入学編4
入試からの帰り道で、集は怪物と出くわした。
黒く大きな体に、蝙蝠のような翼が生えている。
世間ではこの怪物をこう呼ぶ。
狂獣。
今の集に敵う相手ではない。
だが、集は逃げなかった。
「魔力、解放」
集は狂獣をしっかりと見据える。
そして、集は咆哮する。
「誰か助けてえぇぇぇぇ!!!」
……………
………
……誰も来ない。
なんということだろう。
これは非常にまずい。
気がつくと目の前に狂獣の大きな拳が迫っていた。
「【明鏡止水】」
集を半球状の魔力の膜が覆い、狂獣の拳があらぬ方向へそらされる。
そのまま狂獣の胸に、集の強烈な回し蹴りが――弾かれる。
それでも集の表情は変わらない。
達観した眼差しで、無数の攻撃を放つ。
しかし、その全ては効かない。
集は【明鏡止水】を解く。
「うん。逃げよう」
結論――逃げられなかった。
巨体のわりに狂獣は動きがとても素早く、集の前へ回り込む。
集には狂獣が笑っているように見えた。
「ぼ、暴力は良くないよ。分かるね?」
ドガァァン
集は吹っ飛んだ。
狂獣の豪快なパンチがクリーンヒットしたのだ。
肉片にならなかったのは、魔力のおかげだ。
地面を滑り、電柱にぶつかったところに、狂獣が迫る。
しかし、伸ばされた狂獣の腕は、根本から切り落とされた。
切り落とされた腕は、光の粒子となって消えていく。
集の前に、ふわりと少女が舞い降りる。
輝くような銀髪が月光を反射する。
「これは『飛斬』。誰でもできる」
そう言って、少女は腕を薙ぐ。
するとそこからU字型を広げたような魔力の塊がギロチンのように放たれる。
それは狂獣の上半身と下半身を分け、その後ろの電柱に当たる前に消えた。
狂獣は光となって消えていく。
「えっと、ありがとう」
集は一言お礼を言って家に帰った。