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『構想の死角』

 スチーヴン・スピルバーグの監督作として有名な本作は、森村誠一の作品名を思わせる邦題がよくない。原題を直訳すると「本による殺人」となって、この方がカッコいいが、タイトルとしては弱い。BOOKと言う英語に対するもっと的確な訳はないだろうか。

 犯人はジャック・キャシディが演じるミステリ作家であるが、彼は本当はミステリ作家ではない。エラリー・クイーンよろしくコンビでミステリを書いていることになっているが、本当に書いているのは相棒の方であって、ジャック・キャシディのほうは1行も書いていない。その代わりメディアへの露出を一手に引き受ける謂わば宣伝担当であったが、相棒の実作者がミステリの創作をやめてシリアスものに手を出すことになり、コンビ解消、それが動機の一端となって相棒を殺す。ジャック・キャシディの演技が冴えた名作である。

 事件はまず「死体なき殺人事件」として始まる。その段階からコロンボは登場し、被害者の妻に接触を図って犯人登場を待つ。そこに待ってましたとばかりにジャック・キャシディと対面する。サン・ディエゴの別荘からロスまで、もっと早い飛行機でなく車で帰ってきたと言うところから、すぐに犯人の目串を立てられ、死体を庭に投げ捨てられたときに、悠長に請求書の封を切っていたということで、心証を確信させた。しかしなかなか、この犯人はシッポを出さない。どころか、目撃者である雑貨屋の女将に脅されて、第2の殺人まで犯してしまう。これに対しても証拠がない。ジャック・キャシディが犯人なのには間違いがないが、コロンボはこれを落とすことができない。犯人も堂々としたもので、さまざまな揺さぶりに動ずることがない。

 コロンボがオムレツを作るシーンがあり、そのレシピが気になるところだが、全体的には影が薄い。見せ場は、サン・ディエゴの別荘に犯人を訪れた際のシーンくらいだ。「いきなり来てごめんなさいね」「何いいさ」「しかしいいところですね」「君たち警官の給料では無理だね」「昼間は釣りだの何だのすることもありますが、夜はどうなんで」「夜は何もないさ」「それが本当なら、いきなり来てびっくりさせることもなかったのに」「え?」「昨夜何度も電話したんですがどなたもお出にならなくってね」そのとき、犯人は第2の殺人を行なっていたのだった。

 やはりラストシーンがすばらしい。被害者の妻との会話からやっと糸口をつかんだコロンボは、犯人と最後の対決をする。コロンボは言う。「最初の犯行はすばらしい。ミステリになるくらいだ。だか後のはお粗末だ。なぜなら、最初の犯行は被害者の考えたもので、第2の犯行は、実は作家じゃないあんたが考えたものだからだ」そして決定的証拠として、被害者がメモをしてあった、最初の犯行を書いたメモが見付かったと突きつける。ミステリとしてはここでお仕舞いだ。しかし、最後の犯人の科白がいい。「いや違う。そのアイディアはぼくのものなんだ。ぼくのでいいのはそれだけだ。メモをしていたんだな。莫迦なやつだ」淡々と述べて縛につく。ジャック・キャシディの演技がふてぶてしくてカッコいい。媚びることもなく泣き叫ぶこともない。これぞザ「コロンボの犯人」である。

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