『自縛の紐』
原題は「死にいたるトレーニング」といったような意味で、今なら「死のダイエット」という邦題がよさそうだ。邦題はコロンボが犯人を落とす決め手に引っ掛られておりネタバレの感がある。
ロバート・コンラッド演じるフィットネスクラブの創始者が犯人で、彼の不正を暴こうとしたフランチャイズ・オーナーを殺す。とにかくこのマイロという筋肉バカみたいな男は嫌な奴で金のためなら何でもする。ロイヤリティを取るだけでなく納入品もすべて指定のもので固めバカ高い料金を取っている。実はそれだけでは合法であって、これは現代日本のフランチャイズビジネスにもいえることだろう。儲かるのはフランチャイズ元だけであって、加盟店は決して儲けることはできない仕組みになっている。毎朝海岸でトレーニングするのは構わないけれど、水着姿の秘書を侍らせ、朝食は錠剤をキャロットジュースで流し込む姿は、憎憎しい。珍しく殺人のシーンをあからさまに描いているところもそれに一役買っている。おまけにあとしばらく大儲けをしたらスイス銀行に預けた金で悠々自適の生活をするため海外逃亡を図ろうとしているのだった。そのためのトンネル会社をひとりのフランチャイズ・オーナーに探り当てられたので殺すことにしたわけだった。海外にそうやって資金を移動することは為替法に引っかかるらしい。つまりは国の中で多少あくどいことをしてもいいけれど外に出て行かれては上前を刎ねられなくなるというのが国家の考え方なのだろう。
そういった義憤を晴らすためにもこの犯人をコロンボに打ち破って欲しいと思いながら見るのだけれど、残念ながらラストはちょっと弱い。犯人しか知りえないことを知っているということでこれ以上言い逃れはできないよと言って追い詰めるわけだけれど、確かにそれは証拠になるだろうけれど、これまでのコロンボものほどあっと言う結末ではないように思える。
細かいシーンで見所はある。未亡人が既に夫と別居していてアルコール依存になっているあたりはいつものお約束感があって既視感しか覚えないけれど、彼女が入院した病院で犯人を怒鳴りつけるコロンボは面白い。周りの待合客たちが緊張しながらもコロンボに協力的だったりするところもなんだかよい雰囲気を醸し出している。証人を探しに行ったある会社でコンピュータの出力を散々待たされた挙句結局退職されていますという結論を得るところは電算化社会への警鐘を感じる見事なシーンになっている。女性社員の冷たい感じが効果的である。犯人の子飼いの詐欺師がいい車に乗っているシーンもテーマを裏打ちしている。悪人ばかりがいい思いをして善人が虐げられる社会で、コロンボは毎日闘っているのである。