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第一話 解決編

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 第一話 解決編



「今、どんな気分だい?」


 全てが終わった次の日。


 『ヘルブリンガー』こと赤石姫士に学校の屋上に呼び出された僕――愛沢臨夢――は、フェンス越しに街並みを眺めながらどこからともなく聞こえてくる彼女の声をただ黙って聞いていた。


「最愛の妹が死に、その最愛の妹を死に追いやった犯人を私と力を合わせて倒し、そしてその次の日に『そんな格好』をしているキミの気持ちを、私は今とても知りたいと思っているんだ」


 街を駆け抜けた初夏の風が僕の着ている……元々は妹が着るはずだった紺色の制服のスカートをばたばたとはためかせた。


「長い睫毛、物憂いな表情、透き通る白い肌、艶やかな髪。かつて世にいる全ての男性を魅了した存在。そして今は失われてしまったキミの妹、愛沢望見」


 きっと後ろを振り向いたところで彼女の姿はないだろう。あの物語の道理というものを、お約束というものを弁えている彼女が、今更終わってしまった物語の後書きに出演することはまず考えられない。


 赤石姫士。


 赤い色紙。


 赤紙配達人。


 ヘルブリンガー。


 異端の中の極端。


 血塗られた赤き家族の末子。


 そんな空前絶後の存在に出会えたこと、そして恐れ多くもそんな彼女と友誼を結んだことは、僕にとって良いことだったのか悪いことだったのか。その辺りのことは全てが終わってしまったこのときを以ってしても全く皆目見当もつかないが、しかしそれでもその偶然の出会いが僕の人生を圧倒的に致命的に決定していったのはまず間違いなかった。


「偶然? おいおい、キミは何を言っているんだ。決定? おいおい、キミは何を言っているんだ」


 彼女が笑った。いや、声が笑ったような気がしただけだから実際の彼女がどんな顔をしているのかはやっぱり今の僕にはわからない。彼女はいつだって不敵で素敵でやっぱりどこか不適な笑顔を浮かべていて、すでに存在自体が世界の全てを小馬鹿にしているような人だが、それでもこと兄妹という話題に対しての彼女は尋常じゃないくらいに真面目になる。そう、彼女は人外の化け物で超越者であるけれど、その前に一人の少女であり、妹なのだ。


「キミが真犯人なんだろ?」

「……」

 

 すでに日は傾きかけていた。今日の夕日は溶鉱炉の中の溶けた金属のように粘性に富んでいた。そのドロリ、とした赤銅色の光を浴びた街はまるで業火に包まれたかのようで、そしてその光景は否応なしに三年前の記憶を僕に思い出させた。


 三年前の、


 僕の街と、


 世界と、


 そして妹の命を奪っていたあの日のことを。


「冗談はやめてくれ」


 僕は誰もいない空間に向かって語気強げにそう呟いた。いや、強いて言えば彼女が潜んでいそうな場所――屋上に敷き詰められたブロックに映る僕の影――に向かって呟いたのだが、この際彼女がどこにいるかなんてことはどうでもいい。そう、いくら性格温厚であると自負している僕であっても、すでに深い眠りに付いた妹にこれ以上好き勝手なことを言われるのは我慢できないのだ。


「僕は何もしていない」


 愛しい存在。


 かけがえのない己の半身。


 さすがに目に入れたら痛いけれど、


 それでも食べちゃいたいくらい可愛い僕の妹。


 そんな大切な人が殺されて、


 悲しくて、


 苦しくて、


 切なくて、


 僕は圧倒的に被害者なのに、


 それなのにこの結末を招いたのが僕の所為だなんて、


 どうして彼女はそんな残酷なことを言えるのだろうか。




「僕はただ――――望んだだけだよ」




 頭の中で望見が「お兄ちゃん」と呼んだような気がした。





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