天使の降りた街 第二話
「……えっと、じゃあ私はあのときあなたに助けてもらったって事?」
スパゲッティーを巻き付けたフォークを右手に持ちながら、少女は目の前に座る青年に聞き返した。
一方、彼の方はすでに食事も終えて、食後のお茶を飲みながら、遠慮する事無く一人で何人前も食べる少女を見て、乾いた笑みを浮かべていた。
今二人が食事をとっているのは居る場所は、広場の一角にるお店のオープンテラス。丁度 お昼時の現在がピークなのだろう。店の席も全て埋まっており、二人の周りを何度もウェイターが行ったり来たりを繰り返していた。
「あ、あぁ。あの時あの男について行っていたら、今頃身ぐるみ全部はがされて酷い目にあっていたと思うぞ。これからは不用意に知らない奴について行くのは避けろよ」
この小さな身体でどこにあれだけのモノが入るんだ?
と、内心では考えつつも、彼は少女に身の危険について話した。
「ふ~ん、そっかそっか、……パクパク――やっぱり時代は変わるもんだよね……パクパク――ゴクン」
しかし、少女はそんな彼の話にこれと言って怯えた様子も、後悔する様子もなく、何か考え事をしながら、食事を続けていた。
その姿に一層の不安を覚えつつも、そこまでは自己責任だと考え、――自分の懐から消えたモノに嘆き悲しんだ。
「――ふぅー、美味しかった」
食事を食べ終えた少女を見て、彼はそろそろ帰ろうと――
「ねぇ、お兄さん」
「うん、何だ?」
呼ばれた彼はそれに何も身構える事無く、ふっと少女の方へ顔を向け、
「危ない所を助けてくれてありがとうね、後ご飯も」
「ッ――――――!!?」
不意打ちだった。
確かに彼は最初見たときから少女の事を可愛いなと思っていた(じゃないと助けない)。しかし、その後の彼女の姿からコレは無いと思っていたのに……、ここに来て少女の満面の笑顔。
――ドクンッと青年の心臓が大きくはねた。
「い、いや。困っている人を助けるのは、この町の警備兵として、当然の事だ。……何だったら俺が町を案内してやろうか?」
頬を赤く染めながら、彼は先ほどまで全く思っていなかったはずの提案を少女に訪ねた。
「えっ、いいの?」
それに少女はきょとんとした。
「あぁ、今は休憩中だし、君を一人にするのはなんだか危ないからな」
「そんな事無いんだけどな。あっでも……」
青年の言葉に不満そうな表情を浮かべる少女。しかし、ふと、何かに気づいたようでその口元がニヤリとつり上がる。
「私、どこかの誰かさんに知らない人にはついて行くなって言われてるんだよね」
その言葉に今度は青年がきょとんとして、すぐに「これは参ったな……」と苦笑を浮かべた。
「俺は警備隊南地区所属のセイナード。気軽にセインって呼んでくれ」
「私の名前はレーティシア。親しい人たちからはシアって呼ばれているわ」
「レーティシア……か。いい名前だな」
「ありがとう。でもセインもいい名前よ」
「はは、よく言われるよ。――でわ、俺がこの町を案内するけど、シアはどこか行きたい所とか、気になる事はあるか?」
「えっと、……この町の特産品ってなに?」
自然とセインの視線が目の前にある空になった食器へと向く。
「…………まだ食べるのか?」
それはおもわず口から出てしまった言葉だった。
「なっ!? そんなのは私の勝手でしょ!」
それに恥ずかしさで顔を真っ赤にして、プーッと頬を膨らませて怒るシア。
「あぁー、すまんすまん。……で、特産品だったよな。それなら……」
その怒り方が可愛いな等と内心では思いながらも、さすがに女性に言うべき言葉では無かったと思ったセインは素直に謝った。そして、シアの言ったこの町の特産品と言うものに心当たりのあった彼は、この辺にもあるはずと周囲を見渡した。
そして、すぐに目的のモノは見つかった。
「――おっ、あったあった」
セインの言葉に、シアもそちらへと顔を向けた。
そこにあったのは露店販売をしている小さなお店。
「あれ? この匂い……」
「あの店にあるのがこの町の特産品だ。さぁ、行こうぜ」
その店から漂ってくる甘い匂いに何かに気がついたシアが小さく言葉を漏らしたが、それにはセインは気がつかず、席から立ち上がった。
「あっ、うん」
それにシアはうなずくと席を立ち、セインの後を追っていた。