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『さらば提督』

 原題どおりの邦題。これしかない。いろんな意味が含まれる。被害者である提督に対して誰から見ての「さらば」なのかという点も、事件に大きく関わっている。時代性の隠喩とも言えるかもしれない。

 見返して思うのは、ものすごくフェアに作られているなあ、ということだ。最初に現れるのは犯人だし、最も気になる、型紙で書こうとした言葉はなんだったのか? という謎についてもきちんとそこかしこにヒントがちりばめられている。

 死体を処分したロバート・ボーンはその配役も含めて引っ掛けである。ロバート・ボーンは「歌声の消えた海」の犯人役であったし、あのときと同じように船の名称についてコロンボとやり取りするから、あああれだな、と視聴者は思ってしまうのだ。ところが事件は二転三転する。コロンボでさえ最初はロバート・ボーン演じる提督の娘婿が犯人だと思っていた。しかしその失敗には原因があるのだ。神さんのいいつけで禁煙していたためいつものように頭が廻らなかったからだ。だからラストで葉巻に火をつけて「まだまだやりますよ」というのは、煙草についてだけでなく、捜査についての隠喩にもなっているのだ。この回で第五シーズンが終わることになっており、次のシーズンが製作されるかどうか分っていない段階であり、これが最終回かもしれなかったからだ。しかしコロンボたちはまだ続ける気だったと言うわけだ。

 若き刑事マックが登場するのも最終回かもしれなかったからだろう。彼はロシア人っぽい名前だし、マック何とかでもないのに、マックと呼ばせている。この回の演出をしているマッグーハンならマックと呼ばれても可笑しくないんだけれど。マックというのは確か誰かの子供という意味だったから、コロンボの弟子を自称したかったのかもしれないし、最後のほうではコロンボをまねてレインコートを持ち歩くほどだったから後継者を自任していたのかも知れない。もしこれが本当に最終回だったら、次からは「刑事マック」という番組が始まったのかもしれないけれど、そうはならなかった。

 今回の物語で心に染みるのは、二人の女性像の対比である。

 一人は殺される提督の一人娘である。彼女はロバート・ボーンと結婚したものの、満足の行く人生を送れていないようで、酒浸りとなっている。夫婦仲が上手く行っていないという証言もあるが、具体的にどうなのかは分からない。浮気でもしているのか、仕事の虫で家庭を顧みないのか。母親は遠おに死んでいるのか登場しないし、遊び相手となっているのは叔父である真犯人なのだけれど、彼女自身も男がいるわけでもないようだ。おそらくは造船所目当てで彼女と結婚したんだろう。財産が欲しいというよりも、仕事をして金儲けをしたいといった有能なビジネスマンタイプのようだから、後者の方が可能性が高い。

 彼女は毎晩のように酒を呑み叔父さんにエスコートしてもらっている。肉体関係は別になさそうだ。そして、父親が死んだときにも夫が殺されたときにも呑んだくれていて何も憶えていないといって嘆くのだ。私はその表情を見て慟哭してしまった。ここにも抑圧された女性がいた。父親や夫からは子ども扱いされ、叔父からは単に金蔓としか看做されていない。結婚したのが失敗だったのかもしれない。独身のまま父親の仕事を手伝っていれば少しは評価されたのかもしれない。けれどそんな道は最初からなかったのだろう。

 もう一人は、提督の再婚相手である若い設計士だ。彼女は仕事を持ちバリバリ働き、自分の世界も持っている。金持ちである提督と結婚する気になったのも、尊敬の念からであって財産目当てではなく、そのために遺言状を書き換えてもらい、自分に遺産は入らないようにする。この時代のアメリカには遺留分とかは無かったのかなと少し疑問が残るけれど、彼女が欲しがったのは男自身と一艘のヨットだけだった。しかしそのことが原因で、揉め事が起こり殺人にまで発展する。女性が自分の意志を通すことは、世の中に受け入れられることが難しいということが、ここでも露呈する。コロンボも彼女に同情的だけれど、だからといって犯人を逮捕するしかやれることはないのであった。

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