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連邦総局シリーズ

救出活動

作者: 尚文産商堂

本部へその一報が入ってから、部内全員招集がかかるまで、時間はかからなかった。

「総員出動か」

個人総局の沢板が、世界で唯一のパートナーの市来と一緒にいるところに、その命令が発令された。

この世界の大都市の一部分が異世界のゴミ捨て場と転換されてしまい、今では隔離区域とされている。

ルクセンブルクの隔離区域を除いては、人が住みついているのだが、黙認されているようだ。

その転換をきっかけに、事後処理のため、世界は一つの政府の下で、連邦制を敷くことになった。

連邦制だから、国レベルではまだ権限も残っている。

連邦政府は、それらの国の権限のうち、軍、警察、消防、救急、裁判、検察などの権限をもっている。

その組織名が連邦総局という機関ではあるが、それらの全ての権限を有しているのが個人総局という、個人で特別な場合に限って逮捕、起訴、極刑のみの執行権限が付与されている人たちだ。

名前通り、連邦総局を個人で行うということを念頭に制度設計がなされている。

だが、沢板と市来は、とある連続殺人事件の捜査に尽力した際、二人一組の有用性を認められ、初めてのコンビ総局となった。


「事件は、駅構内で起きている。通り魔だ。武器は刃渡り22cmの包丁。男性、身長180前後、太り気味の体型ながらも、動きは俊敏。近くの警察が周囲を包囲しているが、相変わらず包丁をもっているらしい。けが人多数、包囲内にはまだ一般人もいる。誘導をしなければならない」

沢板と市来の部長から、移動しながらブリーフィングを受ける。

「では、私たちは、一般人の誘導をしながら、犯人確保を?」

市来が部長へ返答する。

「そういうことだな」

「分かりました」

沢板が、市来に代わって部長へ答えた。

「包囲網は、強化プラスチック製のシールドをもっている。現地本部に行けば貸してくれるよう、予備をいくつか用意しておくようにと指示は出している」

部長は、そう教えてくれた。


テントなどはなく、駅長室があるため、そこを本部としていた。

近所には交番もあるのだが、大勢が入れる大きさではない。

「橋上駅舎の改札前で、周囲を囲みながら銃で狙っている」

現場長に一言言う前に、顔も見ずに説明を始めている。

簡単な行動の確認を済ませると、一斉に頑丈な防弾服を着た一団が、駅長室から飛び出していった。

それから、沢板が現場長へと伝えた。

「個人総局の沢板です。こちらはコンビの市来澪です」

「話には聞いていたけど、実際に見るのは初めてですね。現場長の鎹厳(かすがいいわお)警視正です。よろしく。さっそくですけど、現場行ってもらえますか。安全な場所はないので、機動隊員2人と一緒に、一般人の保護活動に当たってください。犯人は刃渡り22cmの包丁をもちながら、改札の内側をうろうろとしています。エスカレーター、エレベーターは停止中。それらの下側には線路が通ってますが、現在はその部分に、バリケードを築いています」

「私たちはどこから行けば?」

市来が鎹警視正に聞いた。

「あなた方は、すぐ目の前にある入口から入ってください。団体用の改札口と、駅員がいる改札口の部分に警官が立ってますので、身分証を提示してください。それ以外は、すべて閉鎖されています。それからは、現場に従って、上へ向かってください。現時点で、18名が刺されており、うち15名は収容済み、3名は救助中となっています。その他人質になっているのが、2名、うち1名は腕に出血が認められます。なお、腹ばいになって動けなくなっているのが6名います。犯人は、救助をする分には来てもいいが、半径5メートル以内に入ると、人質を殺すと言ってます」

「分かった。では、これから現場へ向かうと、先に連絡を入れておいてくれ」

沢板は鎹警視正にそう言ってから、防弾服を借り、あちこちにいる鉄道警察隊と合流し、地下1階から3階へと向かう。


2階にあるホームでは、全ての3階へ通じるエスカレーターの入り口を囲むようにバリケードが築かれている。

ただし、強化プラスチックでつくられていて、扉もあるようなものだから、簡単に中に入ることもできる。

「鎹警視正から、お話は聞いております。この盾を使ってください。我々も同行します」

警察の服を着て、小銃を背負っている男が二人、沢板と市来に話しかけていた。

「ではすぐにいこう。けが人や救出は早い方にこしたことはない」

「ですね」

市来が沢板に言った。


3階へと登ると、普段は人でにぎわっているはずの場所が、にらみを利かせている犯人と、その腕に捕らえられている人質が2人いた。

その周りには、壁際まで這って行ったあとが残る人や、そのままうつ伏せになって鳴っている人がいる。

すでにあちこちのエスカレーターから、まるでモグラたたきのように代わる代わるに出てきては、要救助者を救助していた。

ちなみに、ホームでは、救助した人たちをトリアージしていた。

「気をつけて、こっち見てます」

「ああ、そのようだな」

沢板と市来は、それぞれ別れて、救助を始めた。

犯人を見ながらも、ゆっくりと動き、一人を担架に乗せると、すばやく近くのところから戻るを繰り返した。


「私たちの仕事は、これで終わりなのかな」

「そのようだな」

全員を救助し終えると、鎹警視正からの指示で交通整理をしている沢板と市来は、しながらもそう言っていた。

上では鎹警視正が犯人を説得しているようだ。

「説得が無事に終わったら、きっと連絡があるさ」

そう言いながら、駅員に言われた通りに、封鎖しているから隣の駅や別路線へと誘導を続けていた。

「一応は、その場の指揮官の指示に従うこととされているからね。指揮系統は混乱してないから、俺たちが執行官になる要件を満たしてないし、孤立しているわけでもない。仕方ないさ」

沢板が案内しながら、市来に言った。


数分後、無線で犯人を確保したという報告が入った。

それから1時間後、ようやく警戒解除するという連絡が入った。

「じゃあ、一旦駅長室へ戻って、報告してから帰るか」

「そうね」

沢板が市来に言ってから、市来を連れて、駅長室へ二人仲良く向かった。

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