無音の警告
※グロテスクな表現が含まれます。
15歳未満の方、このようなものが苦手な方は、閲覧をお控えください。
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青年は、それを見て立ち尽くした。
ヒト型がうつらうつら、ふらつきながら動いている。
それの瞳は死んでいた。
心のない、ブリキのおもちゃのように。動きながら、死んでいた。
だから、それを生きていると呼んでいいのかわからない。
何かをするわけでも、何かを求めているわけでもない。
そんなものは、とっくに諦めたというように。
鼓動を打った屍たちは、あてもなく、ただ街の中にいた。
よそ者の青年を気に掛ける者も・・・それどころか、気づくも者もいない。
いや、そこにいる者同士でも、気を掛け合っている様子はない。
ここは、国に見捨てられた街だ。
国が捨てた街だ。
多くの者は逃げ出した。
その先どうなったのかは知らないが、その多くはどこかで野垂れ死んだと風の噂で聞いた。
役所は、見捨てられたその日に焼かれた。
キャンプファイヤーのように激しく黒い塊になって散った。
病院からは、医者と看護師は全員逃げ出していた。
ラブホテルと化していたそこには、食す欲を誤魔化す為の叫び声が微かに響く。
警察が、盗んだイモを咥えて、自分のためだけに今日を凌ぐ。
母親が、自らの乳飲み子を闇の世界に売りさばく。
乳の味を知らない細く小さな身体は、泣くことも教えられぬまま、汚い手の中へ堕ちていく。
干上がるアスファルトに、干からびた死体が落ちている。
それを喰らうのは、骨と皮の細身の野良犬のような子ども達。
服や体・口の周りに着いた赤黒いドロッとしたものは、最早、誰の何のモノかなんてわからない。
思わずぞっとした。
自分が人であり、
・・・・また、この目の前にある者たちも同じ人という類ならば、夢から覚めたい。
これは悪夢だ。
悪臭で鼻が曲がる。
目を思わずぎゅっと瞑ってしまいたくなる。
・・・いいや。これは現実だ。
こんな場所見なかったというように、今すぐ後ろを向いて走り去ってしまいたい。
これは、現実か?
・・・あぁ、そうだ。未来に起きる、現実だ。
・・・その映像は、音もなく語っていた。
未来から、送られてきたたった数分のビジョン。
現実に戻っても、胃の中がキモチワルイ。
リアルすぎるそれは、いつかの未来。
これは警告だ。
愚かな人間への。
あり得てしまった未来からの、最終警告だ。
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