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第一章 第七項「サンロラル攻防戦-2-」

 先端に重心を置いた歪な剣は斬撃の威力を強化する作りになっている。それ故に突きによる攻撃は想定しておらず、またしたところで効果は薄い。剣としての機能を一つ失う変わりに、トップヘビーのこの剣は斬撃能力をより強化させたのだ。また、剣先が重たいと言う事はただそれだけで敵に対して脅威になり得る。


 耳を劈く衝撃音と共に周囲を照らす閃光が瞬き火花が盛大に飛び散った。


 歪な剣を操るのは神御達に対して敵勢力のMAVRSだ。麻色に濃緑の斑模様が描かれた装甲を持つ近接型のパーツ構成の機体だ。見た目はゼフトグライゼンと同じ人型二脚型。斑模様の装甲はまるで陸軍兵士を彷彿とさせる。


 刀身を欠けさせながらも武器の重量を目一杯に押し出した攻撃によってゼフトグライゼンは後へと一歩下がる。防御に回した光刃を持った手が弾かれた。敵のMAVRSは追撃を行うべく、がら空きになった胴体に向けてもう片方の手に持つ射撃兵装であるショットガンの銃口を向けると躊躇いもなくトリガーを引き絞った。


 銃身を二つくっ付けた形となっており、飛び出す薬莢は当然二つ。赤い薬莢は銃口から飛び出すと直ぐに炸裂し、中から無数の弾丸が拡散して飛び散った。弾丸一発一発は小型ではあるが、その総数は30にも及ぶ。薬莢が炸裂した後は放射状に拡散する為、距離が離れれば離れる程着弾数は減少する。しかし、逆に近ければ近い程に攻撃力が増す。


 銃口からゼフトグライゼンまでは10メートルにも及ばない至近距離。飛び出した小型弾30発全てがゼフトグライゼンの白銀の装甲を強かに叩いた。


 ショットガンは攻撃力もそうだが、同時に複数弾による衝撃も強力な武器だ。例え小型弾がゼフトグライゼンの装甲に傷を付ける事はできなくとも、衝撃は十分に与える事ができる。装甲を叩く連続音と共に白銀の機体は更に一歩、二歩と後に下がった。


「っそ! これでも食らえっ!!」


 連続で攻撃を加えられた事で頭に血が上った神御は応酬とばかりに左手のライフルの銃口を敵に向けた。


 ゼフトグライゼンが左手に装備するのはバトルライフルと呼ばれる武器だ。一般的に使用されるライフルよりも銃口が大きく、使用される弾丸も特殊な物となっている。MAVRSも物資も枯渇しかけているトラロトリアにおいては非常に貴重な武器であるが、この作戦の重要性を考慮し、かつ携帯できる弾数に制限がある為に少ない弾数で敵を仕留められるこの武器が選ばれた。


 普通のライフルに比べて連射性能は劣るが、それでもショットガンやスナイパーライフルに比べれば十分な瞬間発射数を持つ。引かれたトリガーによって銃口から三発の特殊弾が螺旋回転を描きながら真っ直ぐと目の前の機体――全周囲モニターには『ドランディエロ』と表示された――へと吸い込まれた。


『ふん。――この程度』


 撃ち出された特殊弾が打ち抜いたのはドランディエロの残影を捕らえただけであった。サイドサブスラスターの閃光を瞬かせて斑模様の機体は猛烈な勢いで横へとスライドすると、建物の影へと滑り込んでいった。標的を失った弾は背後にあった建物へと吸い込まれると、歪な形へと変形して大きな穴を穿った。


「シンゴ、落ち着いてっ! 幾らこの機体のスペックが高いって言っても無闇矢鱈と行動してちゃ意味がないわ! ライフルは牽制用と割り切って光刃でダメージを与えるしかないわ」

「そんな事言ったって、光刃は効かなかっただろ?」

「効かなかったのは相手が使っていた武器が問題よ。あれは熱を持って対象を斬り裂く武器。光刃も性質は似ているから、なんとか受け止められていただけ。その証拠に、あの武器の刃は打ち合う度に欠けていたわ」


 そうだっただろうか、と神御は記憶を掘り返す。しかし、近距離での切り結びに意識を集中させていたせいで回りが見えていなかった。視野が狭くなっていた自分を叱咤しつつも、神御はジゼルに感謝した。そしてMAVRSが二人のパイロットで運用される意味も、僅かではあるが分かった。


「落ち着いて、まだ敵はこちらに意識を向けているから一機ずつ確実に撃破していくわよ?」


 ジゼルの宥める口調に神御は頭の熱が下がっていくのを感じた。何度か頭を振って気持ちを切り替える。ジゼルも気持ちを入れ直し、両手を広げる動作を持って複数のシステムを呼び出す。


 音や振動を検知する複合センサーを全周囲モニターとリンクさせ、周囲の地形を上空から見たサテライトマップと呼ばれる平面地図に反映させる。立体的ではない分、正確な高度は分からないが位置は分かる。マップ上に三つの光点が現れる。一つは先ほどの斑ペイントのドランディエロだ。光点の移動速度からして匍匐移動中であろう事が分かる。それを確認しつつ、ジゼルの視線は素早く残り二つにも移動する。


「こっちはすぐとして……こいつは、様子見をしているの? 状況を見て先に進まれたら不味いわね……。シンゴ、ちょっと不味いかもしれないわ」


 ジゼルから送られてきた敵の位置を見て神御は舌打ちをした。最初の奇襲である程度の混乱は与えられたものの、少し時間を掛け過ぎたようだ。街の左右に展開していた近接型は直ぐに反応して迎撃にきたものの、他の機体は状況を見ているのか、光点はまったく動いていない。地面に足を下ろしているお陰でジェネレーター音が響いており、それをセンサーが捕らえたお陰で居場所は分かっている。


「この二機に足止めされてる間に他の奴がカーヴェントに攻撃を仕掛けたら……」

「そうなるかもってのは最初から分かってただろ? 兎に角今は一機ずつ確実に潰していくだけだ!」


 グンっと体に掛かる圧力が増加する。景色が一気に横へと流れていく。サイドサブスラスターの瞬間点火で機体の向きが一瞬で切り替わる。正面に建物から飛び出してきたドランディエロの姿が映った。


「そう、ね……。うん、大丈夫。さぁ、一機ずつ確実に倒していくわよ!」


 神御を宥める為に言った言葉が今度は自分を励ます為に使われるとは思っていなかったジゼルは思わず苦笑いを浮かべた。


「おうっ! いくぜっ!!」


 メインスラスターを点火させ、白銀の煌きが残光となって尾を引く。左手を前に突き出してバトルライフルのトリガーを引き絞る。飛び出した特殊弾がドランディエロに襲い掛かる。ドランディエロはサイド、フロントのサブスラスターを仕様して器用に弾を回避しつつ、ショットガンの散弾を応酬として放ってきた。神御はあえてそれを受けつつも、機体のバランスをやや強引に保ちながら突進する。


「せ、あぁっ!」


 光刃が大気を焼く音と共に逆袈裟懸けに振り抜かれる。青白い光は敵を捉える事なく、青色の軌跡を描いた。それをかき消すように先端を潰したトップヘビーの歪な剣が襲いかかる。神御はカウンターを予想してフロントサブスラスターを使用してギリギリの所で回避する。ドランディエロが追撃の為にショットガンのトリガーを絞った。


「二回も食らうかよっ! お、らぁっ!」


 半身を逸らして散弾の一部を回避する。全弾ヒットであれば機体バランスは大きく崩れるが半分、更にそれ以下ともなれば推進力が桁違いのゼフトグライゼンならそれを無視して行動できる。グンっと上体が沈んだかと思うと、次ぎの瞬間には銀色の機体は敵の眼前にまで迫る。まさに気合一閃の一撃がドランディエロを捉える。


『な、めるなあぁっ!!』


 強引とも言えるスラスターと機体制御によって腕を引き戻すと、ドランディエロは胸の前に歪な剣を滑り込ませた。ギリィっと金属が削られる甲高い音が響き渡る。ジゼルの言う通り、歪な剣は光刃と完全に均衡できる武器ではなかった。トップヘビーという風変わりな形状と共に刀身全体を高熱にする事で対象を抉り斬る物だ。大きく分ければ剣という部類に入るが、その刀身はかなりの分厚さを持つ。刀身には大型シールドと同じ素材を使っている為、防具としても使える一品である。


 素材の肩さと厚さによって防いでいたが、それも限界を迎え始める。光刃によって刀身の端を抉り取られ、更にもう一撃を防いだ所でヒビが走った。刀身の中程が窪むように欠ける。後もう一撃を加えれば、歪な剣は攻撃を受け止めきれずに破壊されてしまうだろう。それを狙って神御は光刃を持った手を引き戻し、狙いを定める。


「――シンゴ、上よっ! 左の建物にまで回避して!」


 怒声に近い警告の声が上がる。神御は敵を視界に捉える事なくジゼルの警告と指示した場所へと向けて機体を動かす。上体を屈めると、寸前の所を鋭い光を放つ実体剣が通り過ぎていった。外部から音を取る高集音機が小刻みに震えるような音を拾う。


「うぉ!? もしかして、あれって高周波ブレードとかいう奴か、もしかして?」


 地面の上を滑るようにし、正面に敵機を捕らえつつもゼフトグライゼンはジゼルが指定した大きな尖塔群のある建物の影へと逃げ込む。全周囲モニターとリンクしたサテライトマップにはドランディエロに追加して『ランカード』と表記された。


 破損した歪な剣を投げ捨てるとドランディエロは背腰部にマウントされたハンドガンを手に取ると新しく参入してきたランカードの後へと移動した。恐らくは近接戦の要である実体剣を失った事で前に出る事を諦めたのだろう。ランカードはそれを了承するように、背中にマウントされていたもう一つの高周波ブレードを手に取った。こちらは近接戦をより強化してきた。


「高周波ブレードは振動で対象を斬り裂く剣。光刃も近い性能を持っているから、恐らくはまた防がれるでしょうね……。それに加えて、ショットガンとハンドガンの援護付き。こっちは光刃にバトルライフル。余計に不利になったわね」


 やれやれとおどけた調子で嘆息するジゼル。不利に不利を重ねられすぎて逆に自分達の状況に呆れに似た感情を抱いたのだ。勿論、それで諦めるという思いを抱く事はないが。


「さて、どうやって切り抜けるか、か……。あの二体を無視して外に居る奴を狙うってのはちょっと無理っぽいよな」


 サテライトマップに意識を向ければ、港町サンロラルの外、およそ300メートル程はなれた位置に三つの光点が光っている。降下途中に確認した三機だ。今は様子を見ているのか、それとも神御達が射線に入るのを待っているのか。少なくとも今直ぐに首都カーヴェントへ向かうという事はしないようだ。神御達にとっては幸運ではあるが、同時に不思議さもあった。


「取敢えずは動かないでいてくれるのは有難いと思うべきか……」

「なんであれ、そう長くは時間を掛けてはいられないわ。撃破はできなくても、機動力くらいは最低限奪わないとあっちの三機のところにはいけないわね」


 敵の懐に入っての戦いを専門とする二機を相手では逃げるのは難しい。仮に上手く突破して残り三機に攻撃を仕掛けたとしても、直ぐに撃破はできない。梃子摺っていては二機に追いつかれ、神御達は五機のMAVRSを相手にするという最悪な事態に陥ってしまう。もっとも、一番の最悪な事態は狙撃機により攻撃も加えた事態であったから、それに比べれば僅かではあるが、マシである。


 さてどうするべきかと神御が悩んでいると、痺れを切らしたようにランカードが高周波ブレードを構え、メインスラスターを吹かせて猛進してきた。神御は逡巡していた思考を一端止め、バトルライフルを背腰部にマウントさせると左手にも光刃を持たせ、ランカードの攻撃を寸前で受け止めた。ランカードはスラスターの推進力を加えての突進であり、神御は攻撃を防ぐだけで精一杯で逆方向へのスラスターが間に合わず、後退させられて建物へと激突した。


「ぐっ、うぅ……こ、のおぉ――!!」


 ゼフトグライゼンのメインスラスターが吹き上げるマグマのように火を吹き機体が持ち上がる。ジゼルが巧みに姿勢制御を行って全身に力を入れるようにランカードを押し返し始める。ゼフトグライゼンの姿勢が戻っていくのを感じたランカードはサブスラスターを駆使して一端互いの武器を弾くと後方へと飛び退る。ランカードの機影が目の前から去ると、それと後退するようにドランディエロが飛び込んできた。


 ドンっと発砲音を響かせてハンドガンから発射された弾丸がゼフトグライゼンの頭部へと着弾する。それで傷を負うことはないが、MAVRSの全周囲モニターの一つ、正面を捉えるのは頭部のカメラアイだ。着弾の炸裂光で一時的に神御とジゼルは両機影を見失った。高周波ブレードもショットガンも喰らうものかと神御は慌てて光刃を滅多矢鱈と振り回した。


「シンゴ、落ち着いて! ――これで! 一端距離をとって体勢を立て直すのよ!」


 サテライトマップからの予想立体マップを正面へと表示させる。白い背景に青色の直線だけで描かれた簡素なものではあるが、まったく見えないよりはずっとマシである。千金してきたランカードを表す光点が大きく輝く。どう攻撃してくるかが分からず、神御は後方へと飛び退いてサイドへとスライドし建物の影へと隠れる。


 滑り込みながらバックサブスラスターを点火させて機体の慣性移動を相殺させる。しかし、建物を飛び越えて上空へと上がったドランディエロの光点を見つけて神御は回転するようにターンを決めてハンドガンの弾を回避する。石畳の上を火花を散らしながら滑る様に移動して建物を盾にして逃げ回る。


「この状況、どうにかしないと逃げ続けるだけになるぞ……」


 苦虫を噛み潰して吐き捨てるように呪言のような思いで呟きながら神御はどう打開すべきかと思考を巡らせる。


 その時だった。


 ピっと音が鳴るとサテライトマップが二人の視界に入るように移動した。二人は驚きながらもそちらへと意識を向けると、事態を知って驚きと焦りを同時に抱いた。


 サテライトマップに残っていた三つの光点。それが中心地点から離れていくのがリアルタイムで表示される。中心地点は勿論、ゼフトグライゼンだ。


「不味い! カーヴェントへ向かうつもりよ!」


 悲鳴めいたジゼルの声が響く。神御も舌打ちをして悔しさと歯痒さを滲ませた。今直ぐにでも三機の足止めに行きたい思いは溢れる程にあれど、ドランディエロとランカードの二機がそれを許さない。


 漸く頭部カメラアイの機能が戻ってモニターがクリアになる。直ぐに高周波ブレードを構えて突っ込んでくるランカードの機影をセンサーが捉える。視界の端に置いたサテライトマップには正面から迫るランカードと、迂回して背後から挟撃を行おうとしているドランディエロの光点がある。


 腰をぐっと落として力を溜める。両手の武器を強く握り締めてメインスラスターをフルブーストで点火させた。

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