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『パイルD-3の壁』

 今回の邦題はカッコいい。ただ意味がよく分からない。ドラマを見ていけば「パイル」というのが高層ビルの基礎となるコンクリートのでかい塊であることが分かるが、見る前は専門知識のないものにはどういう意味か分からない。「壁」というのもよく分からない。パイルというものは空洞ではなくて塊なので「壁」というものは存在しない。ということはこれは捜査上の「壁」を比喩的に現しているととらざるを得ない。確かに捜査上には「パイルの壁」は存在した。「パイル」を掘り返す許可を取り付けるために、コロンボは役所の列に並び盥回しにされ、その度に長蛇の列を見てため息をつく。そのことが壁といえば壁だが、謂わばこのシーンはコメディリリーフであって、タイトルになるほどの重要なものとは思えない。原題は「殺人の青写真」という意味で、青写真という比喩は手垢のついたもののように思えるけれど、犯人が設計士なのだからぴったり合った比喩といえる。

 犯人役はパトリック・オニールが演じる設計士で、表面上は自分の思い通りの建築物を立てるための費用を得ることが動機で、成金男を殺す。しかし、この成金役のフォレスト・タッカーの演技がすばらしく、いかにも憎憎しく、行動も乱暴で、こういう奴なら殺されても仕方ないのではと思わせる。成金の名前はウィルアムスンで、設計士が建てたいと思っているのは「ウィリアムスン・シティ」である。すなわち自分の名前を冠した街ができるという名誉など糞食らえと思っている拝金主義者なのである。ウィリアムスンは、設計士の事務所にあるジオラマをなぎ倒し、設計士に対して罵倒を吐く。こんな目に合わされたら、私だって殺意を覚える。この犯人はかわいそうだ。こんな相手なら、殺すか縁を切るかしか方法はない。

 しかし資金が必要なので縁を切るわけには行かないので殺すことにした、ということだが、その裏には激情があったのも確かだと思える。ただし、単に殺すわけには行かない。この成金がいなくなれば、その金を自由にできるのはその若い妻のはずであるが、死んでしまえばその遺産は厳重に管理され、妻は年金という形でしか遺産を受け取れない。したがって大掛かりな投資をさせるには、死んではいるけれど死体の見付からない、行方不明の状態でなければいけなかった。そうすれば共同財産としての大金を妻が自由に建築家に投資することができるのだった。この若い妻は、建築家の才能を崇拝しているけれど、犯人はこの妻とできているわけでもなく、その点も良心的だと思える。実際にこの建築家には才能はあるようだし。詐欺的な要素は全くない。人殺しが悪いということをのぞけば何も悪いことはしていないのである。

 死体なき殺人ということが、今回の眼目である。死体なき殺人をする動機として考えられるのは何か、ということからこのシナリオは始まったように思える。納得のいく実にスマートな動機だと思える。そして、死体を隠すにはどこに隠せばいいか、ということがもう一つの眼目である。ポーの「盗まれた手紙」から始まるミステリ上の大きなテーマの一つだけれど、ここでは一度調べられたところに隠しなおせばいい、ということがその解答になっている。だが、どこへ? そこ答えを示したのは実は犯人自身の考えではなく、コロンボだった。コロンボははじめから犯人に「ピラミッドの下なんて、絶好の死体の隠し場所ですな」と提案している。会う度に、このどでかいビルの基礎コンクリに埋めてしまえば探しようがない、とせっつくのである。それは犯人が当初死体をどこに隠しているか分からなかったからでもある。しかし犯人とて一筋縄ではいかない。そこで、コロンボは先に、役所でのややこしい手続きを終え、莫大な費用をかけてパイルを掘り返させる。当然そこには死体はない。コロンボはそれを百も承知。これで死体の隠し場所は決まった。一度掘り返して、そして埋めてしまったパイルを掘り返すことが絶対にできない。一度失敗しているから許可も下りない。ここしか死体を隠すところはない! 強迫観念にかられたようにふらふらと、犯人はそこへ死体を持って現れる。かくして可哀そうな犯人は、コロンボの罠にまんまと陥るのである。

 解説書を読むと、これが犯人のトリックであり、コロンボがそれを見破ったかのように書いてあるが、違うだろう。これは最初からコロンボの計略だったのだ。

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