第八話 解説編
森羅万象理由はなし。
解説に理由は必要なし。
第八話 解説編
――アタラシイセカイハドウダイ?
その問いに僕は、
『僕たち』は――答えなかった。
答えられなかった。
けれど、その代わりに
「――お、にい、ちゃん?」
前触れなど何一つなく
予測など微塵もなく
不意に
不慮に
その言葉が僕の耳に届いた。
「の、ぞみ?」
ありえないとわかっていても僕はその名を口にした。
だってこの世で僕のことを『お兄ちゃん』と呼ぶのは、妹である望見だけだったから。
「――お兄ちゃん」
二度目の声。
今度はさっきよりもはっきりと、そして確実に僕を呼ぶ声が聞こえた。
ありえない――とは、今度は思わなかった。
何故なら、
その名を口にしたのは、紛れも無く自分だったと気付いたからだった。
そして、
次の瞬間、
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!!!!!!!!!!!!!!
「う、う、うああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖!!!!!!」
どこからともなく湧いてきた……いや、流入してきた激情が僕の脳内を駆け巡り、同時に血管と神経が焼ききれたかと思うくらいの激痛が全身を駆け巡った。
痛い痛い痛い痛い痛い。
熱い熱い熱い熱い熱い。
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。
辛い辛い辛い辛い辛い。
なんだよこれは。
なんなんだよこれは!!
「約400年前の西欧。正しい世界も間違った世界も総じて混沌としていたあの時代においても群を抜いてイカれていると恐れられた女、“愛染明王”ことシルヴィア=ローゼンクロイツ。愛に染まり、愛に溺れ、愛に生き、愛に死に、愛のために数十万という人間を殺した自称愛術学者、通称デッドサイエンティストによって書かれた著書『完全愛』。その第二章『心身合一~愛する者と真の意味で一つになる方法~』に記された『合一するための五箇条』」
望見の死体に覆い被さりながら引き裂かれるような痛みに悶える僕とは裏腹に、赤い存在の彼女は薄ら寒い笑顔を浮かべながら実に楽しそうに語った。そして語りながら持っていた薄い刃のナイフを振り回し、周りに溢れる瓦礫の山の影を出鱈目に切り取った。
彼女に影を、半身を、概念を切り取られた瓦礫は、その存在する意味と意義を殺され砂塵と化していく。
赤石姫士。
赤い色紙。
赤紙配達人。
ヘルブリンガー。
魔を刺し、影を刺す。
生命の死ではなく存在の死をもたらす“概念殺し”こそ、彼女がそう恐れられる所以だった。
「『1、十五歳未満であること』……まあ、これは精神、身体共に未熟な方がいいってことなのかな?」
ちなみに僕たちは先月十二歳になったばかりだった。
「『2、お互いを心の底から愛していなければならない』……うふ、この辺までだったら私とお兄ちゃんも条件に適合してるんだけどなぁ」
確かに僕は妹を、望見のことを心の底から愛していたし、
望見に至っては言わずもがなだった。
「『3、二人は必ず双子でなくてはならない』……うんうん。身体が魂の器だという前提ならば、確かに近似の器に魂を移し替えたり注入したりすることは可能性としては十分考えられるかもしれない。特にキミ達は姿形がそっくりだからね」
――どうしてお兄ちゃんはお兄ちゃんなのに、二卵性なのに私と瓜二つの姿をしているのだろう
その言葉は他でもない望見の言葉だった。
「『4、粘膜接触による相手の殺害』……この辺りからシルヴィア=ローゼンクロイツという人間の悪魔的とも言える残虐性が見えてくるよね。粘膜接触による相手の殺害。ポイントは粘膜接触を『しながら』というところじゃないことだよ。まあ、シルヴィアがここで言う粘膜接触というのもちろん一にも二にも性行為のことを示しているわけだけど、それは巷で囁かれているスナッフムービーなんかのグロさ、残虐性とは比較にならないよ。だって直接的な死因が性交渉に依るものにするなんて……ねぇ、あのデッドサイエンティストの実験台にさせられた数万の双子たちは、一体どれだけ残虐で、非人道的で、凄惨なセックスを強要されたんだと思う? 子宮を突き破られ、未成熟な骨盤を完膚なきまで粉砕された子女。行為の途中で陰茎をまっぷたつに折られたり、最終的には妹の小腸を巻きつけて己の逸物を扱かなければならなかった少年。その他にも『完全愛』の中には、それはそれは目にするだけで汚物を散らし想像するだけで精神がイカれてしまうような記述がわんさかされているけど、それを考えるとキミ達愛沢兄妹の口唇による窒息死というのは、まあなんともロマンティックなことでしょう。ところで、蛇足のようだけれど一応何故『粘膜接触による相手の殺害』かというと、これまた行為のイカレ具合とは裏腹に実に理路整然としていて『粘膜に置ける接触がどの方法よりも魂を移行、吸収、定着させやすい』ということだそうだ。ははは、魂を栄養や座薬と同列に扱っているのがどうにもこうにも滑稽に思えるけれど、基本的に粘膜というのはそういう役目を負っているからね、わからない話ではないでしょ」
わかるはずがなかった。
そして僕たちのあの行為を、そんな下衆な儀式と一緒にしてほしくなかった。
「『5、愛する者の血肉を摂取しなければならない』……博学多識な臨夢クンなら知っているとは思うけれど、死者の血肉を体内に収め、その者との融合を図ろうとすることは表裏問わず昔から数多く為されてきたことだよね。そして、偶然にもキミはキスをしながら望見ちゃんの血を飲み干した」
確かに社会的なカニバリズムについての文献はいくつか目を通したことはあった。しかし、それはあくまでも食人が行われていた記録であって、そんなふざけたことが実際に起こり得るなど――
「キミはここまで来てまだそんなことを言っているのかい?」
燃えさかる炎。渦巻く業火。天焦がす炎柱。ヘルブリンガーと呼ばれる彼女は話をしながらもその不定形で揺らめく影を片っ端から切り取り、僕たちの住み慣れた街並みを灰燼舞い散る地獄へと変貌させていく。
いとも簡単に。
むしろ当然のように。
驚くほど躊躇いなく。
もちろん思い出も思い入れもあった世界が目の前でまた一つ、また一つと無意味で無意義で無意思な砂塵に変えられていくのは、全てを理論的に捉えていく僕であっても悲しみと喪失感を感じずにはいられなかったが、しかしだからといって今の僕にはどうすることもできなかった。
「いやあ、しかし実際のところ私は驚いているんだよ。シルヴィア=ローゼンクロイツは変人として有名で、殺人鬼としては超一流の人物だったけれど、彼女の『完全愛』なんていう著書の名を聞いたことがあって、しかもそれを読んだことがあるのは、おそらく私を含めて世界に三人もいれば良い方だろう。それを、そんなマイナー中のマイナー、秘中の秘である裏側の書物に書かれている内容を、偶然とはいえキミ達はやり遂げてしまった」
「そ、そんなこと……」
「なーんて、そんなことは別に驚きでも何でもないんだけどね!!」
興が乗ってきた彼女は口が裂けてしまうかと見間違えてしまうほどの笑顔で高らかにそう吠え、握っていた二振りのナイフを自分の影にストンっと落とした。落としたナイフは底なし沼に吸い込まれていくようにズブズブと沈んで消えた。そして、自分の愛刀が無事仕舞われたことを確認した彼女は、再度開いた無手を宙空に掲げそこにあった『何か』を掴むと、
「だらあああああしゃああああああああああ!!!!」
地軸がブレるかと感じるくらいの馬鹿力で引っ張った。すると、半径200メートル以内にある僕と望見の死体以外の構造物、生物が空に舞い上がった。
「キャハハハハ!! 一流でもなければ超一流でもないその存在は、流れることを知らない遥かなる高み “零流”。間違った世界において200年間空白だった母家――全ての先頭にして何者にも不可侵の『あ』の字を埋めたその名は“血塗られた赤き家族”の『赤石』。『人間』という種の終わり、そしてそれを越えた新たな存在への可能性である“終わりの始祖”。そんな空前絶後の存在であり且つ、プリチーな私が事件の核心に触れることなく、ただの解説役と後始末に甘んじなければいけないこの状況!! やだなあやだなあやだなあ、こんなご都合主義、何でもかんでも偶然とか奇跡と言えば許されると思ってるのかな!! それとも――」
――それとも、こんなご都合主義も『ワンダーインリアルワールド』の能力だと言うのかな?
笑みが消え、
視線が死線と化し、
彼女は、
ヘルブリンガーと呼ばれる化け物が、
このとき初めて、
僕たちを、
同類を見るような目で見た。
やめろ。
やめろ。
やめろ。
僕の妹を、
僕の可愛い妹を、
「僕の愛する妹をそんな目で――」
ドクンッ
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!!!!!!!!!!!!!!
「だあああああああああああああああ!!!!」
「はははは、本当に望見ちゃんには恐れ入るよね。一人の妹として尊敬するよ」
「ぐ、ぐぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「一人の人格を破壊しそうなほどの気持ちを抱えながらも、平然と天使のような笑顔を浮かべて日常を過ごす。いやぁ、私にはとてもじゃないけど出来そうにないな……ま、そもそもそんな化け物のような想いを誰かに向けようなんてことは常人なら普通躊躇うだろうけどね」
――私たちが長い歴史が作り出した人為的、意図的な化け物だとしたら、
――望見ちゃんは間違いなく天然の化け物だよ。
痛みに悶える僕は、
頭に流入してきた執着心、依存心、独占欲、支配欲、狂気、狂喜を感じた僕は、
やはりその言葉に何も返すことができなかった。
「さて、臨夢クン。恋と愛に痛みは付きもの、いや、憑き物なのは私も重々理解しているところで、キミが只今その痛みで絶賛悶絶中なのも火を見るよりも明らかだけれど、話を……戻しても何がどうなるわけでもないからそろそろ話を進めようか」
影、概念を引っ張られ宙に舞い上がった物体は、吸い寄せられるように一つに集まっていき、最終的には百メートルを優に超える球体となった。そのあまりの質量が空に浮かぶ月を覆い隠した所為で、僕たちは月明かりが照らし出すその大きな球体の影にすっぽりと埋まってしまった。そして、彼女は何の躊躇もすることなく自分の足元に出来た球体の影に腕を突っ込み、
「想いの大きさ、歴史の深さ、存在の大切さ。アナタたちがそれぞれ抱えるものは痛いほど伝わってくるけれど――」
――それを摘むのもまた一興
空でパン、と弾けるような音がなった瞬間、
僕の生まれ育った家を中心とした半径200メートルは、
今後百年は草木の生えることのない不毛の砂漠と化した。
どれくらいの時間が経っただろうか。
周りはまだ暗いが、近くに赤い彼女はもういない。
時折吹く生暖かい夜風が、辺りに降り積もった灰のような白い砂を舞い上げる。
舞い上がった無意味な結晶は再度降り注ぎ、僕と望見の死体に降りかかる。
その度に僕は優しく彼女の体から白い砂を振り払った。
何度も。
何度も。
何度も。
しかし、何度振り払おうとも、去り際の彼女の言葉は消えなかった。
……
……
「うーん、どうやらさすがの愛沢兄妹でも、さすがの『ワンダーインリアルワールド』でも無理みたいだね」
倒れている僕を見下ろす赤石姫士。
ひどくガッカリした顔だった。
いつも素敵で不敵で、やっぱりどこか不適な笑顔を浮かべている彼女には似合わない、心底残念そうな顔だった。
「これは『完全愛』にも書いてあることだし、今の臨夢クンの状況を見れば一目でわかることだけれど、この秘術というか禁術」
成功例が一つもないんだよ。
彼女は先程影に仕舞った二本のナイフの内の一本を再度取り出して、それをぽとり、と地面に落とした。
今度は沈んではいかなかった。
「そもそも無茶苦茶なんだよ。二重人格ならまだしも二重魂なんてどう考えたって神経回路が焼き切れてしまうに決まっているだろ。例えば、一つの魂が右に行きたいと入力して、もう一つに魂が同時に左に行くという入力を身体にしたら、たちまち肉体が破裂するだろうね。事実、シルヴィアの実験で運良く……否、運悪く魂の定着に成功した七組の双子は、その後五分以内に脳漿をぶちまけて死んでるんだ。シルヴィアはそれを『問題は身体への魂の定着率ではなく、魂と魂の同期率だ』とか訳の分からないことを言って、五箇条の内の特に最後の五番目を重要視していたみたいだけれど……まあ簡単にいえば所詮双子だって魂は他人だった、ということだね」
それでもキミ達兄妹ならなんとかすると思ったのに、と彼女はいつもと変わらない過大評価を僕たちに押し付けた。
「今は望見ちゃんの魂がほとんど眠っている状態だから問題はないだろう。でも、それもあと一時間もすれば終わりだ」
彼女の魂が目を覚ました瞬間、キミ達の人生は終わるよ。
……
……
「ああ、僕の人生ってどうしてこんなに上手くいかないのかな」
泣きながら僕は人類最強のお姫様が残していったナイフを握り締めていた。
彼女は言った。
――魂がまだ定着していない今の状態なら、臨夢クンだけ助かる方法はある。
それはとても単純な方法だった。
ただ吐けばいい。
そう、
僕が飲み干した望見の血液を体外に排出すれば、それで全ては終わると彼女は言った。
ただ、
「そんなことできるはずないじゃないか……」
愛する者の血。愛する者が生きていた証。僕が奪った純血。
それを、
そんなに大切なものを自分の命を助けたいがために吐瀉物として吐き出せるわけないじゃないか。
そんな望見を冒涜するような真似を、兄である僕ができるはずないじゃないか!!
――言うと思ったよ、妹バカ。じゃあ、そのまま死ねばいいよ。友達想いの私は、望見ちゃんの『所為』で脳漿を飛び散らせて死ぬのか、それとも自分の意思で命を絶つのかを選択させてあげましょう。
月光を浴びて煌めく刃。
その刃に映った泣き顔は、
紛れも無く我が妹の顔だった。
「ごめんよ、望見。不甲斐ないお兄ちゃんでごめんよ、望見。僕は結局何もお前のためにしてやれなかった。覚悟をもってお前とキスをしたことも、そしてそのキスでお前を殺したことも、結局全ては無駄な出来事……いや、それどころかお前の魂を弄ぶことになって、しかも極めつけはお前に僕を殺させるような事態にまでなっちゃったよ」
望見が目を覚ませば僕が死ぬ。
そう、それは望見に僕を殺させることに他ならないのだ。
「ごめんよ、望見」
ごめん。
すまない。
申し訳ない。
結局僕たちはどこまで行っても双子だから、
切っても切れない関係だから、
『こう』するしかないんだよ。
僕は誰に言うでもなくそう呟いて、
ナイフを振り上げた。
「うあああああああああああああああああああああ■■■■■■ああああああああああああああ■ああ■ああああああああああ■ああああああああああ■■ああああああああああああああああああああ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!」
ぶちゅり、と
肉を切り裂く感覚。
この日、
僕は、
何度目かの地獄を体験することになった。
終わりはまだまだ見えませんが、それでもコツコツと進めていきますのでよろしくお願いいたします。