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『二つの顔』

 この邦題も芸がない。双子が容疑者だから「二つの顔」というのでは単純すぎる。もちろん、ひとりの人物が二種類の顔を見せるという側面も言い表しているけれど、そうなるとややネタバレ気味か。原題は「ダブル・ショック」最近ならばこのまま邦題にしてしまうだろう。「双子の容疑者」でもいいような気がするが、実は最初は容疑者が双子であるということは伏せられていて、最初に二人同時に現れるときのショックが薄れるのであまりうまくない。芸はなくても「二つの顔」で妥協しようか。

 最初は双子のひとりしか現れない(ように見える)。マーティン・ランドウ演じる料理研究科が犯人役で(あるように見え)、伯父である資産家を殺害する。被害者は明日娘のように若い女性と再婚することになっていて、そのお祝いに料理研究科の甥が訪れる。かれは車で帰っていき、それを窓から見送った家政婦は、警報装置を作動させてからテレビドラマに見入る。ジャネット・ノーラン演じるこの家政婦が、実はこの回の主役の一人とも言える。最初から最後まで、コロンボとのあいだで丁々発止のやり取りをして、だらしない刑事と厳格な家政婦とのコントラストを見せる。しかも、容疑者の双子を乳母のように育てたのもこの家政婦なのだ。客がすべて帰ったあと、被害者は風呂に入りそこへ犯人が戻ってくる。プレゼントを渡し忘れていたと言って、カバンから出したのは電動の泡たてミキサーで、犯人はこれを風呂に入れて被害者をショック死させる。その上で地下のトレーニング室のバイスクルに寄りかからせて自然死を装う。そこへフィアンセの若い女性がやってきて、死体を発見しコロンボの登場となる。

 双子が容疑者というのは、ミステリではご法度である。簡単にトリックが成立してしまうからである。しかしこのドラマではその辺りフェアに作られている。いったん帰ったはずの人物がもう一度邸内に入るためには共犯者が必要で、倒叙もののコロンボであれば、フェアに見せるためにはその人物は既に登場していなければならず、共犯者は家政婦しかいないことになってしまう。家政婦は容疑者を自分の子どものように愛しているから、事情によっては共犯者になる可能性もあるが、被害者のことも敬愛して止まないのであって、もし容疑者が共犯を持ちかけたとしても厳格に止めたはずなのである。また、よく見ていれば、最初に現れた料理研究科と、実際に殺人を行なう料理研究科とは、言動に微妙な違いがあることに気付く。ものすごく目ざとい視聴者なら殺人の場面で彼らが双子であることに気付くことも出来るように演出されているが、それはまあ無理だろう。二回目に見て、ははあ上手く演出しているなあと気付くようにできているわけだ。

 コロンボは捜査の最初に、風呂場が濡れていることに気付き、風呂に入った後にもう一度トレーニングなどするだろうかという疑問を抱き、殺人の可能性があると考えて解剖を命じる。果たして解剖の結果、殺人であることが分かる。殺人であるとすれば、犯人は被害者の死によって最も得をする人物であって、それは二人の甥であるはずだという結論に達する。はじめにあった人物は弟の料理研究家であったが、兄と紹介された人物は弟と全く同じ顔をしており、ここで初めて容疑者が双子であることが明かされる。しかもこの双子の仲が悪い。「同じ顔のライバル」というのが邦題としてはいいかもしれない。弟の料理研究家は浪費家で金を必要としていて最も動機がありそうだけれど、兄の銀行員も実はギャンブル狂いで相当の借金があるということを弟がコロンボにばらす。このように双子のそれぞれが、もうひとりが犯人であるということをコロンボに主張するので、どっちが犯人だろうという興味で、視聴者は観ていくことになる。一方無作法な言動のせいでなかなか協力してくれなかった家政婦を何とか説得して、コロンボはようやく当日の状況を詳しく知ることができる。電動泡立て機を風呂に落としたショートによって、ヒューズが飛び一時的に停電になり、ちょうどそのときテレビを見ていた家政婦はその時間が数十秒でであったことを証言する。ところが犯人が風呂場から電気盤まで行くのにはそんな短い時間では無理だと言うことが分かる。風呂から被害者を担ぎ出すのもとてもひとりでは無理な作業である。警報装置の件もあり、そもそもこれは共犯者がいなくてはできない犯行だったのだ。しかも調べてみると仲の悪いはずの双子の兄弟がここのところ頻繁に電話をしていたことも分かる。昨日の敵は今日の友。金に困った二人は日頃の仲の悪さを忘れて、共謀して伯父を殺したのだった。そしてその二人を育てたのは、厳格な家政婦だったという苦さ。「二人ともいい子ですよ」という言葉が耳に残る。

 ミスデレクションの一つとして、被害者の遺言が遺産をフィアンセに贈ると書いてあり、そのことから弁護士を抱きこんだかのように見せかけて、フィアンセを殺しその罪を弁護士になすりつけようとするシーケンスもあるが、これは少々やり過ぎだったかも知れない。実際アリバイの点で二人には犯行が不可能だからだ。


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