『闘牛士の栄光』
原題は「名誉の問題」でネタバレ以外の何物でもないし、邦題のほうがニュートラルな感じでいい。コロンボと地元刑事との会話から察するにこれは第29話「歌声の消えた海」の後日談らしい。まあ単に、コロンボがメキシコにいる理由を説明するのにそれが手っ取り早かったと言うことかもしれない。放映では間に五つも事件が挟まっているので少々わざとらしいけれど。
犯人は「宇宙大作戦」のカーンでもあるリカルド・モンタルバン演じるかつてのスター闘牛士で、動機は原題どおり。名誉のために殺人を犯すのはそれこそマッチョで、女性も殆ど登場しない。刑事の妻と、犯人の娘、それから下女が出てくるくらいで、科白も少なく単なる遠景に過ぎない。むしろ、異国情緒を味合うために、配役も動機もすべて用意されたかのようだ。メキシコのスター俳優が数多く出演しているので、映画ファンにはたまらないのかもしれない。
しかしそれよりも、今回の特殊性は、コロンボに相棒がいることだ。地元の刑事に誘われるまま事件に関わってしまい、権限も無いのでその刑事とほぼ行動を共にすることになる。そのため、自分の考えのみによる単独行動といういつもの捜査スタイルを採れないため、結果的に、コロンボ式の操作方法がどんなものか分り易く提示されることになるのだ。いつもなら多少報告もしているはずの上司との会話も殆ど描かれないのに、今回は、尊敬してくれているらしい地元の刑事に話すことで、いつもは口に出さない考えなどを表明するあたりが見所となる。次々と状況証拠を見つけるのは、いつものコロンボならではの冴えだし、決定的証拠の見つけ方も面白いのだけれど、プロットとしてはちょっと順番を間違ったのではないか。闘技場に犯人をおびき出した段階でけりがついているので、証拠の提示が少々蛇足に思われるからだ。
面白いのは解剖のくだりである。被害者の臀部に注射針のあとがあったことから、薬物を打たれた疑いがもたれたので、コロンボが地元刑事に解剖を勧めるところだ。地元刑事が、そんなことをして真犯人を上げられなかったら馘首になるというのだけれど、これはコロンボが彼に、どこまで本気で捜査をする気があるのかという試金石だったと思われる。解剖をした結果、薬物は検出されなかったし、検出されないとわかっていたとさえコロンボは言うのだ。むしろ、検出されなかったことが証拠となるのであって、検出されないということも、やはり解剖しないと分からないから、解剖をする必要はあったのだ。なんとも徹底的ではないか。