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『アリバイのダイヤル』

 原題は「最も危機的なゲーム」か。「ゲーム」は今回、フットボールなどの球技とかけていると思われるが、この手のタイトルはミステリでは二番煎じが多く、手垢がついた感が否めないので、直接的に今回の内容を表している邦題の方がいいかも知れない。犯人役のロバート・カルプはフットボールチームのゼネラル・マネージャーで、創業者の息子である2代目社長を殺害する。しかし、いまひとつ殺人の動機が分からない。放蕩息子であり、創業者の持っていた理念をほとんど理解していない人物ではあるけれど、別段その理念を壊そうとしているわけでもなく、浮気やマリファナくらいの悪さはするかも知れないが、特別悪いことをしているわけでなく、チームの監督にも「嫌っている人物はいない」といわせるくらいみんなから愛されている。欠点はたくさんあっても憎まれるような人物ではない。むしろ、犯人のGMの方が嫌われていて、こちらが殺されるなら分かる。けれど被害者は、有能なGMを買っていて、権限のほとんどを与えて好きなようにやらせているのだから、殺す理由などないと思われる。乗っ取りたいという野望はあるかもしれないが、殺人以外の方法でいくらでも可能なように思える。現に、PR担当の平社員から大重役まで上り詰めてきた人物である。

 殺人現場に呼ばれたコロンボはカーラジオでフットボール中継を聞いているけれど、なんとなく取ってつけた感がある。これまでのエピソードでコロンボのスポーツ好きが言及されたことがないからだ。音楽好きなのは知っていたが、日曜日にはフットボールの試合を見るのが楽しみらしい。本当か? 最初から被害者の素性を知っていて、聴いていてのではないか? 殺人は巧妙で全く証拠を残していないが、その証拠を消し去った跡から、殺人があったことはコロンボには分かった。足跡を消すために撒いた水が、プールのカルキ水ではなく、ホースから撒かれた地下水だったからだ。日曜日にはプール掃除もなく、水を撒いた人物は犯人以外に考えられない。そしていつものように関係者の間を聴いて回ることにすると、一発目で犯人であるGMに辿り着いた。かれは社長の死を聴かされてもラジオを消そうとしなかったが、撒かれた水の話になると途端にラジオを切ったからだ。監督から聞き出したところによると、当日の言動にも妙なことがあった。試合前は「作戦を変えろ」とまで言っていたのに、ハーフタイムに会ってみると、このままでいいと言われた。コロンボがラジオで聴いていたところによると、前半戦いいところなどなかったにも関わらずである。これで犯人は分かったが、証拠は全くない。

 被害者の妻はアカプルコで慈善事業の最中だったが、チャーター機で帰って来る。彼女は夫を愛していたから当然である。しかしここでようやく犯人の動機が分かった。直接の言及はないが、犯人の彼女に対する態度が通常の交際の度を越えているように見える。じつは犯人は社長の妻に横恋慕していて、これを横取りするために、社長を殺したのだ。社長を殺しさえすれば、会社もチームも手に入るし、おまけに恋焦がれる社長婦人も手に入ると考えてからこその殺人だったと思える。だがこの段階ではまだふたりに関係はなく、邪魔者がいなくなったところから、攻めて行くのだと思われる。その辺は自信と勝算があるのだった。

 社長の家の電話から盗聴器が見付かったが、これはミスデレクションである。盗聴器を付けさせたのが犯人と分かれば有力な証拠の一つとなるが、そうではなかったし、おまけにその録音が犯人のアリバイを成立させてしまう。スタジアムからかけた電話が被害者の死の直前に録音されていたからだ。盗聴器を仕掛けさせたのは、社長の弁護士だったが、かれに雇われた私立探偵は秘書の女性に仕掛けさせていた。その秘書の女性は既に辞めていたが、コロンボは彼女を見つけることができ、ますます犯人の容疑は高まったが、アリバイが崩せない。旅行会社にも行って、犯人が被害者に電話で話していたビジネス旅行のチケットを購入していないことも分かる。コロンボは、録音を何度も聞いて、スタジアムではありえない音が入っていないか探すが見つからない。しかし逆だった。GMの部屋には鳩時計があって、そこから電話したのなら、その音が入っているはずなのに入っていたなった。アリバイは崩れた。ここでドラマは終わる。他の回のように、自白や逮捕のシーンがない。なぜなら、まだアリバイが崩れただけで、状況証拠もかなりあるが決定的証拠がないからだ。これでは裁判に持ち込めないかもしれない。しかし、ここまで疑わしければ、GMの職もあやしいし、被害者を愛していた妻の愛を勝ち取ることは到底不可能になるだろう。この辺で妥協しておくべきとコロンボは考えたのだろうか。それなら、前回に引き続きコロンボの数少ない失敗たんのひとつといえる

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