『毒のある花』
原題は「ラヴリー・バット・リーサル」これも今ならこのままのタイトルで押し通されそうだ。「毒のある花」はまずまずの邦題といえる。
犯人役のヴェラ・マイルズは、コロンボのカミさんも愛用する化粧品会社の女社長で、若い研究員を殺す。この若い研究員、チャーリー・シーンにしか見えないが時代的にそんなはずはなく、もちろんこれはチャーリー・シーンの父親のマーティン・シーンである。。被害者は新しい皺消しクリームを開発し、それを商売敵に売ろうとしていた。それに気付いた犯人は、かれの住まいに忍び込んで化学式を探そうとする。鍵の隠し場所を知っていたのは、実は被害者は昔犯人の若い燕だったからだ。被害者は犯人に遊ばれた上こっぴどく振られており、それが理由で、成果を盗み出したのだ。サンプルは見付かったが化学式は見付からないので、帰ってきた本人から聞きだそうとする。テレビ雑誌の裏に金額を書いて見せるが、彼は納得がいかない。そして、共同経営者にすること、さらに昔の縒りを戻すことを条件として提示する。あまりにも膨大な見返りだが、このクリームにはそれだけの価値があった。犯人は諾とする。ところが被害者は、自分から言い出した条件であるにも関わらず、ノーと言うのだ。それほどかれは彼女を憎んでいたのだ。しかしそうまでされては犯人も気持ちが治まらない。かっとなって、手近にあった顕微鏡で殴り殺してしまう。
コロンボが現場を見て最初に気付いたのは、凶器の顕微鏡だった。いみじくも「高校生のとき以来見たことがない」というとおり、凶器としてはいささか変わっている。このことから、これが計画的な犯行ではなさそうだとコロンボは気付いた。床を触るとガラスの破片だらけだった。「危ないな」とコロンボは警告するが、このときからコロンボは指の痒みに悩まされることになる。危ないのはガラスではなく、そこに付着していた毒蔦の抽出液の方だった。そして壁を見ると、なんと化粧品会社の女社長の顔写真がダーツの的になっている。ここでコロンボは彼女が犯人だとわかってしまう。テレビ雑誌に書かれた文字は普通の鉛筆ではなく、犯人がほくろを描くときに使う化粧用のペンシルであり、粉の箱に残ったあとからわかった盗み出されたサンプルの独特の容器の形は、研究中のサンプルの容器と同じ八角形のものだった。このように状況証拠は次々出てくるが、決め手となる証拠はない。犯人は殺人を隠すために第二の殺人まで行なうが、こちらの捜査もうまく進まない。
そんな中、コロンボは毒蔦のかぶれを告白し、その毒蔦がこの辺りにはないものであることを説明し、サンプルの材料がその毒蔦ではないかと示唆する。そうすることによって、犯人がそのサンプルを隠し場所から出してきて分析に回すように罠にかけたのだった。案の定彼女はサンプルを持ち出し、その場所へ礼状を持った捜索隊が急行する。万事休す、と思った瞬間、彼女は思い切った行動に出る。サンプルを窓の外の断崖に捨て去ってしまったのだ。これで証拠は全くなくなった。しかし、コロンボはそんなものはなくても証拠はあるのだと言う。顕微鏡のプレパラートについた毒蔦の抽出液を触ったのは、コロンボのほかは、犯人しかいいないと言うのだ。そして、確かに彼女は毒蔦にかぶれ、ここ数日その痒みに悩まされていたのである。
犯人を追い詰める証拠としては少し弱いかもしれない。蔦のDNA検査でもすればはっきりするかも知れないが、そこまでの科学捜査は無理かもしれない。第二の殺人が、ほとんど捜査と絡んでこないところもイマイチに思える。しかし、コロンボは彼女を精神的に追い詰めることが出来たのだ。それはなぜだろう。彼女に唯一のサンプルを捨てさせることこそがコロンボの狙いだったのだ。そのクリームこそが、彼女の会社の起死回生の最後の望みだったのだ。昔の彼女のように野望をむき出し死にして接近してきた第二の被害者である、ライバル会社の社長秘書を殺したこともなんらかの影響があったのかも知れない。彼女はここで、もはや人生に疲れてしまったのだ。だからこの程度の証拠で、コロンボに屈服したのである。あるいは彼女には、コロンボが天国へと導く天子に見えていたのかも知れない。