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赤い世界編4

カマキリは口をキチキチさせながら集を見ている。

いつのまにか周りに狂獣が集まってきている。

突如カマキリの下の地面が盛り上がり、芋虫みたいな生物が飛び出る。

カマキリはそれを横に跳んで避け、横からオレンジ色の鎌を薙いで切断した。

切断面から緑色の液体が吹き出る。

カマキリが再び集へ向き、鎌がオレンジ色に光る。


そこに、白銀の何かが横切った。


「わーお!虫が多いね!」


頭のなかに直接日本語が響く。

右の方に、炎のような白銀のオーラを纏った人型のなにかがいた。

特徴的なのは緋色に光る瞳。

手には、カマキリの頭部。

適当にそれを捨てる。


「あれ?あれはなんだろー?」


緋色の瞳が集をとらえ、無邪気な声が頭に響く。


「面白いから、あれは残しておこう!」


突如、それの姿が消える。


「あはは、つまんなーい!」


それはいつのまにか集の後ろにいた。

周りにいたはずの狂獣達はおらず、光の粒子がきらめいている。


「助けてくれたの?」

「あはは!さあねー!僕はネル!よろしくねー!」


やっと落ち着いてそれを見た。

それは、マネキンのような姿をしていた。

青白い外骨格。

よく見ると細い指が6本ある。


突如集は今まで味わったことのない激しい痛みを覚え、左目をおさえる。

左目の在るべき所が空洞になっている。


「すごーい!黒だー!赤くなーい!」


集の眼球はネルの右手にあった。


――こいつも敵だ。


不意にネルの両目が輝きを失う。

緋色に光っていた眼は、ただの赤い眼になり、白銀の炎も消える。

ネルは奪い取った集の眼球を無邪気に覗き込んでいる。

消えたオーラがネルの力の源と予想した集は今のうちにとネルを攻撃する。

はたしてその予想は正しかった。

魔力で加速した突きで、ネルの両目を潰す。


「うわぁぁぁぁ!!!」


ネルは膝から崩れ落ちる。

直接脳に響く絶叫に耐えながら、なんとかその場を後にしようとする。




∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈




その頃映画館付近では、突如現れた謎の怪物に、人々はパニックに陥っていた。

近くの魔纏高校のトップの精鋭達が到着する。


「はあ!」


充分な魔力をこめた質の高い『飛斬』だったが、怪物は傷ひとつなく、気にもとめない。

狂獣に似ているが、狂獣ではない。

体長はおよそ10メートル。

全身が黒くぼつぼつで、粘液でてかてかしているところは狂獣と変わらないが、

頭からトナカイのような白く光る一対の角を生やしている。

胸の辺りに大きな窪みがある。


「これ狂獣?」

「うーん……似てるけど」

「どう見てもちがうっしょ」


「まずは俺がいく」


茶髪の男子が皆を抑えて前に出る。

とっとっとっと助走し、魔力で加速。

腰に提げた剣を抜く。


「天我流奥義、【龍剣伝】」


極限まで魔力をこめた、不可視の一撃。

怪物の足首が半分ほどちぎれる


「GAAAAaaaaa!!」


怪物の苦しそうな咆哮を聞き、安堵を浮かべる精鋭達。

怪物の角が輝く。

足首が繋がっていく。

精鋭達がそれを許すはずもなく攻撃しようとするが、怪物を中心に爆風が荒れ狂い、精鋭達を近づけさせない。

怪物の口から紅い光が漏れる。


「避けろ!」


図太い光線が放たれる。

狙われた緋髪の少女は間一髪避けたが、衝撃で吹き飛ぶ。終始笑顔だ。


「緋咲!」


緋咲と呼ばれた緋髪の少女は空中で体勢をたてなおし、そのまま宙に留まる。

ちなみに笑顔だ。


「ちょっと頭きた」


笑顔で言う。

少女から魔力が吹き荒れる。


「GRUuuuuuuu」


怪物が紅いオーラを纏い、目視出来ないほどのスピードで少女に拳を降り下ろす。

まともに当たれば確実に肉片になるこの拳を、少女は避けなかった。

拳が少女をすり抜ける。

少女は動いていない。笑顔だ。

少女が無傷なのを確認した怪物が、不可視の連撃を浴びせる。

あらゆる方向からの連撃。

全てが少女をすり抜ける。

笑顔だ。

連撃が止む。

少女はおもむろに刀を抜く。


「天我覇創流奥義、【乱戯怒崇(ろんぎぬす)】」


笑顔で放ったのは突き。

刀は全く怪物に届いていないが、怪物の腹部に大穴が空く。

怪物の角がいっそう強く光る。

紅いオーラも強くなり、傷が塞がっていく。

傷が塞がる前に、皆で『飛斬』や『飛弾』を放つが、紅いオーラに阻まれる。

近づけば先程の連撃がくるので、迂闊に近づけない。


「後は我らに任せよ」


騎士団が到着する。


「いえ、加勢します!」


坊主の男子が答える。


「分かった」


怪物の口から紅い光が漏れる。

怪物の口から光線が放たれる前に、騎士団と魔纏高校の精鋭達の『飛斬』や『飛弾』が口に炸裂する。

光線は放たれず、口から光が消える。


「GRUUAaaaaa」


角が更に輝きを増す。

怪物が爆発的な加速で空へ翔ぶ。


「速っ!?」


あっという間に点になる怪物を、皆呆然と見ることしか出来なかった。


「追わないんですか?」

「無理だ」

「あれは何ですか?」

「分からない。我々も初めてみた」

「……なんなのあいつ」





∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈





遠くにいたはずの無数の狂獣達がいつのまにかすぐそこまで迫ってきていた。

周りを囲まれ、逃げ道を無くした集。

片目だと遠近感が分かりづらい。

狂獣達は容赦なく集に襲いかかる。

その時、ふと集の体が軽くなった。


「フム、コノ身体ハ動キヅライ」


1体の狂獣が隣の狂獣を殴り、吹き飛ばす。

狂獣達の敵意がその狂獣へ向く。

突然のイレギュラーにすがり、集はその狂獣の傍に行く。

狂獣達の視線がより一点に集まる。

一瞬動きの止まっていた狂獣達だが、すぐに動きだす。

イレギュラーの狂獣の背中から白い大きな蛇が4メートル程生える。

夢の蛇にそっくりだ。

皮膚を突き破った訳ではない。

白い蛇は薄く光り、向こう側が透けている。

すぐに向こう側が見えなくなる。

白くて薄く光っているので、なんというか、神々しい。

夢の蛇にそっくりだ。

白い蛇が一瞬ぶれたかと思うと、周りの狂獣の上半身がなく、下半身が光の粒子になりながら崩れ落ちる。

だが、後から後から狂獣が押し寄せる。


「フム」


背中からもう7匹蛇が生えてくる。

全て同じ姿だ。

邪魔にならないように、集はしゃがんでおく。

そこからは、集には何が起きているか分からなかった。

狂獣の背中から生えた8匹の蛇が、目視出来ないスピードで動きまわり、残像で集の視界は真っ白だった。

気が付いたら辺りの狂獣は全て消えていた。

残った蛇の生えた狂獣も、何かの限界が来たように、光になっていく。

集はその場を離れる。


しばらく走っていると、急に目の前の地面が盛り上がり、急いで減速したがぶつかってしまう。

黒く隆起したそれは決して固くなく、むしろ柔らかい。ゼリーのようだ。生暖かい。

それはぶつかった集の右腕を包み込む。

そのまま集を呑むように引きずり込む。


「うわっ」


集は急いでゼリーとの間に魔力で空間をつくり、脱け出す。

そしてまた走り出す。


しかし集の行く先には、またもや狂獣がうようよしていた。


「どんだけいるんだよ」


もう魔力が尽きかけている。

狂獣が一斉に集を向く。

だが、びくっと震えて、なにかを探すように首をさまよわせる。

そして徐々に同じ皆集とは逆の方向へ首を固定し、一瞬の後、集のいる方向へ走ったり、飛んだりしてくる。

それでも奥の方に大量の光の粒子が見える。

狂獣共がいなくなり、いたのは先程のネルの同族であろう者達だった。

ざっと100体はいる。

皆が白銀のオーラを纏っている。


「なんだあれは?」


先程と同じく、頭に直接声が響く。


「殺していいかな?」

「あれの周りの青白いの、なんだろう」

「もしかして、人間じゃない?」

「殺していい?」

「人間ってなに?」

「ほら、あのすぐに死んじゃうやつ」

「人間ってずーっと昔に絶滅したんじゃないの?」

「そのはずなんだけど」

「でもあの青いの、人間ってあんなの使わないよね」

「そのはずじゃ」

「殺してはならない。王の所に持っていくのが良かろう」

「そうだな」


多くの声が響いて頭を押さえる。


「どけ」


渋い声が頭に響く。


「お、王様!」

「王……」

「は!」

「うそ!」


王と呼ばれたマネキンが頭を押さえる集に歩み寄る。


「ほう」


なにやら感心する王。

他のマネキン達の眼が緋色に光っているのに対し、王の眼は蒼穹のように蒼く光っていた。


「その青いのはなんだ」

「……魔力だ」

「ほう。見たことがない。良し」


王はなにかを決めたように大きく頷き、集の手を取りマネキン共のいる方へ歩きだす。

無言でされるがままの集。

突然王が立ち止まる。

マネキン達が静かに王を見つめる。


「余は、この人間を次の器とする!」


おおーっとどよめくマネキン達。

全て頭に直接響くので、集はよりいっそう頭を抱える。


「今ここで、儀式を行う」


おおーっとまたもやどよめくマネキン達。

王は集の両肩を持ち、言う。


「喜べ。うぬは次の器に選ばれた。むっ、左目がないな。」


そういって目を合わせる。


「だがまだ時間がたっていないな。良い。まだ治せる。では儀式を行う」


王の蒼眼が輝きを増す。

集は意識が朦朧としてくる。



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