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本当に飴だったのか?

「あれ、緋色たちだ。今日は部活終わったのかな」


 晃希がはっとしたように後ろへと視線を巡らせ言った。


 晃希の家の門前で話をしていたおれは、後ろを振り返った。

 遠目ではあるが、二人の姿が見えた。

 今日あいつらはいないみたいだ。よかった。


「翔くん、晃くん、今日は早いね。サッカー部、練習終わったの?」


 おれたちの姿を見つけるなり、駆け寄ってきた緋色が声をかける。


 里花はしおらしく晃希に「こんにちは」と軽く頭を下げてあいさつする。

 晃希にだけだ。


「うん。あまりに早く終わったから、ついついここで話をしていたんだよ」


 晃希が目を細めて緋色に話しかける。


「じゃあ、里花ちゃん、また明日ね」


「うん、バイバイ」


 緋色は里花に別れのあいさつをすると、家の中に入っていこうとした。

 数歩進んだところで、立ち止まると、こちらのほうを振り返った。


「翔くん、今日時間ある?」


 緋色がおれに聞いてくる。


「ああ。あるけど・・・」


 何だろうと思いつつ、返事をする。これから宿題をしようと思っていたけれど、それは夜に回せばいいか。緋色の用事が優先だ。


「よかったぁ。勉強を教えてほしいの」


「いいよ」


 緋色の頼みを断れるわけがない。

 自分を頼ってくれるのは嬉しい。


「教科は?」


「数学。翔くんんちに行った方がいいのかな?」


「おれが行く。準備して待ってて」


「うん。ありがとう。待ってるから」


 緋色はにこっと微笑むと、家の中へと入っていった。


 待ってるから、緋色の言葉を思い出し、心が浮足立つ。

 緋色と一緒にいられるのは嬉しい。

 その辺を走り回りたい気分だ。例えそれが勉強であっても・・・・・

 緋色の消えた玄関をしばらく眺め、顔を元に戻すと、晃希と里花の視線とかちあった。


 生暖かい視線がそこにはあった。

 おれは気づかないふりをする。

 おれの気持ちなどとうに知っているはずの二人になんといえばいいのだろう。 気まずくてしょうがない。おれは黙ったまま、顔をそらした。


「そういえば、里花ちゃん。担任から聞いたんだけど」


 晃希が何とも言えない空気から救ってくれた。


「何でしょう?」


 ちょっと小首を傾げながら、晃希を見た。里花は相変わらず、しおらしい態度だ。


「うちが大変なのかって、お母さんが入院でもしているのかって・・・妹さん、家のことして大変だなって言われたんだけど?」


 有希子さん? 入院? 

 初耳におれは驚いて、晃希を見た。


 晃希は観察するように里花の顔をじっと見ていた。


 入院なわけはないか。有希子さんの顔はいつも見ていたし、今日も朝から見た。じゃあどこからでた話なんだ?


「そうなんですか?」


 里花は眉を顰め、聞いてくる。

 その顔が何とも白々しい。いつも緋色といるのだから、家の事情にも詳しいはずだ。

 緋色も何かあれば黙っていないだろう。

 こいつか、うわさの出どころは。

 晃希もわかって言ったんだろうな。里花の反応を見たくて。

 おれは黙ってみていることにした。


「いや、そういうわけじゃないけどね。ここ何年も寝込んだところ見たことないくらい元気だからね」


「ですよね?」


「でも、あんまり先生が心配するものだから、もう大丈夫です。完全回復しましたからって言っといたから」


 晃希はにっこりと微笑んだ。


「そうですか。晃希さんも迷惑だったですね・・・うわさって怖いですね」


 里花はいけしゃあしゃあと言い放つ。

 自分がうわさの元だろうに。


「そうだね。うわさって怖いね」


 苦笑い、それだけだった。晃希もこれ以上問いただすようなことはせず、咎める気はなさそうだった。男子達に断るための口実だろうが、それにも限度があるからな。ちょっと釘をさしておきたかったんだろう。


 里花にはおれも聞きたいことがある。


「なぜ、あいつらなんだ?」


「なに、急に」


 わけがわからないというような顔でおれを見た。

 あいつら・・・名前は知っているが、言いたくもない。あいつらで十分だ。

「家まで送るんだったら、あいつらじゃなくてもいいだろ。おれたちがいるし」


 そうなのだ。わざわざ、別の男に送らせなくても。おれがいる。晃希だっている。家だって隣同士で、それが一番いい方法なのに。


 里花はおれの顔をしげしげと眺め、言った。


「必要ない。藤と佐々で充分よ。満足しているし? それに緋色も楽しそうだし?」


 口の端を引き上げると、ニヤッと嗤った。

 底意地の悪い笑みを浮かべ、おれの気持ちを逆なでするような態度。

 緋色も楽しそう? 最後のせりふは絶対嫌がらせだ。

 時々、不意打ちで毒舌を投下する。

 里花はそれだけいうと用はないとばかりに去っていく。

 晃希にはさよならと挨拶をして。


 少々呆気にとられ、しばらく呆けていると、隣から、クックックっと忍び笑いが聞こえた。おれたちのやり取りが可笑しかったのか、晃希が口元を押さえ、笑いをかみ殺していた。


「どうせ、笑うならちゃんと声を出して笑えよ」


 おれは不貞腐れたように憮然として言った。


「じゃ、遠慮なく」


 晃希は言うが早いか、お腹を抱えて笑い出した。

 涙まで流して。何がツボにはまったのか。


「里花ちゃん、ナイス。あのキャラいいよね。うん、いいよ」


 晃希はひとしきり笑った後、楽しそうにつぶやいた。


「どこが・・・ただの生意気なやつだろ」


 里花を気に入っているような晃希の言葉に、ますます腹が立つ。

 初めて会った時からあいつはおれの天敵だ。


「それは翔から見たらね。おれにはかわいく見えるけどな」


「好きなのかよ」


 晃希と里花が付き合う? 

 想像したくもない。やめてくれ。

 一生の付き合いになるかもしれないじゃないか。


「そういう意味じゃないよ。普通の一般的にかわいいと思っただけだよ。お前に容赦ない所とか、今一つ考えが読めないところとか・・・」


 それのどこが一般的なかわいさなんだ。ずれてる。

 晃希、お前変だぞ。大丈夫なのか。心配になってきた。


「翔もあんまり意地張るのもね。里花ちゃんに対してもう少し、素直になったら?」


 諭すようにおれの肩をポンポンと叩く。


「お前、どっちの味方なんだよ」


「里花ちゃ・・・いやいや、もちろん翔だよ。親友だろ?」


 とってつけてような言い草に、反論する気も失せる。


 晃希をひと睨みし、小さくなった里花の後ろ姿を見ながら―――

 腹黒里花め、覚えてろよ、おれは心の中で叫んだ。


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