緋色の隣にいるのは?
中学二年生になってやたらと身辺が騒がしくなった。
桜木緋色。隣に住む一つ年下の幼馴染みの女の子。肩を覆う栗色がかったさらさらとした髪と人形のように整った顔立ち、小柄で細い手足。美少女だとは思っていたけれど。
こんなにモテるとは予想していなかった。おそらく、校内の男子の大半は緋色に興味があるんだろうと思われた。寄れば必ず緋色の話題。かわいいだの、付き合いたいだの、誰が振られただの、毎日のように飛び交ううわさに、聞くふりをしながら内心顔をしかめていた。
今更、幼馴染みだと友達にもいえなくなった。言ったところで、紹介しろとか橋渡しを頼まれるのがおちだ。緋色とはただの幼馴染みなのだから。
緋色の兄の晃希、おれの幼馴染みでもある、やつも言っていた。
『緋色と兄妹とわかると、途端に友達が増えるんだよね。そいでもって、紹介してくれって』
うんざりした顔でぼやいていた。
だから、学校では会ってもお互い知らんふりを決め込んだ。
里花にそうしてくれと頼んだからだ。彼女は何も言わず了承してくれ、緋色を上手く言いくるめてくれたらしい。
学年が違うから滅多に会わないけれど、それでも、ニアミスすることはある。
その時は目も合わせなかった。完全に無視をした。
そういうことだから、おれたちが幼馴染みだということは誰も知らないだろう。
これからもいうつもりはない。
そんな中、救いだったのは緋色が誰の誘いにも乗らなかったことだ。
当然といえば当然のことではあるけれど、里花が言葉巧みにすべての誘いを断っていた。緋色に任せてはおけなかったのだろう。素直な緋色のこと、あれよあれよという間に、男どもに約束させられてしまうかもしれないからだ。
そのことに関しては里花には感謝だ。あまりに見事に断るので、そのうち、里花を攻略すれば、緋色とデートができるとゲーム感覚的な状況も出来つつあった。
これはこれでどうかと思ったが。
一か月がたち、中間テストも終わり、季節が夏へと向かう頃だったろうか。
信じられないようなことを聞いた。
緋色が男子二人と帰った・・・正確には里花も含めて四人だが。
教室でその話を聞いたときは、うそだろうと思った。でも何人も見たという。部活が終わった後の下校時間。周りの生徒たちはまた振られるんだろう。
しかも公衆の面前でよくやるよなと好奇な目で興味津々で成り行きを見ていたらしい。
ところが、何度か会話を交わしたあと、一緒に帰った、ということだった。
おれは怒りに震え、奥歯をかみしめ、手を力いっぱい握りしめた。
なぜ、男たちを緋色に近づける。今まで散々断っていたのは何だったんだ?
こんなにあっさりと緋色のとなりを許すのなら、あいつらでなくてもいいはずだ。
それからは毎日のようにあいつらは一緒に帰る。
仲の良さそう姿を見かけるたび、ムカムカしてくる。
緋色の笑顔が、おれではなく他の男にむける笑顔が心に痛かった。兄貴だけでたくさんなのに、これ以上他の男と仲良くなんてしてほしくない。
くそうっ・・・里花のやつ、何を考えてやがる。