読みが甘かったよね
「ただいま」
玄関のドアを開けるとまず、飛び込んできたのは、見慣れない二足の靴。
緋色や里花ちゃんと靴のサイズとは明らかに違う大きさ。
男物だと一目でわかる、学校指定の白のスニーカー。
これを見た途端、背中に冷たい汗が流れたような気がした。
翔も気づいたらしく、靴を凝視している。怖いくらいに表情が消えていた。
いつまでも玄関先に突っ立てるわけにはいかないので、二人で家にあがり、玄関近くのリビングへと足を進め、恐る恐るドアをノックする。
ここはフローリングと畳の二間続きの部屋で、普段おれたちが遊ぶ時や勉強会をするときに使っている。おれたち専用の部屋。
ここに入るのは限られていて、おれと緋色、翔に里花ちゃん、亮兄ぐらいだ。
今までは―――
「どうぞ」
里花ちゃんのいやに明るく聞こえる声。
嫌な予感しかしないけれど・・・
ドアを開け、目の前に広がっている光景にしばらく何も考えられなかった。
大きいとはいえないテーブルを前に、緋色を真ん中にして、身を寄せ合うようにして、プリントを覗き込んでいる三人。
一人が問題を指さしながら、緋色はシャープペンを手に持ち、もう一人と共に真剣に話を聞いている。
勉強熱心なのはいいことだけど。三人とも顔が近すぎるほど近い。
引き剥がしてやりたいくらいに。
翔の前でそれはないだろう。
里花ちゃんはというと、自分の役目ではないとばかりに、一人掛けのソファにゆったりと腰かけて雑誌を広げていた。
「こんばんは。お邪魔しています。晃希さんたち、来てくれたんですね。よかった。お待ちしておりました」
里花ちゃんはおれたちに丁寧にお辞儀をすると、にこにこ、にっこりと、今まで見たことのないくらいの満面の笑顔で微笑んだ。
翔はますます表情がなくなって、顔面蒼白。
他の男子達との仲良さげな姿を見せられて、心にかなりの痛手を被ったに違いない。
かわいそうに。
騙された。
抜き打ちで、この状況はないよね。
里花ちゃん。こういうことは事前に知らせておいてくれないかな。
おれにも、心の準備が必要なんだよ。
それに―――
彼らが来ると知っていれば、翔は誘わなかったよ。
絶対に。