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『黄金のバックル』

 この邦題はひどい。ネタバレもいいところだ。皿にしか見えない骨董が実はバックルだったというのが一つのミスデレクションになっているのに。原題は「オールドファッショョンド・マーダー」で訳せば「時代遅れの殺人」となり、これでいいじゃないかと思う。

 犯人役のジョイス・ヴァン・パッテンが素晴らしい。どこかで見たことがあると思ったら、「逆転の構図」で印象的だったシスターだった。今回はオールドミスの美術館長を演じている。

 始まって直ぐおっと思うのは、被害者になるガードマンの生きている姿から始まるところだ。これもまた典型的な小悪党で、美術館に勤めているくせに、展示品のことは何も知らず客に対しても愛想が悪く、吸い終わった煙草を床に捨てて拾いもしない。ギャンブルで身を持ち崩し借金取りに追われているが、兄のコネと軍隊経験によって安く雇われている。もう一人の被害者は、犯人の弟で、一族の経理を牛耳っている。この齢は下でも性別によってより上位に立っている辺りがアメリカの父権社会振りを現している。しかし確かにそれほど犯人は彼らと対比されているわけでもない。あとの登場人物をいえば、美人であることを鼻にかけたそれこそ古いタイプの女性像を示している姉と、その娘で不倫を愉しむ新しいタイプの女性。むしろそのどちらにも属することが出来なかったことが、犯人の悲劇となっているのかもしれない。

 コロンボのことを態と「殺人課の」と言って失神させるなど、犯人は姉をギャグとしか考えていないと思いきや、途中で意外な事実が分る。美術館に飾られている肖像画は、どう見ても若いときのジョイスだと思って観ていたら、コロンボは「お母様の若いときですか」などといい始めてしまう。まあ親子だから似ていて当然だけれど、本当は犯人のもので、まあここはコロンボのお惚け作戦の一つで、そのことによってある秘密を聞き出すことが出来るのだった。オールドミスと思われていた彼女にも恋や婚約の経験があり、しかしそれを姉によって略奪されていたのだった。しかもその娘である姪が実際は犯人の子供であることも仄めかされている。

 ミステリとして最も印象的なのは、被害者の一人がお洒落をして髪も切りたてであることから違和感を感じ取るコロンボの嗅覚である。そのことから彼が泥棒のあと海外逃亡をしようとしていると考え、そのあと予防接種の痕という証拠も摑む。それなのに旅券も金も持っていないのがどう考えてもおかしい。これを犯人側から見ればやはり杜撰としかいいようがない。明かりを消してしまったのはうっかりとはいえ、電話によるアリバイ作りといい、「黄金のバックル」を使って姪を犯人に仕立てる方法といい、むしろ捕まりたがっているとしか思えない。いや、捕まりたがっていると考えるのが最も妥当なのだ。つまりこうだ。過去の経緯をコロンボに漏らしたうえで、姪に罪を被せるひと芝居を打ち、最後のやり取りを演出したのだ。録音テープが決定的証拠にならないのも百も承知の上だった。

「いつも女性にはエスコートしてくれる殿方がいるものよ」と言う姉に「例外はあるものよ」と言っていた犯人の最後の皮肉は、コロンボにエスコートさせて颯爽と退場することだった。私はそこで泣いてしまう。恐らくこの犯人は、美術館という牢獄、さらにはアメリカ社会という牢獄から脱出したかったのだ。ホンモノの牢獄で終身刑になるほうがよっぽどマシであり、コロンボはそこから連れ出してくれる白馬の騎士でもあったのだから。


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