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レーティシアの翼  作者: 晴れたらいいな
プロローグ
6/11

天使の降りた街 第五話

 壁の向こうでは三人の聖騎士が突然現れた濃い霧に戸惑っていた。


「この霧は何だ?」


 そして、そんな三人の背後から声がかけられた。

 その声に反応して、三人が声が聞こえた方を振り向くと、霧の向こうから白銀の鎧を装備した男が一人現れた。

 その姿を確認して、三人は姿勢がサッと正した。


「ハッ! 魔女が逃走のために使った魔法が原因だと思われます」


 中央にいた一人が現れた男に状況を伝えた。


「追えるか?」

「現在別部隊が追跡中ですが、この霧では難しいかと」

「クソッ、魔女め! 何があってもお前たちをこの町からは逃がさんぞ!」


 男はそう吐き捨てると、二人が逃げたであろう方向を睨んだ。





「ふぅ、……これでしばらくは大丈夫かな」


 シアがホッと息を漏らしセインの方を振り返った。


「いったいさっきのは何をやっていたんだ?」


 振り返ったシアにセインは今さっきまでシアがしていたことを尋ねた。

 ここまで逃げてきたシアがしたことは、自分たちを囲むような円陣を地面に描き目をつむり何かの呪文を唱えたことだった。


「簡単な結界を張ったの」

「結界?」

「うん、えっと簡単に言うと、この円の中に居る私たちに周りが気がつかなくなるモノ。かな」

「………………便利なモノもあるものだな……」


 その説明にセインは視線を、自分を取り囲む円陣に向け、次にシアの方を見て感嘆の声を漏らした。

 それにシアは苦笑を浮かべながらそうだねとうなずいた。


「……なぁ、この結界?や。さっき突然壁とか霧を出したあれが、魔法なんだよな?」


 落ち着いたところで青年がさっきのが魔法だったのか訪ねる。


「うん、そうだよ」


 それを肯定するシア。


「じゃ、じゃあ、あれらの魔法を使うために、その……やっぱり、悪魔と契約とか、子供を生け贄とかにするのか?」


 セインはそう恐る恐る尋ねた。


「え゛? …………何それ?」


 その内容に頬を引きつらせて驚くシア。彼女は何でそんな事を聞かれるのかがわからなかった。


「違うのか……だよな、そんな事するような奴には見えないし」


 セインはそんな彼女の反応からそれが嘘であるとわかり、良かったと安堵した。


「なんだろう、その言葉が全然うれしくない。……それよりも、さっきの悪魔とか生け贄って何?」


 セインの漏らした言葉から、彼が自分の事をどのように思っているのか何となく察して気分を落としたシアだが、すぐに先ほどの内容の意味の方が気になった。


「協会が言っている魔女の話だよ。魔女は子供や若い娘を生け贄にして悪魔を召喚し、その悪魔との契約で悪しき魔法を使うとかなんとかって」

「何それ酷い! あの人達だって似たような力を使うくせに何で魔法だけが悪とか言うかな!?」


 それを聞いてシアがそう怒鳴る。

 しかしその内容はセインに聞き逃せないモノが混じっていた。


「似たような力って、聖騎士も魔法を使うのか?」


 そう言って思い出すのは先ほど襲ってきた聖騎士の動き。普通、全身鎧をきた人間があれほど素早く動けるはずが無い。それなのに彼らは動いていた。


「あの人達が使っていたのは魔法じゃなくて法術だよ」


 もしやと思っていた考えは、すぐにシアが否定したが、代わりに出ていた聞き慣れない言葉にセインは首をかしげた。


「法術? あぁ、もしかしてあの怪我を治す不思議な力の事か」


 そう言ってセインが思い出したのは協会が神の奇跡と言って行う治療の事だった。


「そう、それ。法術は自分の身体に宿るマナを使う術で、魔法は世界に満ちているマナを使う術なの」


 シアは簡単に魔法と法術についてセインに説明するのだが、


「マナ? なんだそれ?」


 根本的な所を知らないセインにしてみれば、シアが何を言っているかがさっぱり理解できていなかった。

 それにガクッと肩を落とすシア。


「……えっと、簡単に言うと魔法や法術を使うために必要な力みたいなモノで……説明するよりもやってみた方が早いかな。セイン人差し指出して」


 マナについて説明をしようとしたのだが、元々説明とかめんどくさいことが得意じゃないシアはすぐに言葉を放棄。セインのすぐそばに近寄った。


「やってみるって、何をやるんだ?」


 セインは不思議に思いながらも言われたとおりに人差し指を目の前に出した。


「セインに魔法の初体験」

「え?」


 そして告げられた内容に、セインの表情が引きつる。

 そんなセインを見て、ニッと笑いながらレーティシアが小さく指をくるくると回す。


「今、この指先にマナを少し集めました。それをセインの指先に移します」


 端から見ていると、中で指をクルクルと回して、その指先をセインの人差し指の先に触れただけ。


「えっと……何が変わるんだ?」

「よし、今から火の事を考えて、ほら、ポッとマッチに灯る小さな光。ほのかな暖かさ」


 セインは言われたとおりに頭の中で火の事を考えた。


「そして、その火が指先に移って、そのままイメージを言葉に“火よ灯れ!”」


 そして、固まったイメージを強く思い、


「ひ“火よ灯れ”」


 ポッ!


 セインの指先に火が灯った。


「お、おぉぉぉぉ!!?」


 驚きに声を上げた瞬間、指先に灯っていた火がまるで幻のようにフッと消えた。


「…………あれ?」


 思わず惚けた声を出すセイン。その視線の先には何の変哲も無い人差し指があるだけ。

 そんなセインを見てシアがクスクスと笑う。


「魔法はイメージが大事だからね」


 何が原因かを答え、その言葉にセインも何故消えたのかを理解した。

 あれだけ驚いたらイメージなんてかき消えるのは当たり前だ。

 それにつられてセインも笑う。


「でね、マナって言うのはさっきセインがしたように集めると意思の力であらゆる現象に変化するんだけど、そのマナに二つの種類があるの。さっき私が集めたのは世界にあるマナで、それを使うのが魔法。一方の聖騎士達が使っていた法術は人の中にあるマナで、それを使うのが法術って呼ぶの」

「まぁ、何となくわかったけど、……そもそも魔法と法術はその使うマナ以外で何が違うんだ?」

「えっと、起こす現象に違いが出てくるの。魔法はさっきセインが使ったみたいに火を生み出したり、風や水を出したりとかもできて、法術は魔法みたいに何かを出したりはできないけど、代わりに自分の肉体を強くしたり、他人のマナに干渉して傷を治したりができるようになるの。……さっき聖騎士が使っていたのはこの法術でいう自分の肉体の強化だね」


 そう説明されて、セインはあの騎士が全身鎧で何故あんなにも素早く動けたのかを納得した。


「……その法術は俺にも使えるのか?」


 その理由がわかれば使いたくなるのは仕方が無いことで、セインは期待するようにシアに尋ねた。が、


「えっと、残念だけ今のセインには使えないかな」


 少し申し訳なさそうにシアは答えた。


「えっとね、法術を使うにはまず体内のマナを操れるようにならなきゃ駄目なんだけど、それを人が使うには初めに少し特殊な薬を使用しなければいけないの」


 つまり、その薬が無ければセインに法術は使えないと言うこと

「そ、そうか……なら、魔法は?」


 その内容に少し落胆したが、ふと法術が駄目ならと思い出して尋ねたが、


「えっと、魔法は法術と違って薬で何とかなるモノじゃ無くて、持って生まれた才能が必要だから、セインには無理だね」


 シアの答えはセインの希望を見事に打ち砕いた。


「そ、そっか……」


 はぁ、とため息をつくセイン。

 それをシアは苦笑を浮かべながら見つめていた。


「それにしても、これからどうしようか?」


 シアがそう尋ねると、さっきまで落ち込んでいたセインも顔を上げて真剣な表情を浮かべた。


「このままここで外が落ち着くまで隠れる……何てのは無理だよな」

「うん。この結界も認識を少しずらしているだけで、ここに存在はしているからいつかは見つかるし、一度見つかったら効果も無くなるしね」

「……簡易って言っていたって事は、これよりも見つかりにくい結界もあるのか?」

「あるにはあるけど、今ここで使ったらそのマナの動きでこの位置がばれると思う」


 シアが言うにはそういった規模の結界になると発動前にも準備が必要で、いざ発動するとしても発動時には多くのマナを使用するため、それだけでだいたいの位置がばれるとの事だった。


「じゃあやっぱり一番は、この町から出るのが最善か」


 結局その結論にたどり着く。


「間違いなく今は町の門は全部閉じているだろうから、門から出るのは無理だろうな」


 教会の聖騎士が出てきているのだ、あいつ等ならそれくらいやるだろう。


「だとしたら残るはあの壁を越えるしかないわけだが……」


 この街を囲む壁は高さが10メートルを超えている。その壁をよじ登ろうにも見張り台が一定間隔に設置されているから途中で見つかって矢で狙い撃ちされるのがおちだ。


「はぁ、この町って首都から離れてるし、交通の要所でもないんでしょ? なのに何でここんなにも厳重なの? あんな門や城壁があるわ、衛兵だけじゃなくて聖騎士までいるわ……」


 この街がある場所は首都からも離れており、特に交通の要所でもない。それなのに何故この街はここまで警備が厳重なのだろうか?


「あぁー……、やっぱり知らなかったのか」


 シアが辟易していると、セインが気まずそうに声をかけた。


「……何を?」


 ぶすっとふてくされながらレーティシアが聞き返す。


「この街って一応、ホルクス教の聖地の一つなんだ」


「………………は?」


「この街と1000年前の天使達の話はしただろ? その話を聞いた500年くらい前  の法王がこのリッセルを聖地にしたんだよ」


 だから警備も厳重になったんだ。


「………………はぁぁぁぁぁぁぁ」


 それを聞き、すっごい後悔の念を含んだ重苦しいため息をつきながら頭を垂れるシア。


「だ、大丈夫か?」

「大丈夫じゃない。…………こんな事になるなら降りなきゃよかった(ボソ」


 セインが声をかけても、それにシアは疲れたように何かを小さな声で呟くだけで、それ以上は動かずに落ち込んでいた。セインは今の説明の何がそこまでシアを落ち込ませるのかわからずにいた。


「えぇっと……、結局これからどうしようか? ……最悪、俺がおとりになってる間にシアが壁をよじ登るって言うのも――」

「その必要は無いわ」


 話題展開をはかろうと、セインは自分が考えていた最善の策を話すが、それを途中でシアが遮った。


「本当は使いたくなかったんだけど、ある意味この状況は自業自得ともいえるし……しょうが無いわよね」


 一人でそう納得するシア。そんな彼女の意図が見えずに困惑するセイン。


「ねぇ、この街で一番人の目が少ない壁の場所を教えて」

「……何か手を思いついたのか?」

「手じゃないけどとっておきのモノがあるよ」


 苦笑を浮かべながらも、その瞳は真っ直ぐにセインを見つめていた。


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