『歌声の消えた海』
邦題はやや誇張がある。殺されるのが歌手だからこうなったのだろうけれど、別に海に放り込まれたわけではなく、銃で撃たれて殺されるのだ。原題はトラブルドウォーターで、証拠品をことごとく海に捨てることからついているのだろう。犯人役のロバート・ヴォーンは、ナポレオンソロの主演で、子どものころからよく見ていて好きな俳優だし、コロンボものでも何回か犯人を演じている。また、コロンボが最初っから現れていることもあって、二人の絡みが殺人以前からあって、なかなか愉しいつくりになっている。「うちのかみさん」が当てた懸賞旅行にコロンボ夫妻も乗り込んでいるので、どうやって「かみさん」を登場させないままドラマを進行させるのかという愉しみもある。
そういった余技の部分で非常に面白い回だけれども、肝心のトリックや捜査については余り面白みがない。まあ、サービス回だと思って愉しむのが、ファンの心得だろう。船上のこととて、充分な鑑識もできないので、虫眼鏡を使うコロンボがいつになく名探偵っぽいのが笑えるし、珍しくアロハシャツを着た姿は、コロンボもの以外でのピーター・フォークを彷彿とさせる。犯人と一緒に酒を飲むシーンで、なかなかグラスに口をつけないで、最後に一口だけつけて、颯爽と去るところも面白い。
犯人の目星をつけるのは偶然船酔いのために看護室に行ったからだし、犯人の妻との絡みも直接決め手に繋がらないあたりも納得の行かないつくりになっている。せっかく、夫に寛容ではない年上の妻なのだから、もう少し出番が欲しかったところだ。