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レーティシアの翼  作者: 晴れたらいいな
プロローグ
5/11

天使の降りた街 第四話

 広場から逃げてきた二人は、人影の少ない路地裏で立ち止まり、身を隠していた。

 誰も自分たちを追いかけてきていないことを確認すると、セインはホッと肩の力を抜いた。そして、自分がとった行動を思い出した。


「あぁ、くそう!! こんな事になるなら……」


 セインは目をつむり、頭に手を当てて考える仕草でブツブツと呟いていた。


「ごめんね、私のせいであなたを巻き込んで」


 シアは自分のせいで彼を巻き込んでしまったを後悔していた。


「ん? いや、そんな事は俺は別に気にしていないぞ。それに巻き込んだって言うけど、どちらかというと、あれは俺から巻き込まれたいった感じだろう?」


 しかし、返ってきたセインの反応は軽く。罵倒されることも覚悟していたシアにしてみれば拍子抜けもいい所だった。


「……えっと、意外と大丈夫なの?」

「いや、よくねぇ。今俺だけ出て行ってもまず捕まるし、最悪殺されるだろうな」

「あぁ、やっぱりそうなるんだ」


 彼のその調子から思わず尋ねた所で返ってきたのは、予想通りの返答だった。この国フォルティアでは悪しき者として魔女狩りがされている事は有名で、見つかったら間違いなく殺される言われている。そのため、そんな魔女の事を助けたセインがどうなるかは考えただけで碌なモノではなかった。


 だからこそ、


「それなら何であの時私を助けたの?」


 シアはそうセインに尋ねないわけにはいかなかった。

 あそこでこの街の衛兵であるセインが取るべき行動はシアを捕まえること。間違ってもあの場からシアをつれて逃げることではない。


「いや、だってあんた悪くないだろ?」


 しかし、返ってきた言葉は、あっけらかんとした言葉だった。


「あの馬車はどう見てもただの事故だし、あんたはその事故に巻き込まれそうにになっていた子供を魔法がばれる事をいとわずに助け出しただろう? あれでシアを捕まえたり、そのままにする方が俺的には許せなかった」


 俺がさっき後悔していたのは、兵舎に置き忘れた荷物と、町を出る前に行っておきたかった店の事を思い出しただけだ。

 その言葉が本心なのがシアにはわかった。しかし、わかったからと言って納得はできなかった。


「それでも、あなたの母親は心配するはずよ」


 そう、たとえセインがなんと言おうとも、彼を心配する人にとってはそんな事は関係なく、巻き込んでしまったシアが悪いのだ。


「大丈夫だって、俺には母親どころか両親もいないから」


「――え?」


 申し訳なさにうつむくシアに、セインが言った言葉は、彼女の予想していなかった言葉だった。


「いや、そんな驚く事でも無いだろ? 俺は孤児だったから両親は居ないんだよ。それに、俺みたいな奴はそこらへんに結構いるぜ。……だからシアも俺の事でそんな悩まないでくれ。これは俺の自業自得だからさ」


 自分の言葉にシアが予想以上に驚いたことを不思議に思いながらも、セインはこれ以上自分の事で悩むシアを見たくなかった。


「ありがとう」


 そんなセインの優しさに触れて、シアは小さく微笑みながらセインに感謝の気持ちを伝えた。


「どういたしまして」


 それにセインが少し演技がかかった仕草で言葉を返し、シアがそれにクスクスと小さく笑う。

 セインもそれにつられて少しだけ笑ったが、すぐに今は時間が無いことを思い出すと、サッと、気持ちを切り替えた。


「それよりも今はこの街からはや――」


 この街から出よう。そう言葉にしようとした瞬間。


 ――――ドンッ!


 シアがその言葉の途中で突然セインを横に突き飛ばす。


 ガツッ!!


 それと同時に何か硬いモノ同士が強い力で激突する音が響く。

 シアに突き飛ばされたセインがその音の出所を見ると、先ほどまでセインの頭のあった場所を銀色に輝く槍が突き刺さっていた。

 驚いたセインがその槍が投げられた方を見ると、白銀の全身鎧を来た聖騎士が3人こちらを取り囲むようにしていた。そのうちの一人は先ほど投げた槍の代わりに、腰に装備した剣を抜き出す。


 そして、セインは理解した。先ほどの砲撃はシアではなく邪魔者のセインを先に殺そうとした攻撃であると。そして、それが意味することを……。


「あぁ、クソッ。わかってはいたけど、こう本当に殺されそうになると、嫌なもんだぜ」


 いざ命を狙われてみて、覚悟はしていたはずだがセインは悔しかった。

 そして、聖騎士達がこちらに向かってきた。

 その動きは、全身鎧のくせに重さを感じさせないほどの早く、セインはその早さに危機感を覚えて身体を起こそうとするが、倒れている現在、自分の起き上がる動作がとても鈍く感じる。

 一番に迫ってきたのは槍を投げてきた聖騎士だった。

 セインの目の前まで来た男は、自らが持つ剣が高々に上げ、それが真っ直ぐにセインに振り下ろした。


 それを見て、間に合わないとわかったセインは自分は死んだと思った。


 しかし、グッとセインの腕が力強く引っ張られて、剣はセインの身体に触れる事無く、地面に甲高い金属音を響かせた。


 驚くセインが見たのは、自分の腕を引っ張って助けてくれたシアの姿。彼女はそのまま身体を捻らせると、そのままぐるんと回りながらセインを路地の奥に放り投げた。そして、その勢いをそのまま、遠心力のった回し蹴りを、剣を振り下ろして固まる聖騎士に放った。


 その華奢な身体から繰り出したとは想像できないような音ととも、蹴られた聖騎士がほぼ水平に吹っ飛び、近づいてきた二人の聖騎士にぶつかる。


 二人の聖騎士は飛ばされた聖騎士に邪魔されてその歩みを一瞬止めた。


「“――壁と――!!”」


 セインはよく聞き取れなかったがシアが何か叫び、腕を下から上に振り上げると同時に地面が盛り上がってセイン達二人と、聖騎士達の間に見上げるほどの高さの壁が一瞬できあがる。


 その突然の出来事に、セインが驚いて目を見開いていると、今度は壁からドンッ!という音と衝撃が連続して聞こえる。それにつれて壁にも亀裂が入っていく

「あまり持ちそうにないかな」


 その様子を見てシアがそう呟く。


「“水よ霧となり隠せ”」


 そう言ってシアが軽く腕を振るったと同時に、周囲に濃い霧が徐々に生まれていき、すぐに辺り一帯を濃い霧が覆う。

 それは壁向こうにも効果が及んでいるのか、先ほどまでの壁への攻撃も止まっていた。


「さぁ、今のうちにここから逃げよ」


 その現象に惚けるセインに、今度はシアが彼の手をとってその場から連れて行った。


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