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『溶ける糸』

 邦題はネタバレで、まあ半ばで分かることであるし、最も重要な「どうやって犯人を追い詰めるか」が直接分かるわけではないのでまだましだけれど、それでもフェアを心がけるならばこのようなタイトルはつけるべきではない。「殺しの糸口」くらいでいいのではないか。今回の犯人は心臓外科医で、レナード・ニモイが演じている。レナード・ニモイといえば、スタートレックのスポックだけれど、耳がとがっているかどうかだけの違いだけで、やはり棒立ちで演技といえるのは眉の動きだけであることに変わりなはい。

 犯人は、研究の成果を独り占めするために、師匠の心臓外科医を殺そうとしていた。師匠は心臓の弁が悪く手術が必要だったのだが、その手術の縫合の際に通常用いるパーマネントの糸ではなく「溶ける糸」を使うことで、手術は成功したはずなのにその数日後に原因不明の心臓発作で死ぬはずだった。しかし、担当の看護婦がそのことに気付いたので、犯人は彼女を殺す。さらにモルヒネを彼女の部屋に隠し、彼女の担当していたベトナム帰還兵で元中毒患者を、もう治っているにも関わらず、無理やり注射して殺してしまう。こうして、主眼の殺人をうまく行かせるために、ふたりの人物を殺してしまう辺り、極悪非道といえる。しかも非常に冷静である。しかし、その冷静さによってコロンボに目を付けられてしまう。


 殺された看護婦の訃報を電話で聞いたとき、犯人は話をしながら、狂った時計の針を合わせていたのだ。人が殺された話を聴いているときに普通の人がそんなことをするだろうか。コロンボがこれを目撃し、まずは怪しいと思ってしまった。それに、調べれば調べるほど、殺された看護婦は清廉潔白で麻薬の横流しなどするような人物に見えない。元中毒患者にしても、殺される前にコロンボが会いに行ったときには完全に更正していた。そして研究室のモルヒネを自由に持ち出すことが出来る人物としては、あとは犯人しかいなかった。

 しかし例によって証拠がなかった。殺人の動機も最初は分からなかったけれど、聞き込みを重ねていくうちに、溶ける糸を使って師匠の医師を殺すことが目的であることに気付いた。ここでコロンボは勝負に出る。犯人が冷静ならばこちらは激昂してやれとばかりに、犯人を怒鳴りつける。「せいぜい先生の面倒を見ることですな。もし死にでもしたら、検死解剖で必ず証拠を見つけてみせる!」普段見せない感情をあらわにするが、もちろんこれは演技である。そうすれば、犯人はもう一度手術をして、証拠の「溶ける糸」をどこかに隠すだろうと踏んだのだ。案の定、犯人は薬品を使って発作を起こさせ緊急手術を実行する。コロンボは前もって周りの医師にも協力を仰ぎ、監視をしてもらっていたが、おかしなそぶりはなく、今度こそパーマネントの糸で完璧な手術をして見せた。しかし、必ず「溶ける糸」がどこかに隠されているはずである。コロンボは礼状を取り、手術着まで着込んで、手術室に乗り込んだ。これに腹を立てた犯人の心臓外科医はコロンボに食ってかかる。ところがスミからスミまで探しても見付からない。コロンボは諦めて、退散しようとする。それでも、最後の最後に閃くものがあった。普段冷静なのはコロンボも犯人も同じだ。しかし、さっき手術室に乗り込んだとき、犯人は珍しく激昂したではないか。普段冷静な人物が激昂するとき、それは演技に決まっている。では何のために? コロンボの手術着に糸を隠すためだ。コロンボはとうとう証拠を突きとめ、犯行を未然に防ぐことが出来た。

 この回は珍しく、主目的の殺人が未遂に終わる。これはコロンボの大いなる勝利といえるのではないか。代わりに目撃者たちが殺されてしまっているのが可哀そうだが、連続殺人のひとり目が助かって二人目以降が殺されてしまうというのは、非常によく出来ている。犯人の機転もすばらしいが、それを上回るコロンボの眼力もすばらしい。コロンボが犯人と似たもの同士であることを示す、すばらしいエピソードとなっている。沈着冷静で、行動は総て演技である、というのがコロンボの特性の一つであるということを示している。


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