『ホリスター将軍のコレクション』
これも余りよくない部類の邦題だ。ネタバレが含まれていて、すぐにトリックが分かってしまうような気がする。直訳すると「死の錘」あるいは「死の碇」だろうか。そういうタイトルにして、将軍の所有している大型ヨットの方へ、ミスデレクションするべきだろう。しかし、逆に言えば、そんなにすぐにトリックが分かってはいけないわけで、その分でも、シリーズ中ではイマイチの出来かもしれない。ただし、シリーズ中イマイチであっても、凡百のミステリドラマから比べたら百倍も面白いわけだけど。
犯人役はエディ・アルバートで、ホリスター将軍を演じている。まず、最初に驚かされるのは、この将軍がやけにあけっぴろげに見えることだ。ドアチャイムがなると、さっと玄関に歩み寄って、手ずからパッとドアを開ける。これだけ地位の高い人間になると、普通はもっと尊大に、相手を待たしてからじっくりドアを開けるか、召使などがいて、かれに任せるのではないかと思わされる。しかし、この将軍は覗き窓を見ることも誰何することさえなく、ドアを開け放つのだ。防犯上も少々まずいのではないか。もっとも、将軍と言っても退役将軍で、今は軍関係の物資調達会社を経営している。それが癒着がばれるのを恐れて、軍側の担当将校を殺すわけだ。しかし、それが本当の動機とばかりは思えない。というのも、彼を殺したところで、帳簿からばれることは必至で、かろうじて証言を引き出さないで済むと言うだけのことだ。むしろ、殺人を犯したほうがやばい結果を得る。むしろ、何もかもばらして、終わりにしたいと思っているかのようだ。あるいはただ単に豪胆なだけだろうか。強盗が来ようがどうしようが、そんなものは意に介さずにドアをパッと開けるに違いないのだ。身に武器をつけてもいない。武器は部屋中に飾られているけれど、それを手にするには時間がかかるだろうし、それさえもこのたび博物館に寄付してしまうのだった。
殺人を犯したときも、海に面したカーテンが開けっ放しで、おかげでヨット遊びをしていた女性に現場を目撃されてしまう。その女性が警察に通報したがために、捜査の手が伸びることになる。しかし遅かれ早かれコロンボの登場と相成ったかもしれない。海に棄てたはずの死体がすぐに発見されることになるから、そのときは殺人事件の捜査ということになっただろうが、それでも少しは遅くなっただろう。殺人事件のあったとされる家が、高名な退役将軍の家であると知っていた警官は、自分でそこへ行くのを嫌がり、代わりに「ベテランの刑事」が差し向けられる。それがコロンボである。コロンボも最初は疑っていなかったようだ。それでも、いきなりドアをパッと開けた将軍には面食らっている。犯人だとは思っていなくても、強気の人物であることは分かったに違いない。コロンボは目撃者の女性にも話を聞きに行くが、「酔っ払ってたのではないか」と言って心証を悪くしてしまう始末だ。コロンボが犯人以外の人物から心証を悪くされるのは珍しい。コロンボが、最初に将軍を疑ったのはテレビで将軍の特集が放映され、その中でホリスター将軍のトレードマークが真珠をあしらった拳銃であると聞いたときだ。殺人も拳銃によって行なわれていたが、コロンボが訪れた際、将軍は練習用の拳銃の話はしたが、その真珠の拳銃の話はしなかったからである。後で聞いてみると、真珠の拳銃は盗まれており、博物館にもホンモノではなくてレプリカが展示されているというのだった。それにしても話にも出なかったのはおかしい。他にも将軍が犯人であると言う状況証拠は続々出てくるが、決定的証拠がない。目撃者の女性までが、将軍によって懐柔されてしまい、証言を翻してしまった。
名場面は、ホリスター将軍の操縦する大型ヨットに同乗するシーンかもしれない。セスナといい、も早やこれはお約束の感がある。船酔いをするコロンボに将軍は「コロンボといえば、コロンブスの子孫だろう? 情けない」と言い放つ。そして「獲物を釣り上げようとするならば、場所か餌を変えなければ駄目だ」と忠告する。コロンボは場所は変えなかったが、餌は変えた。コロンボは今回は何のトリックも労さなかった。トリックをしないことがトリック、と言うのが今回のテーマだった。レプリカといわれる真珠の拳銃は実はホンモノで、それが凶器だった。堂々と飾られた凶器の弾道検査をコロンボは行い、死体にあったものと一致することを確かめた。そして、目撃者の女性を博物館に誘ってそのことを告げる。当然ホリスター将軍も女性から聞いてそこにやってきていた。将軍はやはり堂々としていた。手錠をかけようとする部下に、コロンボさえ「その必要はないよ」と囁く。将軍は、ハラハラドキドキの戦場をこそ愛していたのかも知れない。だから、いつも豪胆に振舞っていた。いつか強盗と取っ組み合って熨してやろうと内心思っていたのかも知れない。それが来るやつ来るやつ媚びへつらう奴らばかりだ。コロンボも最初はそう見えた。しかしかれこそが、将軍の望んでいた好敵手であった。だから、これは願ったり叶ったりの結末だったのだろう。