇帝は目を瞑り、静かに頷いた。


「……で、あろうな。先刻のペアリス戦においては未だ状況を把握しかねるが、ほんの七百で三千の軍勢を追い返したと聞く。なんらかの技術革新が起こっていることは間違いない」


 ロットバルトは魔法剣の柄をさりげなく構いながら言う。隣で屈み込むルシウスがひゃん、と声を上げたあたり、背中に水でも垂らされたのだろう。不快そうに顔を上げるルシウスは、出来かけのゴーレムを庇いつつ、渋々立ち上がった。


「……恐らくは、火器の開発が進んでいるものと思います」


 ルシウスが意見を述べる。周囲がざわついたのは、それが余りに貴族然とした振る舞いだったからだろう。ルシウスはその反応に眉を寄せる。一応は貴族なのだから、その程度の作法は弁えていると言いたげだ。


「……火器か。私は弓の方が優秀だと思うが」


 皇帝が呟く。それに対し、マックスは非難の目を向けながら返した。


「威力ならば断然火器です。確かに、この場合、包囲戦をされたら一網打尽、地形を生かしつつ弓兵の連射性能と重装歩兵の守りで追い詰めるのが得策だと思いますが」


「へぇ、面白いじゃないですか。武器を奪って解析できる」


 マティアが腕組みをしながら言う。コボルトであるマティアは小柄だが、歴戦の戦士らしい自身に満ちていた。野営用のテントということもあり、外の音は筒抜けになっており、警備兵がサボっているとすぐにわかる。ラビンスキーであっても、時折歓声が湧き上がると、つい反応してしまう。


「……と、すると飛距離がある火器の優位性を削ぐ必要があるな」


「左様。そこで、ルシウス卿の力を借りたい」


 星の秘跡を辿る皇帝は、そっと両手を合わせて目を瞑る。ルシウスは唐突に振られ、きょとんとしている。


「え、私ですか?」


「動き再生する巨壁、君ならば作れよう」


 ルシウスは頭を掻く。作りかけの小型ゴーレムを持ち上げ、急ピッチで法陣を刻み始めた。一同の刺すような視線。ユウキだけが彼を見ずに、周囲の状況を観測していた。法陣を書き終えたルシウスは、簡単な魔術解を記して式を完成させる。最後にトントン、と軽く叩くと、小型ゴーレムは動き始めた。それはそのままテントの外に出て行った。


「無茶なこと言ってくれるなぁ、もう……」


 ルシウスは頭を掻き、ブツブツとつぶやきながらテントを後にする。ルシウスが完全に退場した後、一同は再び地図に目を下ろした。


「やはり魔法戦ですかね」


 ラビンスキーに対し、ロットバルトが増員された駒を眺めながら答える。


「相手は鍛錬のされていない徴兵達を中心に編成されている。爆音に慣れていないものも少なくないだろう」


「……こちらの火器はどうなっていますか?」


 シモノフが訊ねる。マックスが指を三本立てる。


「大砲が三十、魔術師は?」


 マックスはロットバルトに視線を送る。ロットバルトはすぐさま答えた。


「中心は炎適正ですが、二百といったところです」


「……と、なると。恐らく国境のエルバ川中北部の橋を挟んでぶつかると考えられるので……」


 シモノフは戦場を想定した別の白紙の紙に、兵士の模型を配置した。模型1つにつき百として、敵は5つ、自軍は1つにつき千として、11個を並べる。川を表すために南側を石で遮り、三本の橋の部分だけを開放した。そして、南東側に自軍、北西側に敵軍を配置する。


「……包囲すれば一網打尽だなこりゃ」


「しかしこの橋を越える必要があります。一度には精々数騎しか渡れません」


 マティアが自軍の駒の配置を行う。川を背にしてV字に両翼を広げ、敵の本陣を包囲しやすいように配置した。後方には弓兵を配置し、中央を重装歩兵で守る。火砲兵はさらに後方に配置する。


「騎兵が中心だと、火砲は使いづらいでしょうな」


 シモノフは包囲の為の騎兵部隊に怪訝な表情を浮かべる。マティアはくつくつと笑いながら、それはもう楽しそうに駒を進める。


「それじゃあ、あなた達は馬から降りればよろしい。私たちは暴れ馬など慣れたものだからね」


 一方で、マックスが敵の兵を動かす。逆に先鋒を中央に配置して、両翼で守りを固める。


「敵の兵力が分散している状態ならば、こうするでしょうね」


 彼が突破口として選んだのは後方ーつまり音に敏感な騎兵の乱れを突こうとした。弓兵からの攻撃が届かないように、間に土嚢を詰める。一方でマティアも弓兵を前進させて応戦する。


「そこまでだ。煽り合いは合理的ではなかろう」


 皇帝の一声で、二人の手が止まる。皇帝は双方の配置を戻すように指示し、自軍は橋の手前に、橋を挟んだ向こう岸に敵兵を配置した。


「こうである場合は、相手に分がある。相手が橋を渡るまで、後方で待機しておくのが良かろう」


「……どちらが良いかは敵の行軍ペースによります。最悪、敵に弓が届かない懸念もある。同地での接触を避けるのが無難でしょう。もっとも、敵と私たちの備蓄については、こちらが先に尽きるかもしれません」


 シモノフは食料の蓄えを懸念して呟く。皇帝が頷き、元の地図を眺める。


「……囲む為に一気に進軍させる。狭い谷で行軍をやめたら、また考えよう」


 一同は軍人特有の大きな声で返事をする。皇帝は返事を聞き終わる前に魔法を解いてしまった。


(ぜんっぜんわからん……)


 ラビンスキーは返事はしたものの、まるで頭の中を整理できないでいた。

 本日も拙作をお読み下さり、有難うございます。

 小説について、報告いたします。過去の章について非常に読みにくい形式だったことから、文章内に空欄を入れ、読みやすくしました。内容には変更はございません。


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