赤い世界編1
集は白い空間に漂っていた。
目の前には大きな大きな白い蛇がいる。
蛇は集の頭を噛みちぎる。
首の断面から肉がもこもこと盛り上がり、集の頭が再生する。
蛇の同じ顔が4方向から集の四肢を噛み千切る。
それもゆっくりと再生する。
悲鳴をあげようとしても、声が出ない。
逃げられない。
いつまで続くのだろうか。
「無神君!大丈夫?!」
またこの夢だ。
目を開けると、大樹が心配そうに集を揺すっていた。
大丈夫と言いたいが、声が出ない。
「凄いうなされてたけど」
「だ、いじょう……ぶ」
やっと声が出せた。
最近よくこの夢を見る。
手が痺れているので、握ったり開いたりしてみる。
血管がはち切れそうな程浮き出て、脈動している。
病気なのだろうか?
洗面所で鏡を見ると、目が物凄く充血している。
最近、日中突然吐き気を催したり、目眩がしたり、目から血が流れる時がある。
そして、常に何かに縛られているかのように動きづらい。
思えばそれはこの夢を見はじめてからだ。
日に日に集は衰弱していく。
そんなある日の夢の中、蛇は告げた。
「オ前ハモウジキ死ヌ」
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集は栞に買い物に付き合わされていた。
今2人で映画を見終わり、ゲームセンターで遊んでいる所だ。
「買い物、なんだよね?」
「そうだよ?」
「ならいいんだけど」
現在エアホッケーを楽しんでいる。
「最近元気ないけど、大丈夫?」
栞が1点入れたところで、集に尋ねた。
「大丈夫だよ」
下から円盤を取り出しつつ答える。
円盤を台に置き、弾いたところで下からの空気が止まった。
円盤が止まる。
かこんかこんと弾きあうが、滑りが悪いので、途中で止まる。
集が強く打って最後にきめた。
得点は入らない。
このあと、クラスの男子達と映画に行く約束がある。
そろそろ栞と別れようと集が考えていると、栞が身を乗り出してきた。
「次は何する?」
栞はまだ遊びたいようだ。
買い物に誘われた筈なのだが、どうし殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ――
「ん、んんうあんんんうぅ」
「どうしたの?大丈夫?」
「……うん。大丈夫」
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
「やっぱり顔が青いよ?」
殺せ殺せ殺――うん、煩い。
「大丈夫」
止まった。
今のは一体何だったのだろうか?
「ごめん。これからクラスの男子達と約束があるから」
「あ……分かった」
集は栞と別れて映画館へ向かう。
途中で着物を着た男とすれ違った。
肩を掴まれる。
「少年、君は呪われているな」
「呪われている?」
あの悪夢と関係あるのだろうか?
「どうやら末期のようだね。君は運が良い、呪いを解いてあげよう。ついてきなさい」
こういう詐欺なのだろうか?
着いたら厳つい男達に囲まれたりするパターンなのだろうか?
「入りなさい」
そこは、立派なお屋敷だった。
門の横には御鏡と書いてある。
「私は御鏡 仁という。よろしく頼む」
「はあ、無神 集です」
門から屋敷の入り口まで10メートルはあった。
靴を脱ぎ、屋敷に入る。
庭に面した部屋の畳に座らされる。
庭では、巫女服の少女が何かの特訓をしていた。
「では始める。目を閉じてくれ」
目を閉じる。
「我願うは生なり、我拒むは死なり、我与うは希望なり、我奪うは絶望なり、我結ぶは封印なり、我解くは呪縛なり―――」
集は白い空間にいた。
動けない。
その周りでは、白い蛇がとぐろを巻いている。
その空間に突然赤い文字が無数に浮かび上がり、蛇に取りついた。
空間に亀裂が入り、そこから無数の翡翠色の鎖が無数飛び出て、蛇に巻き付く。
しかし、蛇がぶるりと震えると、文字も鎖も粉々に砕け散って消えた。
「鬱陶シイ」
蛇の尾が黒くなり、刀の形になった。
それを空間の亀裂に突きいれた。
「あああああ!!!」
仁は己の霊力が切り刻まれるのを感じた。
集とのリンクが途切れる。
「お父様!!」
少女が駆け寄る。
集が目を覚ました。
「すまない。本当にすまない。呪いは解けなかった………」
「いえいえ、ありがとうございました」
「本当に……くっ………」
仁が倒れた。
巫女服の少女が抱き抱える。
「あなたはどっか行きなさい!」
「分かった」
集は屋敷を出て、映画館へ向かった。
集がつくと、皆既に集まっていた。
映画館へ入っていく。
暫くして、出てきた。
雰囲気が重い。
彼らは観る映画を明らかに間違えた。
映画の内容は、仲の悪い不良の男子と優等生の男子が一人の女子を取り合うというものだった。
ここまでは良かった。
問題はここからだ。
二人は例の女子のおかげでだんだんと仲良くなり、親友になった。
そして親密度がどんどん上がっていき、互いを見つめる目が熱を帯び始める。
この辺りから皆、薄々なにかおかしいとは感じていた。
途中から例の女子は出てこない。
学園祭の日、彼らは初めてのキスをした。
それからの学園生活は男同士のきゃっきゃうふふを見事に再現している。
そしてある祭りの日、彼らは一線をこえた。
ハッピーエンド
という話だ。
映画が終わってから無言が続いている。
覚悟を決めて、集がきりだす。
「きょ、今日は!」
皆の肩がびくんと震える。
そしておずおずと集をみる。
そのうち一人は心なしか頬が赤い。
「ここまでに……するか」
不覚……
声が裏返ってしまった。
「しょ、そうだな!」
「お、俺、帰りゅわ、じゃあな!」
「おおお俺みょ」
あっという間に集一人になる。
「学戦祭近いのに」
はあっと溜め息をつき、
「学校行きずらい」
再び溜め息。
しばらくしてとぼとぼと歩き出したとき、なんの前触れもなく集は白い空間にいた。
「君はなんなの?」
目の前の蛇に話しかける。
「体ヲモラウ」
質問の答えは返ってこない。
蛇がゆっくりと集を頭からかぶりつこうと頭を下げてくるが、いつもと違い動ける集は、走って逃げた。
「クッ、アノ陰陽師メ」
「君は何がしたいの?なんで夢に出てくるの?」
「逃ゲテモ無駄ダ」
蛇の頭と尾が8本に増える。
「ムム?」
突然蛇が振り返り、意識が現実世界に戻る。
不意に集を悪寒が襲う。
刹那、地面……ではなく、辺りいったいの空間そのものが揺れる。
「地震か!」
「マジかよ」
「いやーん、助けてまーくーん」
「俺が守ってやるよ、みきちゃん」
「リア充なんざ滅びろーー!」
「いやーん!助けてよーくん!」
「え?誰?!」
「よーくーん!」
「筋肉おじさん近寄らないで!」
「いやーん!乙女よ~」
「リア充なんざ滅びろーー!」
「えーー」
「やべえ。マジ酔ってきた」
「これ本当に地震か?」
周りの人が騒ぎ始める。
揺れがいっそう激しくなる。
もう周囲のものの輪郭が分からない。
突然硝子を引っ掻いたような鳥肌の立つ音が響き渡る。
しかも音が消えない。
「あぁぁぁぁ!!」
「ぎゃぁぁぁぁ!」
発狂しだす人もちらほら。
突如、世界が反転する。
先程までは見えたビルや映画館はなく、一面に荒野がひろがっている。
空は赤く、地は黒い。
周囲には30人程いた。
何が起きたか分からず、呆然としている
人や、喚き散らす人など様々だ。
「あれは」
そんな中、集は遠くに数体の狂獣の姿を見つける。